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「……ねえ、フェリシア。きみはわたしよりよほど、イアンを信頼しているように見えるけど、それは気のせいかな」

 数秒考えたのち、そうですね、とフェリシアは小さく笑った。

「聖女デリアの方を信じてもおかしくはなかったのに、イアンはいつでもわたしの味方になってくれていましたから……」

 イアンはリサを想っていた。失った哀しみもクライブと同じだったはず。なのに、クライブとは違い、リサと同じ顔をしているデリアに惹かれることも、惑わされることもなかった。それがどれほど、支えになったか。

 ムッとして、フェリシアはクライブの頬をつねった。おそらくはじめてされた行為に、クライブがキョトンとなる。

「なに?」

「イアンの代わりです」

「どういうこと?」

「ご自分で考えてください」

 ぱっとほっぺたから手を離すと、クライブはフェリシアを抱き締め、ソファーに倒れ込んだ。

「……なんですか」

「情けない顔を見られたくない」

「……クライブ殿下。女性を抱き締めたら、口付けしたら、誤魔化せると思ってません?」

「……思ってないよ。どれだけ信用がないんだ、わたしは」

 まあいいさ。クライブはフェリシアを抱き締める腕に、力を込めた。

「毎日、愛を囁くよ。信用も信頼も、少しずつ得ていくから」

 平静を装っていても、フェリシアの鼓動は早まっていく。クライブはどうだろう。心臓の音を聞くため、耳を当てる。

(……わたしほどじゃないけど、早い)

 それで浮かれるつもりも、愛されていると己惚れるつもりもなかったが、やはり嬉しかった。

 ちらっとテーブルに目をやれば、クライブとリサが映る写真があった。リサが生きていれば、この世界はどうなっていたのだろう。わたしはきっと、違う誰かと婚約していた。いや、そもそも転生してこなかったのではないか。そんなことをあれこれ考えているうちに、自然と、クライブの名が口から零れ出ていた。

「なに?」

「……リサ様が生まれ変わっていて、でも外見は、その、とても不細工で。けれど中身はリサ様のままで、クライブ殿下のことも覚えていたらどうしますか?」

「……んん?」

「リサ様はとても可愛いお方でした。生まれ変わってクライブ殿下に会いにきたとして、顔が不細工だとしたら。それでもまた、同じように愛せますか?」

「……フェリシアじゃなくて、リサの場合ってこと?」

「はい。クライブ殿下が心から愛した、リサ様のことです」

 はっきりとした口調に、クライブが悩む。なにを試されているのか、フェリシアの意図が読めなかったから。

「そう、だな。うーん」

「わたしの存在はないものとして考えてください」

「……またそういうことを」

 フェリシアはクライブの胸の上に両手をつき、上半身だけ起き上がった。

「いいから、答えてください。お願いします」

 あまりに真剣な口調に、クライブが戸惑う。

『……クライブ殿下は知らないでしょうし、理解できないかもしれませんが、フェリシアの中身、びっくりするぐらい不細工なんですよ』

『ねえ、聞いてます? それこそ、吐き気がするぐらいだったんですから。親からも誰からも愛してもらえなくて、友だちもいなくて』

 脳裏に蘇ったのは、デリアの台詞。

 中身が不細工だったのはデリアだったし、フェリシアは両親からちゃんと愛されているうえ、友だちもいる。

 あれは口から出任せだった。嘘ばかりついてきたデリアだから、疑いもせず、そうだと思い込んでいたけど。

 ──ここで間違えてはいけない。

 クライブはなぜか、強く思った。

 
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