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夢からさめて
しおりを挟む久しぶりに感じる、サラサラのシーツの感触。俺のベッドってこんなにふわふわだっけ?そう思いながら寝返りを打って……腰の痛みに目が覚めた。
「っぃ、いた……! なんだこれ……!?」
ああ、そうだ。俺はこの世界にやってきちゃって、レオンと知り合って……それで昨日、初めて男に抱かれたんだった。
「あー、……俺、やっちゃったんだ……」
空っぽのベッドからゆっくり起き上がってため息をついた。この世界にくるまで、男になんて興味なかった。だけどこっちで身を立てていくために男娼になって、男相手が平気になって……。
いや、そんなの言い訳だ。昨日アズラークに助けてもらって、美しい瞳や男臭い顔立ちを見ていたら……抱かれたいと思ってしまったんだ。優しい手つきも、男らしい見た目にそぐわない繊細な愛撫も、アイスブルーの瞳の奥に見える情熱にも。彼のすべてに惹かれて、あっさりと体を明け渡してしまった。初めてだって言い出せなかったから、いきなり突っ込まれたらどうしようなんて思っていたけど、アズラークは驚くほど根気強く俺を溶かしてくれた。
「……ヤッちまったことは仕方ないし、帰るか」
この世界のチェックアウトは何時だろう。彼がここの料金は支払ってくれていると信じたいけど、長居したら追加料金がかかるかもしれない。力が抜ける足を叱咤してベッドから抜け出すと、はぎ取られて散らばる服を拾って歩く。豪奢な部屋はスイートのようで、ベッドルームの他に客間まである。この部屋を一晩借りるのに幾らかかるか、考えるだけで眩暈がしそうだ。
服を拾いながらのそのそと辿りついた客間で、俺は目を見張った。綺麗にカットされたみずみずしいフルーツや、砂糖で固められた菓子。美しい黄金色のパンや繊細にまとめられたフィンガーフードがずらりと机の上に並んでいた。
「はは、やっぱ慣れてるなー」
甘いものを差し入れて女の子の機嫌を取る……なんてのは前の世界でもよく聞いたけど、一晩の相手にまで気を回せるなんて、さすがとしか言いようがない。しかもこんな豪勢な食事はこっちの世界に来てから初めてだ。レオンとはいっつも近くの屋台のメシか、買ってきた固いパンを齧る程度だ。もともとそんなに食にこだわりはないから辛いとも思わなかったけど、目の前の食事は別世界の食べ物のようだ。
「うま……。甘いものなんて、この世界で初めて食べたかも」
遠慮なく口に放りこむとどれも驚くほどおいしい。もくもくと食べてると、机の上に5000ペルラが無造作に置いてあるを見つけた。
「こんだけ金使うんなら、俺よりずっといい娼婦でも男娼でも買えたのにな」
もしかしたらもっと高級な相手を探しに行く途中だったのかもしれない。それで偶然俺に会って、毛色の違う相手に興味でも出たのか。汚い格好を憐れだとでも思ったのか。どっちにしろ彼は違う世界の住人で、もう会うことはもうない。痛む胸を無視して、俺の昨日の稼ぎを上着のポケットにしまう。その時に机の上にメモが置いてあることに気が付いた。
「手紙……かな?俺、この世界の言葉は読めないんだよね」
繊細な紙の上に踊る、男らしく力強い筆跡。彼の連絡先でも書いてあるんだろうか……と思ったけど、短く簡潔な文章はどう見ても住所や彼との会い方には見えない。せいぜい『昨日はありがとう。また機会があれば』程度だろう。下手したら『チェックアウトは12時だから、それまでに出るように』なんてことかもしれない。
どちらが正解か分からないけど、夢見るくらい……少しでも彼が楽しんで、俺の為に手紙を残してくれたと思うくらい勝手だろう。
彼は本当に優しかったし、こんなに丁寧に扱われたのは初めてだ。それだけでいいと思えた。
これで俺はこれ以上ないくらい満足している、と。
……これを片思いだなんて、もう二度と会えない相手を好きになってしまったなんて、絶対に認めない。そうでもしなければ、喉の奥からなにかが溢れてきそうだった。
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