ハロウィントリップ!〜異世界で獣人騎士に溺愛された話〜

のらねことすていぬ

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顔まですっぽりとマントにくるまれたせいで周りが何も見えない。
ただ彼が長屋を出ると、周りがざわめくのが幽かに聞こえる。
外に出たら誰かに引き渡されるかと思ったのに、アズラークが俺を腕から降ろす気配はない。


「団長……! その者は……?」


他の騎士団員らしい声がするけどアズラークは意に介していないようで、相変わらずゆったりとした足取りで進むだけだ。
体が大きく揺れた、と思ったら馬のいななき声が小さくして、彼が騎乗したのが分かった。


「一旦戻る。お前たちは任務を続けろ。副長から指示を出させる」

「では供を……」

「いらん」


それだけ言い捨てると、馬を駆けさせているんだろうか。揺れが大きくなる。
太い腕にがっしりと抱き込まれているから恐怖はないけど、ゆらゆらと揺さぶられて体力が削られていく。

どれくらい走っただろうか。
彼が馬から降りた時には、俺はぐったりとアズラークに縋ることしかできなかった。









「アズラーク様? お早いお戻りで。その腕の中のお方は……?」

「これからこの屋敷に住まわせる。話は後だ」


相変わらずマントのせいで外は見えないけど、……ここは牢屋、ではないのだろうか?
暖かな空気に丁寧にかけられる言葉。
彼が歩くたびにあちこちから「おかえりなさいませ」という声もする。
外を見ようともぞもぞと動くと、ますます強い力で体を抱き込まれた。

バタン、と扉が閉まる音がして、幽かな足音すら聞こえなくなる。
今度はどこに着いたんだろう……と思っていると、不意に柔らかなところに降ろされ、マントが取り去られた。

目を開けると、豪奢なベッドに高く天井。柔らかい緑色に纏められた広い部屋。
それから、眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいるアズラークがいた。


「……ここは?」


思わず零れた呟きに、アズラークの真っ白い耳がピクリと動く。


「俺の家だ」


不機嫌そうな声でそう言うと、俺の腕を縛っていた布をほどく。
ようやく解放された……と思ったら、俺の手はそのまま細い腕輪をはめられ、それが手首の太さに調節されて鎖に繋がれる。
かちゃり、と軽い音を立て繋がれたそれを茫然と眺めた。


「え、これって、その、なんで……?」

「お前を番の元には帰さない」


俺に番はいないんだけど、なんて答えていいか分からなくて眉毛を下げる。
レオンが番だと勘違いされているのか。
それでレオンを探しているうちに、一緒にいた俺を捕まえた?
答えかねている俺をみて、アズラークは一度小さく舌打ちをしたかと思うと、腕輪のはまった手首に噛みついてきた。


「すぐ戻る。逃げようなんて思わないように……次に逃げたら、足の腱を切る」

「……っ!」



そのアイスブルーの瞳が、彼が冗談なんて言っていないことを物語っていた。
その視線には、昨日見せてくれた優しさなんて欠片もなくて、俺は肩を震わせた。

なんで俺がここに居るのかは分からないけど、途方に暮れてしまった。




















がちゃりと重い音がして、寝室の扉が開いた。
その音に慌てて床から飛び起きると、大股で近づいてくるアズラークを見上げた。

周りの状況が知りたくてうろうろしているうちに、気疲れのためかいつの間にか床に座り込んで……眠っていたらしい。
まさか熟睡してしまうなんて自分でも思わなかった。
自分の神経の図太さに呆れる。
でも俺よりも驚いているのはアズラークだったみたいだ。


「なぜ床で寝ているんだ……?」


困惑した表情で俺の顔を覗き込むと、腕を掴んでベッドに乗せる。
綺麗すぎるベッドに洗っていない服で乗るのは気が引けたんだけど、アズラークは気にしないみたいだ。
それどころかなぜか少しほっとしたような顔をしている。
なんなんだ。


「腹は減っているか?」


こんな右も左も分からない状況で食欲なんてでない。
首を横に振ると、また視線が少し鋭くなった。


「こんなにがりがりに痩せているのに?夕食は摂ったのか?」

「あ……そう言えばレオンが……」

そうだ。
レオンが夕食を買ってくるって言ってたんだ。
あの後、長屋の周りに集まっていた騎士たちから上手く逃げられたんだろうか。
思わず口から零れた言葉に、アズラークの耳と尻尾がピンと立つ。


「レオン?それが番の名前か?」

「番、じゃないです」


レオンは番じゃない。
番は獣人にとって大事なコトらしいし、俺みたいな貧弱なのと番だなんて思われているレオンの名誉のためにも否定する。
わずかに殺気さえ滲ませているアズラークを、怖いけど見つめていると、彼がまたグルル、と喉を低く鳴らした。


「……庇っても意味がないぞ。そんなに匂い付けされておいて」

「本当です!俺、そもそも番なんていません!」


ちょっと強い調子で言った俺に、アズラークはますます視線を凍らせる。
ぎゅっと寄せられた眉間の皺が怖い。
だけど本当だ。
たしかにこの世界では、尻尾のない尻や丸い爪を可愛い可愛いと言われてきたが、番になりたいと言ってきた獣人はいなかった。


「こんなに薄い獣性で、番の相手がいないわけないだろう」


そう言ってアズラークは俺の耳に手を伸ばしてきた。
俺は突然のことにただぼんやりとその手を見つめていると、大きな掌が俺の頭の上についている『耳』を引っ張って。


「あ、」


……猫耳カチューシャがぽろりと取れて転がった。










「おい、この、耳は……」


固まっていたいたら、明らかに戸惑ったようなアズラークの声がかけられる。
指先でカチューシャは摘まみ上げられて、険しい視線が向けられた。



「どういう……ことだ?」


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