心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。

ふまさ

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 三度目ともなると、流石に夢だと笑い飛ばすことはできなかった。

「……エノーラ、平気?」

 別れを告げたショックからエノーラが黙りこんでしまったと思い込み、ミッチェルが小さく声をかけてくる。でも、とてもじゃないが、平気だと答えるのは無理だった。

(……わたし、ミッチェルから別れを告げられる日を繰り返しているの?)

 どうして。なぜ。こんなことが、はたして現実に起こりえるのか。

 エノーラの頭がパニックになる。混乱したまま、ミッチェルにそのことを伝えてみる。でも、ミッチェルは信じてくれなかった。

「──エノーラ。悪いけど、そんなことでぼくの気を引こうとするのはやめてくれ。ぼくは真剣なんだ」

 ため息をつきながら、そう言われてしまった。エノーラが絶望する。どうして信じてくれないの。泣きながら訴えるが、ミッチェルは取り合わない。そうこうしているうちに、両親が帰ってきた。

「──ブラート伯爵にも、このことを話してくるね」

 ミッチェルは逃げるように、部屋を出ていってしまった。エノーラが涙を流しながら、背中を丸め、両腕で自身の身体を抱き締める。

 怖い。怖い。怖い。

 意識を手放して目が覚めたとき、また今日を繰り返すかもしれない。ずっと、ずっと繰り返すことになったら、どうしよう。ミッチェルや母親。侍女の様子からすると、それに気付いているのは、どうやらエノーラだけ。それが何より恐ろしかった。

 ──それに。

(……どうして今日なの?)

 よりによって、ミッチェルから別れを告げられる日を繰り返すなんて、酷すぎる。

 これは何かの罰?
 だとしたら、わたしは何をしてしまったのだろう。そして、どうすれば許されるのだろう。

『ぼくは真剣なんだ』

 ふっと過った、ミッチェルの真剣な顔。愛する人と共にいたいという純粋な想いを、叶えてあげようとしなかったから。自分が悲しいから。ミッチェルと別れたくないから。

 それが、身勝手だと神の怒りにふれてしまったのだろうか。

『これはきみのためでもあるんだ』

 ズキズキと痛む頭に、ミッチェルの科白が過る。ミッチェルはわたしを想って全てを打ち明けてくれたのに。わたしは悪い子だ。だから神様が怒っているんだ。そんな考えがエノーラの中にぐるぐる流れる。

『……こんな。こんなことが父上やブラート伯爵に知られたら、どうなるか』

 ──ああ。だとすれば、あれも夢ではなく、現実に起こったこと。

『──エノーラ。悪いけど、そんなことでぼくの気を引こうとするのはやめてくれ』

 ──そう。あなたはそんな風に考えるのね。わたしのこと、信じてはくれないのね。

 エノーラの心が、ぐちゃぐちゃになっていく。


「……神様。わたしが醜い心を捨て、ミッチェルの幸せを願えば、明日をくれますか」


 小さく囁きながら、エノーラは背もたれに体重を預け──静かに目を閉じた。
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