ハロウィントリップ!〜異世界で獣人騎士に溺愛された話〜

のらねことすていぬ

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 奇声を発したかと思えばサタはその場で頭を掻きむしり、しきりに俺が牙を立てた痕の残る項を撫でる。腕を組み小声でぶつぶつと『そう言えばイレリオさんも項がどうとか噛みたいとか言ってた気がする』と言ったのを聞いて、俺の耳がぴくりと動いた。

「イレリオがお前の……好きな相手なのか?」
「違う違う!」

 あの近衛兵団の若い雄犬か。そう言えばサタが一度逃げ出した時も犬の匂いがした。自然と声が低くなってしまい唸るように尋ねると、サタは弾けるように俯けていた顔を上げてこちらを見つめた。
ふー、と彼が何度か深呼吸をする。それからまるで緊張しているかのような固い声を上げた。

「何で口で番になりたいって言わないんだよ」
「項を噛めば分かるだろう」
「……分からないよ」

 そう言うと彼はがっくりと肩を落とした。しばらくそのまま困ったように唸り。そして立ち上がっていた彼は、跪く俺の前に、同じように床に膝をついた。

「いや……ごめん。アズラークのせいだけにしちゃだめだよな」
「サタ……?」
「俺もアズラークがいなくなっちゃってから色々考えたんだ」

 不意に近くなった距離に戸惑う。再びこんなに近くにいられるなんて思わなかった。だけどそれをサタは全く気にしていないのか、まるで内緒話をするかのように小さな声で呟き始めた。

「俺、ずっと閉じ込められてて、体の関係はあるのに番にしたいとか言われなくて不安だった。最初に会った時も男娼と客としてだっただろ? だからそういう風に扱っていい奴って思われてるんじゃないかとか考えて苦しかった」

サタの言葉に目を見開く。乱雑に、性処理の相手のように扱っていいなんて思ったことはない。たとえもともと男娼をしていたとしても、今までの相手に嫉妬をすることはあっても彼を軽んじるようなことは絶対にない。あれだけ項を噛んで愛を示していたというのに。伝わっていないなんてことは、あるはずないのに。だが俺が口を開く前に彼は軽く首を横に振った。

「でも俺だってアズラークが何考えてるか想像するばっかりじゃなくて、自分で言わなきゃダメだったよな」
「……自分で?」

 うん、と小さくサタは呟いた。そして俺の瞳を覗き込むように真っすぐ見つめる。黒い眼が静かな夜のようだ。だけどその中には星ではなくて、呆然と彼を見つめる白い獅子が映っていた。

「アズラーク、俺アズラークが好きなんだ。最初に会って助けて貰った時に格好いいって思った。それから一緒に住んで優しいところとか頼りになるところとか知ってどんどん惹かれてた。でも俺は獣人じゃないし、スラムで男娼なんかしててアズラークとは身分が違うから……番にして欲しいって言えなかった」

 番に。俺の聞き間違いだろうか。それとも都合のいい夢だろうか。
 吸い込まれそうな彼の瞳を見ていると、サタは小さく唾を飲み込んで、それからはっきりとその言葉を口にした。


「好きだよ、アズラーク。番にして欲しい」

 そう言うが早いか彼は俺の体に飛びついてきて。呆然と動くことすらできない俺の項に、甘く歯を立てた。


「……本当に、いいのか」

 信じられない。サタの細い体を抱きしめたまま掠れた声で呟く。

「後でやっぱり嫌だと言われても、もう手放せない」

 先程までは彼のことを手放そうと思っていたけれど、一度番になれると舞い上がった心はやはり冗談だったと言われてももう歯止めが利かない。震えそうになる手で彼の後頭部を抱き込むと、耳元でくすくすと笑い声がした。

「俺が、アズラークの番になりたいんだ。最初からずっと好きだったって言っただろ?」
「サタ……俺もだ。俺も、一目見た時からずっと好きで……どうしようもなく愛している」

 彼が逃げ出さないことが信じられない気持ちで、恐る恐る腕から力を抜く。俺のかさついた掌でそっと彼の頬を包み込むと黒い瞳が穏やかに微笑んだ。赤い唇が誘うように開かれる。俺は抗うことなんてできるはずもなく、その蠱惑的な唇に噛みつくように口づけた。


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