心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。

ふまさ

文字の大きさ
16 / 20

16

しおりを挟む
 目が覚めるとそこは、やはり、ミッチェルに別れを告げられる日だった。

 エノーラは両親に頼み込み、一緒にお芝居を見に行くことにした。ミッチェルが訪れてくる昼に、屋敷にいたくなかったから。何より、これで何かが変わればと淡い期待をしたからだ。

 でも、無駄だった。

 夕刻に屋敷に帰宅すると、ミッチェルが待ち構えており、結局は別れを告げられた。わかりましたと諦めに似たかたちでそれを受け入れ、ヴォルフ伯爵家に向かう父親とミッチェルを見送った。そして夜は眠らずに、朝を待つことにした。けれど日付をまたぐころには意識を失っていて、気付けばまた、ミッチェルが屋敷を訪れる日の朝となっていた。

「……逃げても無駄なのですね」

 窓からもれる朝日を浴びながら、エノーラが頭を抱える。どうすればいいのだろう。ただ別れを受け入れるだけでは許されないのだろうか。

 ヴォルフ伯爵家に向かったあとのことは知らない。もしそこで、愛する人との仲を引き裂かれていたとしたら。そこでミッチェルが絶望したとしたら。

「もしかして、それが原因……?」

 ミッチェルを愛する気持ちは、まだエノーラの中に残っていた。でも、この日を繰り返すごとに、それが薄れていくのがわかる。

 ──ミッチェルと明日。どちらが欲しいか。

 答えはすでに、エノーラの中では決まっていた。

 
「……もし、ミッチェルが愛する方と幸せになりたいという強い願いが、この繰り返しを無意識に作り出しているのだとしたら」

 一つの可能性を口に出してみる。例えそうにしろ、神の罰にしろ。どちらにしても、しなければならないことは、きっと同じ。

 ──ミッチェルが愛する方と幸せになれる道を示さない限り、きっとわたしは、この日から抜け出すことはできないのでしょう。

 ならば、例えどれほど滑稽でも、二人が幸せになれるように全力を尽くそう。


 ミッチェルを失うよりも、明日を失うことの方が、よほど恐ろしいことだと知ってしまったから。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

いなくなれと言った本当に私がいなくなって今どんなお気持ちですか、元旦那様?

睡蓮
恋愛
「お前を捨てたところで、お前よりも上の女性と僕はいつでも婚約できる」そう豪語するカサルはその自信のままにセレスティンとの婚約関係を破棄し、彼女に対する当てつけのように位の高い貴族令嬢との婚約を狙いにかかる。…しかし、その行動はかえってカサルの存在価値を大きく落とし、セレスティンから鼻で笑われる結末に向かっていくこととなるのだった…。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……

小笠原 ゆか
恋愛
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。 この作品は『小説家になろう』でも公開中です。

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

【完結】婚約破棄したのに殿下が何かと絡んでくる

冬月光輝
恋愛
「お前とは婚約破棄したけど友達でいたい」 第三王子のカールと五歳の頃から婚約していた公爵令嬢のシーラ。 しかし、カールは妖艶で美しいと評判の子爵家の次女マリーナに夢中になり強引に婚約破棄して、彼女を新たな婚約者にした。 カールとシーラは幼いときより交流があるので気心の知れた関係でカールは彼女に何でも相談していた。 カールは婚約破棄した後も当然のようにシーラを相談があると毎日のように訪ねる。

処理中です...