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やけにデカくなった彼に。
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「なんかひさしぶりに入ると、この部屋も狭えな?」
オレにとっては幼馴染にあたる大智は、そう言った。
「……けど実際、すげーひさしぶりだろ。小学校以来だから六年ぶりとかじゃね?」
オレは内心の動揺を隠しながら言う。
「あー、そんくらいになんのかもな。秋介──?」
幼稚園から同じ時間を過ごしてきた明石大智は、当時はオレよりも背が低くてよく泣くガキだったと思う。今やバスケ部の副主将で、ポジションはセンター。身長も200cmくらいで、実際には202cmあるらしい。巨人か何かの末裔だろうか。
対するオレは生徒会の副会長という地位にいて、ふたりの接点は基本的には皆無である。
秋介、と呼ばれたが本来のフルネームは門司秋介という。周りにはモジくんと呼ばれてかわいがられている──のかもしれないが、これがとても迷惑である。オレの身長が165cmくらいしかないからだったり、童顔だからね、とか女子には言われているがこれでも生徒会執行役員だぞ──などと言ったところで、だからどうしたと言われるのがオチだろう。くやしい。
「ああ、なんか覚えてるわ。この部屋もっと広かった記憶があんだけどなー。ははっ」
「おまえがデカく育ちすぎたから余計に狭く見えるってだけだぞ、たぶん。そんな不便なほど狭いわけでもねーよ」
学ラン姿で茫洋と立ちつくす大智は、オレを見下ろしてなんだか不器用に笑う。それがムカつく。
「うっせーわ、クソ。茶くらいは淹れてくるからよ、緑茶か紅茶か選べよな」
「紅茶──? いや、いいよべつに。あんま気ぃ遣わないでいい」
「……マジで、いきなり押しかけてきたヤローの言うセリフじゃねえよな。わかったよ、麦茶だけ持ってくるからそのへんに座っとけ」
前述の通り、大智はバスケ部副主将でオレは生徒会副会長である。まったくと言っていいくらい接点がないのだが、今日。大智がいきなり放課後、大降りの雨の中で声をかけてきたのだった。
「なあ、秋介。おまえなんで同じ高校に入ってまでオレんことシカトすんの──?」
「は、なに……?」
いや。シカトしてたのはおまえなんじゃないかと、オレは内心では呟いた。
「シカトっつーか、クラスも部活も違えばそんなに話すこともねーだろよ。おまえだってオレに話しかけてはこなかったじゃねーか」
「……ああ、そんなふうに考えてたんか。──っざけんな、おれがバカみてえじゃねーか」
さて。ここで整理しておくが、大智はやたらと背の高いバスケバカで、オレは生徒会の副会長とはいえ、生徒会長がアホの子、というかもっとはっきり言えばイカレポンチなので生徒会執行部ではオレのほうが変に目立ってしまっている。つまりこの高校のトップみたいに見られているのがオレだ。
「んで。わざわざおまえのほうからオレの部屋に来たいとかってさ。結局のとこ何なんだよ」
小学校の低学年あたりまでは一緒にバカなことをやっていた仲ではある。しかし大智は小学校卒業を前にして「転校」してしまったのだ。うちの母親や近所のオカン連中がウワサしていた──大智クンは、九州のお婆さんのところに預けられていて、両親はおそらくその間に調停離婚──つまり「親権、養育費、財産分与」等を含めた裁判手続きをするのだろうと言っていた。
そのとき、その離婚の意味をオレは図書館で調べて、なんだかひどく哀しい気持ちになったのを覚えてる。
そうしてその結果、大智と両親はどこかに消えた。だから大智が戻ってくることもないのだろうと子供心に残念というか、悔しく思ったことを覚えている。大人は皆、勝手なんだよ──大智はいつだって、寂しそうにしていたのに。
それが。高校になって編入してきた大智とのイメージの解離というか、おまえ誰?──っていう感じだったのは誰もが思ったことのはずだ。なんとなく小柄でほっそりしていた大智は、今や体格も言葉もどこか裏っぽい、というか裏世界の人間のようにも見えるのが怖い。
「だってさ、こっちに戻れば秋介は絶対、おれのこと思い出すと思ってたから」
「──はぁ? あのさ、おまえんことはオレ、がっつり思い出してるっつーか、別に今まで忘れたこともねえよ?」
そのセリフを受けてか、大智はなぜか凍りついたように動かなくなり、そしていきなり姿勢を屈めるとオレのことを抱きしめる。
「ちょ、な、どうしたおまえ!? 悩み事でもあんなら聞くぞ?」
「よかった。今度は逃げなかった……」
オレの肩に顔を埋めた大智は、静かにオレの臭いでも嗅ぐように静かに呼吸する。何というか、そういうのはやめて欲しい。心臓に悪いのだが。
「なあ、秋介。セックスしよーぜ」
「……はい?」
そう言って大智は、同じく学ランのままのオレの股間に唇を這わせて、やがて形を持ち始めたそれを咥えた。あまりに唐突すぎるそのセリフと行為に、オレの思考回路はまるでついていけないでいる。
やめてくれ。童貞のオレにそれは刺激が強い……ていうか、人目はないがここはオレの家だぞ? 混乱しすぎて意味もわからん。どうしよう。
オレにとっては幼馴染にあたる大智は、そう言った。
「……けど実際、すげーひさしぶりだろ。小学校以来だから六年ぶりとかじゃね?」
オレは内心の動揺を隠しながら言う。
「あー、そんくらいになんのかもな。秋介──?」
幼稚園から同じ時間を過ごしてきた明石大智は、当時はオレよりも背が低くてよく泣くガキだったと思う。今やバスケ部の副主将で、ポジションはセンター。身長も200cmくらいで、実際には202cmあるらしい。巨人か何かの末裔だろうか。
対するオレは生徒会の副会長という地位にいて、ふたりの接点は基本的には皆無である。
秋介、と呼ばれたが本来のフルネームは門司秋介という。周りにはモジくんと呼ばれてかわいがられている──のかもしれないが、これがとても迷惑である。オレの身長が165cmくらいしかないからだったり、童顔だからね、とか女子には言われているがこれでも生徒会執行役員だぞ──などと言ったところで、だからどうしたと言われるのがオチだろう。くやしい。
「ああ、なんか覚えてるわ。この部屋もっと広かった記憶があんだけどなー。ははっ」
「おまえがデカく育ちすぎたから余計に狭く見えるってだけだぞ、たぶん。そんな不便なほど狭いわけでもねーよ」
学ラン姿で茫洋と立ちつくす大智は、オレを見下ろしてなんだか不器用に笑う。それがムカつく。
「うっせーわ、クソ。茶くらいは淹れてくるからよ、緑茶か紅茶か選べよな」
「紅茶──? いや、いいよべつに。あんま気ぃ遣わないでいい」
「……マジで、いきなり押しかけてきたヤローの言うセリフじゃねえよな。わかったよ、麦茶だけ持ってくるからそのへんに座っとけ」
前述の通り、大智はバスケ部副主将でオレは生徒会副会長である。まったくと言っていいくらい接点がないのだが、今日。大智がいきなり放課後、大降りの雨の中で声をかけてきたのだった。
「なあ、秋介。おまえなんで同じ高校に入ってまでオレんことシカトすんの──?」
「は、なに……?」
いや。シカトしてたのはおまえなんじゃないかと、オレは内心では呟いた。
「シカトっつーか、クラスも部活も違えばそんなに話すこともねーだろよ。おまえだってオレに話しかけてはこなかったじゃねーか」
「……ああ、そんなふうに考えてたんか。──っざけんな、おれがバカみてえじゃねーか」
さて。ここで整理しておくが、大智はやたらと背の高いバスケバカで、オレは生徒会の副会長とはいえ、生徒会長がアホの子、というかもっとはっきり言えばイカレポンチなので生徒会執行部ではオレのほうが変に目立ってしまっている。つまりこの高校のトップみたいに見られているのがオレだ。
「んで。わざわざおまえのほうからオレの部屋に来たいとかってさ。結局のとこ何なんだよ」
小学校の低学年あたりまでは一緒にバカなことをやっていた仲ではある。しかし大智は小学校卒業を前にして「転校」してしまったのだ。うちの母親や近所のオカン連中がウワサしていた──大智クンは、九州のお婆さんのところに預けられていて、両親はおそらくその間に調停離婚──つまり「親権、養育費、財産分与」等を含めた裁判手続きをするのだろうと言っていた。
そのとき、その離婚の意味をオレは図書館で調べて、なんだかひどく哀しい気持ちになったのを覚えてる。
そうしてその結果、大智と両親はどこかに消えた。だから大智が戻ってくることもないのだろうと子供心に残念というか、悔しく思ったことを覚えている。大人は皆、勝手なんだよ──大智はいつだって、寂しそうにしていたのに。
それが。高校になって編入してきた大智とのイメージの解離というか、おまえ誰?──っていう感じだったのは誰もが思ったことのはずだ。なんとなく小柄でほっそりしていた大智は、今や体格も言葉もどこか裏っぽい、というか裏世界の人間のようにも見えるのが怖い。
「だってさ、こっちに戻れば秋介は絶対、おれのこと思い出すと思ってたから」
「──はぁ? あのさ、おまえんことはオレ、がっつり思い出してるっつーか、別に今まで忘れたこともねえよ?」
そのセリフを受けてか、大智はなぜか凍りついたように動かなくなり、そしていきなり姿勢を屈めるとオレのことを抱きしめる。
「ちょ、な、どうしたおまえ!? 悩み事でもあんなら聞くぞ?」
「よかった。今度は逃げなかった……」
オレの肩に顔を埋めた大智は、静かにオレの臭いでも嗅ぐように静かに呼吸する。何というか、そういうのはやめて欲しい。心臓に悪いのだが。
「なあ、秋介。セックスしよーぜ」
「……はい?」
そう言って大智は、同じく学ランのままのオレの股間に唇を這わせて、やがて形を持ち始めたそれを咥えた。あまりに唐突すぎるそのセリフと行為に、オレの思考回路はまるでついていけないでいる。
やめてくれ。童貞のオレにそれは刺激が強い……ていうか、人目はないがここはオレの家だぞ? 混乱しすぎて意味もわからん。どうしよう。
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