心から愛しているあなたから別れを告げられるのは悲しいですが、それどころではない事情がありまして。

ふまさ

文字の大きさ
17 / 20

17

しおりを挟む
 パッと目が覚めたエノーラは、寝台の上にいた。上半身を起こし、きょろきょろとあたりを見回す。最後の記憶は、夜の馬車内。そこからの記憶がない。

 ──ということは。

「……また、戻ってしまった」

 エノーラが絶望する。あれだけ、あれだけ自分なりに頑張ったのに。正直、ミッチェルに対して腹の立つことも何度かあったが、それもこれも明日を迎えるためと必死に我慢したのに。

「……もう、どうすればいいの……っ」

 寝台の上で頭を抱え、丸まるエノーラ。少しして、侍女が部屋を訪れてきた。ああ、同じだわ。ますますエノーラは落ち込み、涙をこぼした。

「エノーラお嬢様……」

 許しを得て部屋に入ってきた侍女が近付いてくる。きっと、どうしたのですかと聞かれるだろう。でも、答えられるわけがない。だって、きっと信じてくれない。

「……お話しは、奥様からうかがいました。ご立派でしたね、エノーラお嬢様」

 優しく、慈しむような、六歳年上の侍女の声音。エノーラは呆然としながら、ゆっくりと顔を上げた。

「え……?」

「すみません。昨夜、屋敷に戻られたエノーラお嬢様が、いくら奥様たちが起こしても目を覚まされなくて。とても疲れているようで……ヴォルフ伯爵のお屋敷で何があったのかどうしても気になって、聞いてしまいました」

 目を丸くするエノーラに、侍女が慌てる。

「あ、あの。とてもデリケートなお話しなのに、いくら何でも失礼でしたね。申し訳ありませんっ」

 頭を下げる侍女の服の袖を、エノーラは軽く引っ張った。

「……今日は、何月何日ですか?」

「え? 今日は、ですね」

 侍女が困惑しながら答えた日付に、エノーラは目を見開きながら、またぼろぼろと涙を流しはじめた。

「お、お嬢様? どうされたのですか? 今日が何か?」

 エノーラは寝台からおりると、侍女に飛び付いた。ふふ。泣きながら、エノーラが笑う。

 ──良かった。わたしは間違っていなかった。

 ミッチェルを失った悲しみなど忘れ、エノーラはただ、明日を迎えられたことに歓喜した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

あなたは婚約者よりも幼馴染を愛するのですね?

睡蓮
恋愛
ノラン侯爵はエリステルとの婚約を築いておきながら、自信が溺愛する幼馴染であるユリアとの時間を優先していた。ある日、ノランはユリアと共謀する形でエリステルに対して嫌がらせを行い、婚約破棄をさせる流れを作り上げる。しかしその思惑は外れ、エリステルはそのまま侯爵の前から姿を消してしまう。…婚約者を失踪させたということで、侯爵を見る周りの目は非常に厳しいものになっていき、最後には自分の行動の全てを後悔することになるのだった…。

「出て行け!」と言われたのですから、本当に出て行ってあげます!

睡蓮
恋愛
アレス第一王子はイザベラとの婚約関係の中で、彼女の事を激しく束縛していた。それに対してイザベラが言葉を返したところ、アレスは「気に入らないなら出て行ってくれて構わない」と口にしてしまう。イザベラがそんな大それた行動をとることはないだろうと踏んでアレスはその言葉をかけたわけであったが、その日の夜にイザベラは本当に姿を消してしまう…。自分の行いを必死に隠しにかかるアレスであったが、それから間もなくこの一件は国王の耳にまで入ることとなり…。

【完結】妹が旦那様とキスしていたのを見たのが十日前

地鶏
恋愛
私、アリシア・ブルームは順風満帆な人生を送っていた。 あの日、私の婚約者であるライア様と私の妹が濃厚なキスを交わすあの場面をみるまでは……。 私の気持ちを裏切り、弄んだ二人を、私は許さない。 アリシア・ブルームの復讐が始まる。

あなたの仰ってる事は全くわかりません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。  しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。  だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。 全三話

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様

睡蓮
恋愛
ジーク伯爵は、溺愛する自身の妹レイアと共謀する形で、婚約者であるユフィーナの事を追放することを決めた。ただその理由は、ユフィーナが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしユフィーナは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、ユフィーナを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

処理中です...