ハロウィントリップ!〜異世界で獣人騎士に溺愛された話〜

のらねことすていぬ

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薄暗い館

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 それからはあっという間だった。時間の感覚がぼやけてしまっているが、アズラークが失踪したという館へとたどり着くまでにそうかからなかったと思う。いつの間にか道は狭く入り組み、辺りからは人影が消えている。街灯のない道は闇に包まれていて、月明かりを頼りに進む。夜行性のルアンさんやレオンは夜目がきくからいいけど、ただのニンゲンの俺にはほとんど真っ暗だ。

 聳え立つ館は、俺が住ませてもらったアズラークの屋敷や、ルアンさんの屋敷とは大違いだった。館の周りを取り囲む柵は錆びついて蔦がからみ、ところどころ壊されたような跡がある。館の壁もあちこちが剥がれ落ちてまるでお化け屋敷だ。

「ここ、ずっと悪い奴らの根城になってたところだよ。強盗とか薬の売人とかの」

 館を見つめたレオンが小声で呟く。

「危ない奴らだからスラムの住人でも滅多に近寄らない。娼婦なんかは、うっかり引きずり込まれないようにって気を付けてたし。それでも捕まってまわされちゃう子もいたけどね」
「そんなところだったのか……」

 レオンの言葉にルアンさんが眉を顰めた。騎士である彼らにはやっぱり娼婦も彼女らの日常も遠いものなんだろう。

「昔は違ったんだよ。それこそ俺がスラムに来たばっかりの頃は、ここも遊び場だった。だけど……王様が変わったり色々あった頃から変な奴らが入って来たんだ」

 そう言いながらもレオンは気にした風もなく、馬からひらりと飛び降りた。

「騎士団がもう内部は見たんでしょ?確か地下通路への抜け道があったと思うから、そっちから行こう」

 彼の言葉に皆一様に頷いてその場に手綱を括りつけていく。俺もルアンさんが抱えて降りてくれてその場によたよたと足を着く。馬に揺られていたせいか地面が揺れているようだったけど、置いて行かれるわけにはいかないから何とか踏ん張る。俺のことを心配そうに見えてくるイレリオさんの視線を無視して、軽く駆け足になるレオンの後に続いた。大きな屋敷の裏手にぐるり周り、荒れ果てた庭を進む。膝まで覆うように生えた雑草。長く手入れをされることがないせいで伸び放題の植木。どこかで虫が蠢く気配もして気味が悪い。がさがさと音を立ててその庭へと踏み込んでいくと、古ぼけた井戸が佇んでいた。


「あ、ここだ。こっから入れるよ」
「おい、気を付けろよ」

 あまりにも躊躇いなく進んでいくレオンに、ルアンさんが引き留めるような言葉を掛ける。だけどレオンは器用に井戸の淵に立つと、その中にあっさりと飛びこんだ。

「ちょ、レオン……!?」
「平気だよ、この中は水もないし。でも誰か明かり持ってる?」
「お前ね……持ってなかったらどうするつもりだったんだよ……」

 慌てて井戸の中を覗き込んで声をかけると、いつものどこか楽天的な声が暗闇の奥から響いてくる。その声に呆れたようなため息をついたルアンさんが、イレリオさんに手で合図をする。イレリオさんは手早く腰元から布を取り出すと、手近な木の棒に巻きつけ油を掛けると火を点けた。

 他の団員も同じように準備をすると、ルアンさんに目配せをして井戸の中へと入っていく。そうして最後に、ルアンさんが俺を抱きかかえて深い闇の奥へと飛びこんだ。




 井戸の奥はひやりと冷たく、足元は濡れて滑りやすい。悪路で獣人のペースにとてもついていけない俺は、ルアンさんに抱えられていた。松明に照らされて壁面を這いまわる虫が目に入って、俺は零れそうになる悲鳴を飲み込んだ。

「……いつまで進むんだ」

 ぴしゃぴしゃと足元で水音を響かせながら走るルアンさんが、レオンに尋ねる。確かに井戸の中に入ってからもうどれくらい走ったか分からないほどだ。それくらいこの地下道は長かった。背の高い獣人が屈まずに通れるほどの高さもある。だけど、当然窓一つない圧迫感が俺たちの神経をぴりつかせた。

「もうちょっとで、屋敷の地下からの道と合流する、はず」
「イレリオ、匂いは?」
「すみません、この水と臭気でかき消されてしまって……」

 イレリオさんはさっきから何度も俺の首筋に鼻先を突っ込んで匂いを嗅いでは、辺りを伺うように嗅ぎまわっている。だけど一向にアズラークの匂いは見つからないようで首を横に振った。

 だがそんな言葉を交わした時に、俺たちはただ薄暗い地下道に終わりが見えた。数段の階段。そしてその先には、少しだけ開けた石でできた部屋のような場所があった。

「あ、ここだよ。屋敷と繋がる通路」

 ようやくの道の終わりにレオンの声が明るく響く。だけど、ぞくぞくと嫌なものが背筋を這う。
なぜだろうか……嫌な予感がする。なんでだろう。分からないけれど、背中に冷や汗をかく。そうしてそこに踏み入れた瞬間、俺は目を見開いた。

「な、……なに、これ、」



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