Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都

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第三部

89.キス&クライ 4【終】

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 モミの木の天井に、大きなスクリーンがかかる。
 本来氷のある場所には仮設の床が張られ、スクリーンに向かって椅子が何百も並べられた。椅子はすでに大勢の人で埋まっている。もうじき始まるパブリックビューイングの準備にスタッフは駆け回り、空いている席を求めて観客は辺りを見回している。

「放送、何時からでしたっけ?」
「あと十分で練習滑走だよ」
「音響入れますね」

 スクリーンに映し出された「MUENCHEN 20XX」と書かれた氷の張るリンク。スピーカーから中継の声が入る。
『……日本から三組のアイスダンス出場というのは、オリンピックでは初ということですね』
『そうなんです。日本もこれほどの枠を確保できるまで力をつけてきました。今回出場する三組についてはどの組も実力が高く、かつ魅力的で、世界からもたいへん注目されています』
『それは見るのが楽しみです。さあ、間もなくスタートです』

 中学生くらいの少年少女が十数人、通路できょろきょろしている。
「ああ、やっと来た! あなたたちにはよく見える席取ってあるから、そこに座って!」
 遠くからスタッフに大声で叫ばれ、少年少女たちは急いで指を指された席へと向かう。
「早く早く!」

 開幕に向かい準備が整えられていく会場を、拡声器を手に理子さんが見守っている。
「いよいよね。ところで、あなたは現地に観に行かなくてよかったの?」
「あはっ。ミュンヘンなんて、遠いじゃないですか」
 スタッフの帽子をかぶりイヤホンを耳にそう答えたのは、果歩だった。忙しそうにPCとスクリーンとを見比べている。
「そっか。果歩んち、厳しいもんね」
 理子さんの言葉に果歩がくすりと笑う。
「やだ、理子さん。いつの話してるんですか」

 観客たちの顔が上気し、スクリーンに向かって手にした国旗を振りだした。果歩は満足げに会場を見回した。
「私はずいぶん前から、自由ですよ」

 そんな果歩の姿を、僕は見ることはなかった。
 なぜかって――


"Our next skaters represent Japan. Hinata Otogawa and Seiha Amamiya!"

 会場にアナウンスが響く。差し出した僕の手に、陽向さんの手が重なる。緊張と高揚とで鼓動が速くなる。

 観客席には、僕たちの名前の並んだバナーが揺れている。その向こうに、はるか遠くに浮かぶいくつもの笑顔が見える気がした。
 どんなに離れていても、あの場所に夢はきっと届く。僕らは繋がっているんだ。

 僕たちは顔を見合わせると大きく息を吸い、舞台へと滑り出した。

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