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アズラーク視点:
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前回から少し時間がさかのぼります
◇◇◇◇◇
少し風が強い、秋の夜のだった。俺は一人で騎士団の団長室で書類と格闘していた。
最近どうも気候が不安定だ。このあいだ季節外れの雷が町のはずれに落ちたらしいし、大きな災害に発展するようなことがないといいが、今のうちに少し人員に余裕を持たせた方がいいかもしれない。来月の予算案の用紙をめくると、簡単に書き込んでおく。
軍人なんてものは敵を相手に剣だけ振るっていればいいと思っていたのに、町の治安維持に災害時え救助。果ては式典の護衛なんてものもある。王族の護衛が近衛兵に一任されているだけでも、ありがたいと思うべきなのか。これも仕事のうちだとペンを走らせるが、いつまでも終わらない量に、尻尾の先が苛立たしげに跳ねる。
その時、それなりに重厚な扉が大きな音をたてて叩かれて、返事も待たずに細身な体が滑り込んできた。豹族で近衛兵団の師団長のルアン・クルーガーだ。
「よー、アズラーク! まだ仕事とは精がでるねー」
「……ルアン、酒臭い。邪魔をするつもりなら出て行け」
「えー、ひど! それが幼馴染に対する言葉!? そんな冷たいから、いい年まで番(つがい)もできないんだよ!」
口では酷いとか言いながら、げらげら笑うと勝手に応接用のソファにどっかりと腰を下ろした。お互い貴族でありながら剣を振るうばかりが好きで、貴族上がりの騎士なんてお飾りだと言う奴を見返してやろう、と養成所ではよく息巻いていた。
「番がいないのはお互い様だろう」
「俺は番はいないけど、恋人はいるからね……まだ首筋に噛みついていい、って言ってくれないんだよー」
「お前の恋人ね……今年に入って何人目だ?」
「万年独り身よりマシだろ?……ってそう言えば、この間のお見合い断っちゃったんだって? めちゃくちゃ獣性薄くて美人だったらしいじゃん!」
「彼女には、俺みたいな武人より線の細い貴族の方が似合っているだろう」
「はぁ? あっちがお前に一目惚れして申し込んできたんだろ? そう言えばずーっと前にいたお前の彼女、獣性強かったよな……ほんと、お前の好みって分かんないわー」
ルアンは呆れたように頭を掻くと、尻尾でべしべしとソファを叩く。それもそうだろう。獣性が低いものは基本的に断られることなんてない。それは獣人として絶対的な魅力だ。本来なら抗えるはずがない。飼い犬が主人に逆らえないように。
だが、惹かれなかったのだ。控え目な牙も爪も確かに可愛らしいとは思ったが、それだけだった。そんな男と添い遂げても不幸だろうと断ったんだが、どうやら他人の目には違うように映るらしい。
「なぁ、それより知ってるか? 最近スラムに出てる黒猫の男娼の話」
「……黒猫の男娼? 知らないな。なにか問題でも起こしているのか?」
俺の言葉にルアンは酒臭い顔を少し顰めるて、耳をピクリと動かした。
「お前って本当に仕事バカだよな。今のところ問題は起こしてない。娼館には属さないでひっそりと商売しているらしい。……だがな、見たところ子供で爪も牙もないらしい」
「おい、爪や牙を折るのは禁止されているだろう」
獣人は獣性の薄い者……大昔に存在したという「ニンゲン」に似た存在に惹かれる。だから昔は親から売り払われた子供が、奴隷商人のもとで獣性を示す爪や牙、耳や尻尾などを切り落とされて売買されることがあった。もちろん酷い苦痛を伴うことだから今は法律で禁止されていて、見つかったら思い罰が下される。
「その通り。法律ではな。だけど未だそういう商売をしている奴はいる。牙や爪のない姿に惹かれるのは、獣人の本能だからなぁ」
「……下種だな」
「ちなみにその男娼、随分と綺麗な顔立ちとお上品な物腰らしくって、どっかの金持ちの番から逃げ出してきたんじゃないかって噂だ」
番に逃げられてそのままにしておく獣人はいない。獣人の番に対する執着は激しい。もちろん家同士のつながりを深めるための「政略番」もまれにいて、その場合はお互いに無関心なこともあるが、縄張り意識の強い獣人の世界では珍しい。
政略番でない、自分で決めた番ならば絶対に見つけ出して連れ戻すだろう。もし番が新しい相手なんて見つけていたら最悪で、番も相手も死に追いやる可能性がある。
「……派手な揉め事は困るな」
思わず深いため息が出た。
◇◇◇◇◇
少し風が強い、秋の夜のだった。俺は一人で騎士団の団長室で書類と格闘していた。
最近どうも気候が不安定だ。このあいだ季節外れの雷が町のはずれに落ちたらしいし、大きな災害に発展するようなことがないといいが、今のうちに少し人員に余裕を持たせた方がいいかもしれない。来月の予算案の用紙をめくると、簡単に書き込んでおく。
軍人なんてものは敵を相手に剣だけ振るっていればいいと思っていたのに、町の治安維持に災害時え救助。果ては式典の護衛なんてものもある。王族の護衛が近衛兵に一任されているだけでも、ありがたいと思うべきなのか。これも仕事のうちだとペンを走らせるが、いつまでも終わらない量に、尻尾の先が苛立たしげに跳ねる。
その時、それなりに重厚な扉が大きな音をたてて叩かれて、返事も待たずに細身な体が滑り込んできた。豹族で近衛兵団の師団長のルアン・クルーガーだ。
「よー、アズラーク! まだ仕事とは精がでるねー」
「……ルアン、酒臭い。邪魔をするつもりなら出て行け」
「えー、ひど! それが幼馴染に対する言葉!? そんな冷たいから、いい年まで番(つがい)もできないんだよ!」
口では酷いとか言いながら、げらげら笑うと勝手に応接用のソファにどっかりと腰を下ろした。お互い貴族でありながら剣を振るうばかりが好きで、貴族上がりの騎士なんてお飾りだと言う奴を見返してやろう、と養成所ではよく息巻いていた。
「番がいないのはお互い様だろう」
「俺は番はいないけど、恋人はいるからね……まだ首筋に噛みついていい、って言ってくれないんだよー」
「お前の恋人ね……今年に入って何人目だ?」
「万年独り身よりマシだろ?……ってそう言えば、この間のお見合い断っちゃったんだって? めちゃくちゃ獣性薄くて美人だったらしいじゃん!」
「彼女には、俺みたいな武人より線の細い貴族の方が似合っているだろう」
「はぁ? あっちがお前に一目惚れして申し込んできたんだろ? そう言えばずーっと前にいたお前の彼女、獣性強かったよな……ほんと、お前の好みって分かんないわー」
ルアンは呆れたように頭を掻くと、尻尾でべしべしとソファを叩く。それもそうだろう。獣性が低いものは基本的に断られることなんてない。それは獣人として絶対的な魅力だ。本来なら抗えるはずがない。飼い犬が主人に逆らえないように。
だが、惹かれなかったのだ。控え目な牙も爪も確かに可愛らしいとは思ったが、それだけだった。そんな男と添い遂げても不幸だろうと断ったんだが、どうやら他人の目には違うように映るらしい。
「なぁ、それより知ってるか? 最近スラムに出てる黒猫の男娼の話」
「……黒猫の男娼? 知らないな。なにか問題でも起こしているのか?」
俺の言葉にルアンは酒臭い顔を少し顰めるて、耳をピクリと動かした。
「お前って本当に仕事バカだよな。今のところ問題は起こしてない。娼館には属さないでひっそりと商売しているらしい。……だがな、見たところ子供で爪も牙もないらしい」
「おい、爪や牙を折るのは禁止されているだろう」
獣人は獣性の薄い者……大昔に存在したという「ニンゲン」に似た存在に惹かれる。だから昔は親から売り払われた子供が、奴隷商人のもとで獣性を示す爪や牙、耳や尻尾などを切り落とされて売買されることがあった。もちろん酷い苦痛を伴うことだから今は法律で禁止されていて、見つかったら思い罰が下される。
「その通り。法律ではな。だけど未だそういう商売をしている奴はいる。牙や爪のない姿に惹かれるのは、獣人の本能だからなぁ」
「……下種だな」
「ちなみにその男娼、随分と綺麗な顔立ちとお上品な物腰らしくって、どっかの金持ちの番から逃げ出してきたんじゃないかって噂だ」
番に逃げられてそのままにしておく獣人はいない。獣人の番に対する執着は激しい。もちろん家同士のつながりを深めるための「政略番」もまれにいて、その場合はお互いに無関心なこともあるが、縄張り意識の強い獣人の世界では珍しい。
政略番でない、自分で決めた番ならば絶対に見つけ出して連れ戻すだろう。もし番が新しい相手なんて見つけていたら最悪で、番も相手も死に追いやる可能性がある。
「……派手な揉め事は困るな」
思わず深いため息が出た。
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