ハロウィントリップ!〜異世界で獣人騎士に溺愛された話〜

のらねことすていぬ

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夜の町

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 ルアンさんに抱えられたまま馬に乗せられて、俺たちは夜道をひた走っていた。馬は風を切って駆ける。辺りは真っ暗だけど迷いなく進む馬の蹄が、硬い石畳の道に当たりけたたましい音を立てている。

 騎乗に最初は少し戸惑っていたようなレオンは、しばらくしたら慣れたのか器用に手綱を操ってルアンさんから引き離されることもない。一方俺は想像よりも遥かに激しく揺れる馬の背に、ただ歯を食いしばって耐えていた。体は玩具みたいに跳ねて尻も痛い。ルアンさんが俺の体を抱き込んでくれていなかったらとっくに振り落とされていただろう。だけど絶対に降ろしてくれとかゆっくり走ってくれなんて言いたくなくて、ただ息を詰めて奥歯を噛みしめた。

「ルアン団長!」

 どれだけ走っただろうか。他の馬の蹄の音と共に、若々しく張りのある声が夜道に響いた。
 馬の速度が緩められて、声の方向を見るとそこには、同じように馬に乗った何人かの獣人を引き連れたイレリオさんがいた。

「イレリオさん」

 馬は緩やかな速足のまま、イレリオさんは俺たちの横に並んだ。彼は鞍にしがみついている俺の顔を見るとなぜかぎょっとしたように目を見開く。

「イレリオ、早かったな」
「は、……はい。その、サタ君も来たんですか。レオン君も」

 ありありと困惑を顔に表しているイレリオさんは、馬に揺られている俺に小声で『大丈夫ですか?』と声をかけてくれた。そんなに辛そうな顔をしてしまっていたんだろうか。情けなさを内心反省して、鞍に捕まったまま背筋を伸ばした。

「ルアンさん。アズラークが失踪した館ってもう着くんですか?」
「ああ。すぐに見えてくる」
「じゃあイレリオさんに俺の匂い嗅いで貰っていいですか?……その、俺にアズラークの匂い、付いてると思うんで」

 自分で言っているくせに恥ずかしさに声が小さくなる。そうだ。俺にはアズラークの匂いがたっぷりと付けられている。なにしろ今朝まで触れあっていたし、あちこち舐められたまま風呂に入っていない。アズラークは俺に体を執拗に擦り付けて彼の匂いを染みこませようとしていたから、俺自身の匂いにきっとかき消されないくらいに、匂い付けされているはずだ。
 だけど俺の言葉にルアンさんは片方の眉を吊り上げる。

「騎士団にも訓練された犬獣人はいるし、匂いで探せる範囲はとっくに探している。今更匂いで探そうなんて無駄だと思うぞ」
「たしかに騎士団にも犬獣人は居ると思います……でも、彼らはこのスラムの奥深くまでは知らないですよね?」

 視線を前に向けると飲み込まれそうなほどの暗闇。その先にあるのはアズラークが失踪した館。その館の建つ場所は、普段お綺麗な騎士たちは立ち入らないようなスラムだ。騎士は上級職。彼らが住んでいるのは王都の中心で、夜の街に遊びに行くとしても高級なところばかりだろう。清潔な高級住宅街なんかと違ってスラムは生活の匂いも辺りに立ち込めている。だから騎士たちが僅かな匂いを頼りにアズラークを探すのは、不可能に近いと思う。
 だけど、それだって……案内役がいれば違うはずだ。

「少しの間住んでいただけで俺もそれほど知らないです。俺はここでは新参者です。だけど……レオンは違う」

 ちらりとレオンに視線を向けると、彼はどこか照れたように頬を掻いた。

「まぁここで育ってるからね」
「レオンは俺が来たばっかりの頃、抜け道も裏道も、危ない場所なんかも全部教えてくれただろ? 今度は逆だ。あの強いアズラークが連れ去られそうな危険な場所を教えてほしい」

俺の言葉にレオンは深く頷く。

「サタにはあんまり危険なところに行ってほしくないんだけど……そう言ってもいられないよね」

レオンは相変わらずの明るい笑顔でそう呟くと、馬の腹を軽く蹴って道を先導し始めた。

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