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少女との出会い
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木山奈津子は真っ白なドアの前で呼吸を整えていた。奈津子は今から1人の少女と会うことになっている。持っているバインダーに挟まれた白い紙もう一度を見た。そこには今から会う少女についての情報が10枚にわたり書いてある。
柳葉 粋架【やなぎば すいか】14歳 薬物依存
始めの一文を読むだけでも相当な闇を抱えた中学生に思えた。この子は14歳にして薬物をやっている。そう思うと私は少しでも早くこの子を今いる世界から出してあげたいと思った。しかし臨床心理士になって1年しか経っていない私にちゃんと役目を果たせるか不安だった。私は今まで社会の中で人間関係などに悩み心に傷を抱えた人達だけを見てきた。でも今から会う子は違う。私は薬物についての知識はあまり持っていない。しかしそんなことを言っても今さら引き返せない。
決心を決めドアを開けた。そこにはソファーに浅く座っている女の子がいた。その隣に置いてあった椅子に座る。髪の毛は茶色のロングヘアーでフードをかぶっていた。長袖の下から見える手足は真っ白で細かった。
「はじめまして。今日からあなたのカウンセリングを担当する木山奈津子です。よろしくね」
私は平常心を保っているかのように自己紹介した。しかし粋架ちゃんはまるで聞こえてないかのようだった。目も合わせてくれない。それでもめげずに話し続ける。
「粋架ちゃんっていつもどんなテレビ見てるの?」
身近な話題を振ってみる。
その時の粋架ちゃんは虚ろな目つきで何を考えているのか全くわかんなかった。
私は「そんなこといきなり言われてもわかんないよね」とか言いながら話を続けていた。すると粋架ちゃんが焦点の合わない目でこっちを見ながらぼそっと
「先生さ私の事可哀想とか思ってる?別に私は今のままの人生で満足してるから」
そう言ってきた。しかしその顔に笑顔はなかった。
「そうなんだ。粋架ちゃんは今、楽しんだね」
私がそう言うと粋架ちゃんはおもむろに立ち上がりドアの方に歩いていく。粋架ちゃんは今日からここに入院することになっている。
「粋架ちゃんどこ行くの?」
私も立ち上がり粋架ちゃんが出て行くのを引きとめようとして腕をつかんだ。すると粋架ちゃんの体はビクッと跳ね上がり、不審者に掴まれたかのように恐怖に包み込まれた目に変わった。
「やめて!やめて!」
粋架ちゃんがいきなり大きな声で叫びだし、その場にしゃがみ込んだ。頭を抱えながら後ずさりしていく。その時長袖がめくれ、細い腕が見えた。そこには無数のリストカットの跡があった。私は粋架ちゃんの華奢な体に手を添え
「粋架ちゃん?どうしたの?大丈夫?」
そう言うことしかできなかった。するとバン!と大きな音とともに私の顔に粋架ちゃんのバッグが当たった。
「やめて!来ないで!」
粋架ちゃんの表情は恐怖に怯えきっていた。騒ぎを聞きつけ何人かの先生が駆け寄って来た。粋架ちゃんはその人たちによって押さえつけられ運ばれていく。私はその間どうすればいいのかわからず何にもできなかった。バッグが当たったところが熱くなっていくのがわかる。しかし不思議と痛くはなかった。気がつけば投げつけられたバッグを見つめていた。チャックを開けてみる。中にはお財布と携帯とポーチと1枚の写真が入っていた。写真の中で幼稚園生ぐらいの女の子とお母さんとお父さんが幸せそうに笑っていた。ポーチのチャックを開けてみた。中にはメイク道具とカッターが入っていた。カッターをみた瞬間粋架ちゃんの腕に無数のリストカットの跡があった事を思い出した。
あれから1時間が経っていた。その間奈津子はずっと考え込んでいた。粋架ちゃんのカウンセリングの担当は本当に私でいいのか。さっき粋架ちゃんが取り乱した時も大丈夫?と声をかける事しかできなかった。そしてもっと粋架ちゃんを混乱させてしまった。私が担当する事によって粋架ちゃんの心の闇はもっと深くなっていくんじゃないか。そんな考えが頭の中をぐるぐると回っていた。
トン・トン
「はーい」
奈津子はふと我に返り返事をした。
「失礼します」
低い声が部屋の中に響く。粋架ちゃんの主治医の松山先生だった。奈津子は無意識のうちに立ち上がっていた。
「木山先生さっきは大丈夫でしたか?」
「はい。私は大丈夫です。粋架ちゃんは?」
松山先生は少し微笑みながら
「彼女ならさっき薬を投与しました。今は落ち着いて寝ています」
そう言った。私はその言葉を聞き少しホッとした。
「ご迷惑おかけしました」
私は少し頭をさげ、謝った。松山先生は顔の前で手を振りながら
「いえいえ、ご迷惑なんて。それよりも何か悩んでいるんじゃないですか?」
そう言われた。私はとっさに「大丈夫です」と言おうとしたが松山先生にはなぜか本当の事を言おうと思った。
「さっき粋架ちゃんが取り乱した時私は何にもできませんでした。それどころか逆に混乱させてしまったんです。それで私思ったんです。粋架ちゃんの担当は本当に私でいいのかなって」
奈津子は少しうつむいていた。しかし松山先生は
「粋架ちゃんについての資料読んでくれましたか?確かにあの子の闇は相当深いし、簡単に治るものでもありません。しかし私は資料を読んだ時木山先生に彼女のカウンセリングをお願いしたいと思ったんです。木山先生には木山先生にしかできないやり方があると思ったから。お願いできますか?」
そう言った。
"木山先生にしかできないやり方"
私はそう言われた途端勇気がわいてきた。私は初めからそう言われたかったのかも知れない。松山先生なら言ってくれると思ったから本当の事を言ったんだ。
「はい!私にやらせてください!」
奈津子の返事を聞いたとともに松山先生はまたもや微笑んだ。
「お願いします」
少しふざけたようにそう言うと松山先生は出て行った。
私にしかできないやり方。か。
それはなんだろう。しかし私はそんなに焦って探さなくてもいいと思った。焦って探したってきっと見失うだけで答えは見つからない。これから少しずつゆっくり探していこう。そう思った途端肩に乗っかっていた重りが溶けていくように軽くなった気がした。
奈津子は粋架ちゃんの病室にバッグを返しに行った。ベッドで寝ている粋架ちゃんの肌は青白かったが、その寝顔はとても美しかった。寝ている姿は普通の中学生の女の子だった。私はベッドの横に置いてある棚にバッグを置き部屋を後にした。
その日の帰り奈津子は本屋に寄った。帰りが遅かったため閉まっていると思ったがまだ開いていた。本屋に入ると一直線に薬物についての本を探した。見つけるのはそんなに大変ではなかった。
''薬物の危険性''という本を手に取った。軽く目を通しながら眺めていると薬物使用の兆候と症状というページが目に入ってきた。そこにはこう書かれていた。
薬物を使っている人に共通するいくつかの症状があります。
・突然の行動の変化
・情緒不安定になる
・家族から孤立する
・身だしなみに無頓着になる。
・趣味やスポーツなど好きなことへの興味の喪失。
・睡眠パターンが不規則になる
・目の充血。虚ろな目つき。
・鼻をすする。
以上は薬物を頻繁に使用することによる体への影響と症状です。使用する薬物によっては幻覚や幻聴、体のかゆみなどが出てくることもあります。
私はここまで読んだ時、粋架ちゃんが薬物をやっていたことをはっきりと認識したような気がした。さっき粋架ちゃんが取り乱したのはきっといきなり私が腕をつかんだことによって恐怖心から幻覚やなんかしらの症状が出たんだと思った。その時粋架ちゃんと接する時は少し注意を払わなきゃいけないことを思い知らされた。私が今まで担当してきた患者さんもそうだったがそれ以上に行動を注意して接していかなければならない。私はその日その本を買って帰った。
奈津子は家に帰るとさっき買った本と粋架ちゃんについての資料を取り出した。
初めに資料を読んだ。そこには今までどのように粋架ちゃんが暮らしてきたかなど生い立ちが書かれていた。
柳葉 粋架【やなぎば すいか】14歳 薬物依存
始めの一文を読むだけでも相当な闇を抱えた中学生に思えた。この子は14歳にして薬物をやっている。そう思うと私は少しでも早くこの子を今いる世界から出してあげたいと思った。しかし臨床心理士になって1年しか経っていない私にちゃんと役目を果たせるか不安だった。私は今まで社会の中で人間関係などに悩み心に傷を抱えた人達だけを見てきた。でも今から会う子は違う。私は薬物についての知識はあまり持っていない。しかしそんなことを言っても今さら引き返せない。
決心を決めドアを開けた。そこにはソファーに浅く座っている女の子がいた。その隣に置いてあった椅子に座る。髪の毛は茶色のロングヘアーでフードをかぶっていた。長袖の下から見える手足は真っ白で細かった。
「はじめまして。今日からあなたのカウンセリングを担当する木山奈津子です。よろしくね」
私は平常心を保っているかのように自己紹介した。しかし粋架ちゃんはまるで聞こえてないかのようだった。目も合わせてくれない。それでもめげずに話し続ける。
「粋架ちゃんっていつもどんなテレビ見てるの?」
身近な話題を振ってみる。
その時の粋架ちゃんは虚ろな目つきで何を考えているのか全くわかんなかった。
私は「そんなこといきなり言われてもわかんないよね」とか言いながら話を続けていた。すると粋架ちゃんが焦点の合わない目でこっちを見ながらぼそっと
「先生さ私の事可哀想とか思ってる?別に私は今のままの人生で満足してるから」
そう言ってきた。しかしその顔に笑顔はなかった。
「そうなんだ。粋架ちゃんは今、楽しんだね」
私がそう言うと粋架ちゃんはおもむろに立ち上がりドアの方に歩いていく。粋架ちゃんは今日からここに入院することになっている。
「粋架ちゃんどこ行くの?」
私も立ち上がり粋架ちゃんが出て行くのを引きとめようとして腕をつかんだ。すると粋架ちゃんの体はビクッと跳ね上がり、不審者に掴まれたかのように恐怖に包み込まれた目に変わった。
「やめて!やめて!」
粋架ちゃんがいきなり大きな声で叫びだし、その場にしゃがみ込んだ。頭を抱えながら後ずさりしていく。その時長袖がめくれ、細い腕が見えた。そこには無数のリストカットの跡があった。私は粋架ちゃんの華奢な体に手を添え
「粋架ちゃん?どうしたの?大丈夫?」
そう言うことしかできなかった。するとバン!と大きな音とともに私の顔に粋架ちゃんのバッグが当たった。
「やめて!来ないで!」
粋架ちゃんの表情は恐怖に怯えきっていた。騒ぎを聞きつけ何人かの先生が駆け寄って来た。粋架ちゃんはその人たちによって押さえつけられ運ばれていく。私はその間どうすればいいのかわからず何にもできなかった。バッグが当たったところが熱くなっていくのがわかる。しかし不思議と痛くはなかった。気がつけば投げつけられたバッグを見つめていた。チャックを開けてみる。中にはお財布と携帯とポーチと1枚の写真が入っていた。写真の中で幼稚園生ぐらいの女の子とお母さんとお父さんが幸せそうに笑っていた。ポーチのチャックを開けてみた。中にはメイク道具とカッターが入っていた。カッターをみた瞬間粋架ちゃんの腕に無数のリストカットの跡があった事を思い出した。
あれから1時間が経っていた。その間奈津子はずっと考え込んでいた。粋架ちゃんのカウンセリングの担当は本当に私でいいのか。さっき粋架ちゃんが取り乱した時も大丈夫?と声をかける事しかできなかった。そしてもっと粋架ちゃんを混乱させてしまった。私が担当する事によって粋架ちゃんの心の闇はもっと深くなっていくんじゃないか。そんな考えが頭の中をぐるぐると回っていた。
トン・トン
「はーい」
奈津子はふと我に返り返事をした。
「失礼します」
低い声が部屋の中に響く。粋架ちゃんの主治医の松山先生だった。奈津子は無意識のうちに立ち上がっていた。
「木山先生さっきは大丈夫でしたか?」
「はい。私は大丈夫です。粋架ちゃんは?」
松山先生は少し微笑みながら
「彼女ならさっき薬を投与しました。今は落ち着いて寝ています」
そう言った。私はその言葉を聞き少しホッとした。
「ご迷惑おかけしました」
私は少し頭をさげ、謝った。松山先生は顔の前で手を振りながら
「いえいえ、ご迷惑なんて。それよりも何か悩んでいるんじゃないですか?」
そう言われた。私はとっさに「大丈夫です」と言おうとしたが松山先生にはなぜか本当の事を言おうと思った。
「さっき粋架ちゃんが取り乱した時私は何にもできませんでした。それどころか逆に混乱させてしまったんです。それで私思ったんです。粋架ちゃんの担当は本当に私でいいのかなって」
奈津子は少しうつむいていた。しかし松山先生は
「粋架ちゃんについての資料読んでくれましたか?確かにあの子の闇は相当深いし、簡単に治るものでもありません。しかし私は資料を読んだ時木山先生に彼女のカウンセリングをお願いしたいと思ったんです。木山先生には木山先生にしかできないやり方があると思ったから。お願いできますか?」
そう言った。
"木山先生にしかできないやり方"
私はそう言われた途端勇気がわいてきた。私は初めからそう言われたかったのかも知れない。松山先生なら言ってくれると思ったから本当の事を言ったんだ。
「はい!私にやらせてください!」
奈津子の返事を聞いたとともに松山先生はまたもや微笑んだ。
「お願いします」
少しふざけたようにそう言うと松山先生は出て行った。
私にしかできないやり方。か。
それはなんだろう。しかし私はそんなに焦って探さなくてもいいと思った。焦って探したってきっと見失うだけで答えは見つからない。これから少しずつゆっくり探していこう。そう思った途端肩に乗っかっていた重りが溶けていくように軽くなった気がした。
奈津子は粋架ちゃんの病室にバッグを返しに行った。ベッドで寝ている粋架ちゃんの肌は青白かったが、その寝顔はとても美しかった。寝ている姿は普通の中学生の女の子だった。私はベッドの横に置いてある棚にバッグを置き部屋を後にした。
その日の帰り奈津子は本屋に寄った。帰りが遅かったため閉まっていると思ったがまだ開いていた。本屋に入ると一直線に薬物についての本を探した。見つけるのはそんなに大変ではなかった。
''薬物の危険性''という本を手に取った。軽く目を通しながら眺めていると薬物使用の兆候と症状というページが目に入ってきた。そこにはこう書かれていた。
薬物を使っている人に共通するいくつかの症状があります。
・突然の行動の変化
・情緒不安定になる
・家族から孤立する
・身だしなみに無頓着になる。
・趣味やスポーツなど好きなことへの興味の喪失。
・睡眠パターンが不規則になる
・目の充血。虚ろな目つき。
・鼻をすする。
以上は薬物を頻繁に使用することによる体への影響と症状です。使用する薬物によっては幻覚や幻聴、体のかゆみなどが出てくることもあります。
私はここまで読んだ時、粋架ちゃんが薬物をやっていたことをはっきりと認識したような気がした。さっき粋架ちゃんが取り乱したのはきっといきなり私が腕をつかんだことによって恐怖心から幻覚やなんかしらの症状が出たんだと思った。その時粋架ちゃんと接する時は少し注意を払わなきゃいけないことを思い知らされた。私が今まで担当してきた患者さんもそうだったがそれ以上に行動を注意して接していかなければならない。私はその日その本を買って帰った。
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