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深夜の訪問者
しおりを挟むいつも通りの夜のはずだった。
アズラークの屋敷は静まり返っていて、風の音がすこし騒がしい。
与えられたベッドでぐっすり眠っていた俺は、俺を呼ぶ声とに薄く目を開いた。
「……タ君、……サタ君、いい加減目を覚ましてくれないかな?」
「……っ!?」
目を開くと、暗闇の中に爛々と光る瞳と目が合った。
どうやら俺に覆いかぶさっているらしい男は、大きな掌で俺の口を覆い隠している。
「しー……。あんまり大きい声ださないでね。アズラークが起きちゃったら面倒だから」
『アズラークが起きちゃったら』ということは、不法侵入なんだろうか。
心臓がどくどくと嫌な音を立てて冷や汗がにじむ。
どこをどう抑えられているのか、身体がまったく動かない。
恐怖に縮み上がっている俺を見て、俺に覆いかぶさっている男はニコリと作ったような笑みを浮かべた。
「心配しないでよ。君を浚ったり襲ったりしないから。どっかの騎士団長よりも安全でしょ? あのね、俺の名前はルアン。ルアン・クルーガー。近衛兵団の団長をやってる。いきなり本題だけどね、サタ君。レオンに会いたい?」
「……!」
俺がレオンの名前に反応して大きく目を見開くと、俺の感情を読み取ったらしい男は笑みを深くした。
「あ、会いたいんだ? じゃあ、俺がこれからこの手を放しても、イイ子でいてくれるかな?」
俺が視線でうなずくと、男はあっさりと俺の上から体をずらし、そっと手を放した。
「レオンは……!?レオンは、無事なのか!?」
「しーっ……!もうちょっと小声で!無事だよ。俺の屋敷でかくまってる。君の名前を呼んで毎日ミャーミャーうるさいけどね。」
「良かった……。無事だったんだ……」
男---ルアンの言葉に俺は胸をなでおろした。
行方不明になって、どこかで辛い思いをしているんじゃないかと不安だった。
ちゃんとご飯は食べられているのか。前よりもひどい境遇さらされているんじゃないか、と心配していた。
大の大人が情けないけど、じわりと目元に涙が滲んだ。
「・・・・・サタ君。君は僕が思っていたニンゲンとちょっと違うね。獣性が薄い獣人とも全然違う」
『ニンゲン』と言われて俺は小さく肩をはねさせる。
彼が本当にレオンをかくまっているなら、俺が人間だってことも分かっているだろうけど、警戒心が隠し切れない。
ルアンは、そんな俺を楽し気に目を細めてささやいた。
「サタ君。アズラークが君に言っていない真実を、教えてあげようか?」
「しん、じつ?」
アズラークが隠していることなんてあるのか。
それはまぁ、大人だし他人なんだから言っていないことの一つや二つあるだろう。
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だけど少しの好奇心が俺の心から顔をのぞかせる。
「うん。俺たち獣人がニンゲンに惹かれるわけを知ってる?」
「本能だからって聞いてますけど……」
「ああ、確かに本能だ。市井の者はただそれだけしか知らないが……本当は違う。ただの本能なんかじゃない」
首をかしげる俺に、ルアンは低い声をさらに深く落とす。
「これから話すことは貴族の中でもごく一部の者しか知らない。なにしろ今の王族が『王族』として成り立つよりずっと前の話だからね」
内緒話をするように声を落とすルアンに、俺も少しだけ顔を寄せて耳を傾けた。
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