6 / 27
竜人
しおりを挟む
-
「で、では!よろしくお願い申し上げます!このセッテ、命に代えても教育係を務めあげさせていただきます!」
「それは、……まあ、あの、お手柔らかにお願いします。」
まだ甲高い声が広い室内に響く。
ワハシュ王と話をしたもう翌日には、教育係が俺の部屋へとやってきた。
最初、俺の教育係は60歳をすぎたおじさんが任命されかけた。
だけどなぜかアスファーが、それを嫌がって、次に70歳を過ぎたおじいちゃんになりかけた。
なのに、その人も嫌だと聞かず、結局選任されたのはなんとまだ18歳の少年だった。
相当優秀らしく、セッテと名乗った少年は、日本で言うところの大学を今年卒業して王宮で文官として働く予定だったらしい。
それはエリート街道を邪魔して悪かったな、と謝ったけど、本人は「とんでもない、身に余る光栄です。」となぜか恐縮しきりだ。
しかもしきりに、俺のことを素晴らしい、謙虚だなんだと褒めてくる。
……こんな可愛い子のお世辞だと、信じちゃいそうになるな。
すべすべの頬を紅潮させて目を輝かせている少年を前に、授業の前からくたびれた気がする。
それでも向かい合わせに行儀よく席に腰掛ける。
「では番様、本日はこの世界の成り立ちから……」
「あ、その前に。その『番』ってなにかな?俺のこと?」
「番様の世界には、『番』はなかったのですね。では、番様の世界に『結婚』はございましたか?」
「ああ。結婚はあった。」
「番、というのは結婚と似たものでございます。ただし結びつきの強さが違います。番、というのは魂と魂が惹かれあう、唯一の相手で生涯でただ一人。それから番というのは竜人様と一部の獣人族にしか存在しません。」
「りゅうじん、と、じゅうじん。」
「はい。アスファー様は竜人様でございます。竜人様は、竜神様とも呼ばれます。その名の通り、竜であり人であり、神でもある存在です。大気を操り、優れた知恵と強い魔力、それから長い寿命をお持ちの、我々ただ人とは違った存在です。この国ができる前からこの大陸で神の種族として君臨しておられました。」
__竜人。
にこにこと相好を崩すアスファーは、たしかに壮絶な美形だったけど人にしか見えなかった。
竜っぽさなんて全然なかったじゃないか。鱗だってなかった。
にわかには信じられないけど、俺がこの世界にいることも信じられない。
飲み込めないものを無理やり飲み込もうと大きく息を吐く。
「ちょっと待ってくれ。じゃあアスファーはただの人じゃなくって竜で、俺がアスファーの番ってこと?その結婚相手、みたいな。」
目の前の少年は、ニッコリ笑ってこくりと頷いた。
「アスファー様に番様が現れたことを、この国中が喜んでおります。」
「……マジか。」
あんだけ美形の男が、俺と魂で惹かれあう?
結婚と似たものって、そもそも彼は今まで誰とも結婚してなかったのか?
いや恋人とかはいただろうけど、それにしたって引く手あまただろう。
確かに俺は一目で彼に惹かれた。
それは本当だ。
彼のなにもかもが好ましく感じる。
だけどあれだけのイケメンで、しかも優しくあれこれ世話を焼いてくれる。
ただ単に惚れっぽい俺が落ちただけかもしれない。
あんな一流の男と番だと言われても、簡単にそうなんだとは言えない。
「何か悩まれることがございますか?」
「もう悩みしかないよ……理解しきれなくって」
俺は日本でもモテなかったし大事にされなかった。
そうなれば嫌でも俺は平均以下の魅力しかないんだと思い知っている。
そんな俺があの美丈夫と番になる?
いくらなんでも無理がありすぎる。
俺なんかじゃつまみ食いとして弄ばれるどころか、歯牙にもかけられないんじゃないか。
不釣り合いにも程がある。
それに、こんな俺が番だなんて……彼にとってはとんだ外れクジだ。
わざわざ異世界から来るほどの番なんだから、もう少しマシなのだと思っていたんじゃないか。
だとしたらなんだか申し訳ない気持ちに苛まれる。
だがため息をつく俺に、セッテは朗らかな笑みを深くするばかりだ。
「番様のお悩みはすべてアスファー様にお委ねなさいませ、つつがなく全て進みます」
まだ18歳の彼には分からないのか。
それとも分かっていて気にしないフリをしているのか。
俺がアスファーの番になるなんて不相応すぎる。
だが苛立ちを自分よりずっと年下の少年にぶつけるわけにもいかず、俺は心にもなく『分かった』と頷いた。
「で、では!よろしくお願い申し上げます!このセッテ、命に代えても教育係を務めあげさせていただきます!」
「それは、……まあ、あの、お手柔らかにお願いします。」
まだ甲高い声が広い室内に響く。
ワハシュ王と話をしたもう翌日には、教育係が俺の部屋へとやってきた。
最初、俺の教育係は60歳をすぎたおじさんが任命されかけた。
だけどなぜかアスファーが、それを嫌がって、次に70歳を過ぎたおじいちゃんになりかけた。
なのに、その人も嫌だと聞かず、結局選任されたのはなんとまだ18歳の少年だった。
相当優秀らしく、セッテと名乗った少年は、日本で言うところの大学を今年卒業して王宮で文官として働く予定だったらしい。
それはエリート街道を邪魔して悪かったな、と謝ったけど、本人は「とんでもない、身に余る光栄です。」となぜか恐縮しきりだ。
しかもしきりに、俺のことを素晴らしい、謙虚だなんだと褒めてくる。
……こんな可愛い子のお世辞だと、信じちゃいそうになるな。
すべすべの頬を紅潮させて目を輝かせている少年を前に、授業の前からくたびれた気がする。
それでも向かい合わせに行儀よく席に腰掛ける。
「では番様、本日はこの世界の成り立ちから……」
「あ、その前に。その『番』ってなにかな?俺のこと?」
「番様の世界には、『番』はなかったのですね。では、番様の世界に『結婚』はございましたか?」
「ああ。結婚はあった。」
「番、というのは結婚と似たものでございます。ただし結びつきの強さが違います。番、というのは魂と魂が惹かれあう、唯一の相手で生涯でただ一人。それから番というのは竜人様と一部の獣人族にしか存在しません。」
「りゅうじん、と、じゅうじん。」
「はい。アスファー様は竜人様でございます。竜人様は、竜神様とも呼ばれます。その名の通り、竜であり人であり、神でもある存在です。大気を操り、優れた知恵と強い魔力、それから長い寿命をお持ちの、我々ただ人とは違った存在です。この国ができる前からこの大陸で神の種族として君臨しておられました。」
__竜人。
にこにこと相好を崩すアスファーは、たしかに壮絶な美形だったけど人にしか見えなかった。
竜っぽさなんて全然なかったじゃないか。鱗だってなかった。
にわかには信じられないけど、俺がこの世界にいることも信じられない。
飲み込めないものを無理やり飲み込もうと大きく息を吐く。
「ちょっと待ってくれ。じゃあアスファーはただの人じゃなくって竜で、俺がアスファーの番ってこと?その結婚相手、みたいな。」
目の前の少年は、ニッコリ笑ってこくりと頷いた。
「アスファー様に番様が現れたことを、この国中が喜んでおります。」
「……マジか。」
あんだけ美形の男が、俺と魂で惹かれあう?
結婚と似たものって、そもそも彼は今まで誰とも結婚してなかったのか?
いや恋人とかはいただろうけど、それにしたって引く手あまただろう。
確かに俺は一目で彼に惹かれた。
それは本当だ。
彼のなにもかもが好ましく感じる。
だけどあれだけのイケメンで、しかも優しくあれこれ世話を焼いてくれる。
ただ単に惚れっぽい俺が落ちただけかもしれない。
あんな一流の男と番だと言われても、簡単にそうなんだとは言えない。
「何か悩まれることがございますか?」
「もう悩みしかないよ……理解しきれなくって」
俺は日本でもモテなかったし大事にされなかった。
そうなれば嫌でも俺は平均以下の魅力しかないんだと思い知っている。
そんな俺があの美丈夫と番になる?
いくらなんでも無理がありすぎる。
俺なんかじゃつまみ食いとして弄ばれるどころか、歯牙にもかけられないんじゃないか。
不釣り合いにも程がある。
それに、こんな俺が番だなんて……彼にとってはとんだ外れクジだ。
わざわざ異世界から来るほどの番なんだから、もう少しマシなのだと思っていたんじゃないか。
だとしたらなんだか申し訳ない気持ちに苛まれる。
だがため息をつく俺に、セッテは朗らかな笑みを深くするばかりだ。
「番様のお悩みはすべてアスファー様にお委ねなさいませ、つつがなく全て進みます」
まだ18歳の彼には分からないのか。
それとも分かっていて気にしないフリをしているのか。
俺がアスファーの番になるなんて不相応すぎる。
だが苛立ちを自分よりずっと年下の少年にぶつけるわけにもいかず、俺は心にもなく『分かった』と頷いた。
413
あなたにおすすめの小説
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
別れたいからワガママを10個言うことにした話
のらねことすていぬ
BL
<騎士×町民>
食堂で働いているエークには、アルジオという騎士の恋人がいる。かっこいい彼のことがどうしようもなく好きだけれど、アルジオは自分の前ではいつも仏頂面でつまらなそうだ。
彼のために別れることを決意する。どうせなら嫌われてしまおうと、10個の我儘を思いつくが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる