Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都

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第三部

60.ふたりを分かつもの 2

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 トレーを持って立ち上がり僕の隣に並んだ時、彼女は
「もし一緒に続けられなくなっても、私に気を使わなくていいからね。アイスダンスを好きなら、趣味で楽しめる人とぜひ続けて。制覇君となら、組みたいっていう女の子はいっぱいいると思う」
 と明るく言った。

 僕は、自分の将来なんか何も怖くなかった。それはたぶん陽向さんも同じだろう。どちらも負けず嫌いで無鉄砲で、自分のことしか頭にないうちは後先考えずに突き進むことができた。
 だけど将来というものは、自分にしかないわけじゃない。共に歩むということは、相手の将来の一部をお互いが背負うことにもなってしまうんだ……。

 陽向さんは、僕たちが終わることを受け入れようとしている。
 彼女は僕に、家族と相談するようにと言ってくれた。父も母も、僕を応援してくれている。二人は理由もなく何でも反対してくる家族ではない。だけどうちは「普通」の家庭だ。今回のようなことを相談したって、僕は「普通」の家庭の現実を聞かされるだけ。僕は、家族にかける負担に悩まされることになる。陽向さんはそんな僕のことを思ってくれていた。そして僕がアイスダンスをやめたとしても、受け入れる覚悟をしてくれていた。

 僕も僕で、彼女の将来を考える。
 僕がアイスダンスをやめても、今なら港さんがいる。

 今なら、陽向さんは困らない。

 そんな感情に流されそうになった時だった。全日本ジュニアに敗れた観客席での光景がフラッシュバックした。彼女のパートナーとして自信を失いかけていたあの日、僕は陽向さんにしっかりと手を握られた気がした。
 鮮やかによみがえるあの日の記憶が、僕の感情を塗り替えた。

 どうすれば。どうすれば思い切り練習できる場所へ一緒に行ける? 全日本ジュニアまでだけではなく、そのあとの長い道のりもずっと一緒に。

 いざとなったら学校なんかやめようか。そうすれば働いて費用を何とかすることもできる……。
 今までの「普通」を捨てられないようじゃ、世界は目指せない。それが本気というものなのかもしれない。

 リンクに戻ると、僕はあたりを見回した。南場さんの姿は見えない。大学生なら外国のことや仕事のことも知ってるんじゃないかと思ったんだけど……。

 駅までの帰り道、広げた傘の中でも僕は思いを巡らせていた。ふと、流斗のことが頭に浮かんだ。あいつに相談したらどうだろう。費用のこと、学校のこと、外国での生活のこと。僕が知りたいことを全部知っている。
 でもすぐにあいつが僕とは違うということを思い出す。
 だめだ。聞いても意味がない。どんなに費用がかかっても、あいつには関係ない。留学する能力だってあるし、生活は……どうしてるか知らないけど、あいつが向こうでバイトとかやってるわけがない。そんな奴に相談なんかしても仕方ない。

 人気のない夜の改札。夕方ここを通った時には、まさか自分がこんなことで悩むことになるなんて思っていなかった。いつも通り普通にここを通り、これからも普通に練習を続けていけるものと思っていた。
 目の前にあるのはいつもと変わらない景色。
 だけどもう、今まで通りとはいかないのだろう。それに気づかずここにいては、夢を叶えることはできない。

 なんとかするしかない。
 数時間前とはもう状況が変わったのだ。
 本気で動かなければ、すべてが終わる。
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