まいにち、晴れて

満奇

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坂本凪の悪夢2

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 店を出た後、ひたすら走る。バイト中の文高が追いかけてくるわけないとわかっていても、恐怖が足を先へ先へと動かさせた。

 なんで、なんで文高がいるんだ。

 逃げれたはずなのに、なんで・・・どうしたらいい・・・これ以上どうしたらいいんだよ。

 滅多にしない全力疾走のせいで酸欠を起こしている脳みそはぐるぐるぐるぐる「なんで」を繰り返した。



 スピードそのままにアパートの部屋に辿り着き、鍵を閉め、やっと息をつくことができた。よく考えれば文高は追って来てないし、そもそも大学名もアパート名も携帯電話の番号だって知らせてないんだから、直接会わなければ、文高が俺にコンタクトをとることはできない。

 「なんで」を巡らせていた頭は、今度は自己暗示やまじないのように「大丈夫・・・大丈夫」と唱えはじめた。



 



 でもそれは、甘い考えだったらしい。

 二日後、大学の門の前に文高がいた。身長が高くてまあまあ顔のいい文高は、強い存在感を放っていて、すぐにいることに気付いた。そして文高も俺に気付いてしまったらしい。すぐに駆け出そうとした腕を強く掴んで、俺の恐怖心を掻き立てる笑顔を見せる。

「なあ、兄貴、ちょっと話があるんだけど」

「俺は、ないっ」

 そう言って手を振りほどこうとしたが、力が強くて上手くいかない。

「そういうなよ」

 文高は内緒話でもするように、俺の耳に顔を近づけて囁く。

「辻さんのこと、好きなんだろ」

 顔が青くなるのがわかる。

 もう、絶望しかない。

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