成瀬と颯

アズ

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01 秘密

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 栗色のアシメントリーボブに女子みたいに背が低い成瀬は炎天下の中、体育祭のリレーの練習に汗をかきながら走っていた。ほとんどの学校が体操着がハーフパンツの中、それより短い青のクウォーターパンツだった。毛は剃ってあるのか、生えないのか露出した白い足は汗で少しテカっている。走り終えた成瀬は「はぁー」とサラッとした髪を揺らしながら皆が整列するところへ戻っていく。高校一年生なのに童顔で本当に男子なのかと思ってしまう。頬は少し赤く、唇はピンク色。白い歯は一度も虫歯をしたことがない。額を手で拭いながらそして、成瀬は俺の隣に腰をおろし体育座りをする。彼のズボンの尻がグラウンドの砂の上に着く。
 そんな俺は黒髪のツーブロで背は逆に高くその差はまるで凸凹コンビのよう。
 実は同じ小学校で、そのまま地元の高校に進学したってところだ。その時から何故か俺は成瀬のことが気になって彼を遠くから見ていた。
 自分でもおかしいと分かっている。男が男を好きになるなんて。でも、何故かクラスの女子よりも成瀬の方が気になった。
 最近ではマイノリティーや多様性が騒がれる世の中だが、俺達の中ではまだそういった認識が広がっているわけではない。それに、俺自身まだ認めたくなかった。
 中学生の頃なんて皆声変わりで声質が変わり、成瀬もきっと声が低くなって男らしくなると思った。そうすれば、その声を聞いて目が覚めると思ったし、足や髭が出たり筋肉がついたらそれこそ本当に彼から意識が離れていくのだろうと思った。なのに全然そんなことがない。元々声の高かった成瀬が声変わりしてより好みの声質になって俺はすっかり沼に落ちていた。可愛い系のアイドルを目指せばもしかするといけるかもしれない。だが、そんな彼は女子から離れこの男子校へとやってきた。
 だが、単純に周りに女子がいなくて飢えた本能が成瀬を見て錯覚を起こしているだけかもしれない。だが、成瀬は間違いなく男子だ。水泳がある時間、成瀬は当然男子の水着を着る。その上半身は筋肉がちゃんとついていて腹筋が割れている。乳首の色は綺麗なピンクをしている。夢の中で何度想像したか。人差し指でもう片方の乳首に触れる。俺の片手は彼の下半身にあるものに手を伸ばし、彼が男であることをそっと触れて確かめる。彼が男であることを確かめると、彼は恥じらいながら少し声を漏らす。でも、彼は抵抗しようとはせず、むしろこちらに身を任せている。お互いの上半身が触れ、肌でお互いを感じ取る。体温、感触……成瀬が使っている洗剤の香りがして、俺は成瀬の顔に近づき彼の唇にそっと触れる。俺は次の行動に迷う。でも、決心する。彼の守っているゴムに手をかけ、彼が抵抗せず無言の同意を聞いてから俺はそれをおろして彼の両足から引き抜く……そんな想像してから自分が最悪な人間だと自己嫌悪に陥る。
 成瀬の小学生の頃から俺は知っているんだ。成瀬がどんな子で、どんなふうに成長したのかも俺は知っている。
 でも、分かっている。決してそれは叶うことはない。彼を性的に見ていることに罪悪感があるし、それを止めなければと思う。だが、彼が見せる笑顔と優しさを目の当たりにしてしまったら、俺の理性はどこかへ吹き飛び野生のゴリラになっている。それを必死におさえようとしても、毎日の寮での生活で一緒にお風呂に入る時、俺の心臓はリレーや持久走より鼓動が早く、常に爆発寸前の爆弾を抱え、いつか爆発して早死するんじゃないかとさえ思う程に毎日が大変で、そして楽しみの日課となっていた。




 何度も言うが彼は男である。勿論、法律上お互いが結ばれることはあり得ない。俺が好きになるべき相手は女性であって、社会人になってからは女性を探すべきなんだろうけど、これも何度も言うが俺はこれまで女性を好きになったことがない。俺の初恋は成瀬で、今もその恋が忘れられない存在になっている。本当は諦めて離れるべきだった。中学を卒業する時に俺達は離れ離れになって俺は成瀬のことを忘れる努力をするだけだった。なのに、成瀬が受験したのが自分と同じ学校でしかも合格したと分かると、俺は内心飛び跳ねて喜んだ。
 もう少しだけ成瀬と一緒にいられる。
 だが、成瀬は俺の本心を知らない。当たり前だが成瀬に本当のことを告白したら俺はきっと傷つくだろうし、成瀬に気持ち悪がれ、俺自身きっと耐えられなくなっているだろう。だから、俺は成瀬に気づかれないよう話しかけることもしないし、出来るだけ見ないようにしている。でも、欲望に負けてたまに成瀬を見ると、他の男子と仲良くしているのに嫉妬した。
 騎馬戦の練習、男子は上半身裸でやる。今どき、上半身裸を嫌がる男子もいたりして、廃止される学校があるなかでうちは変わらず伝統を守っている。その伝統が俺にとっては素晴らしいものだと感じるのは、円陣を組んだり男同士で裸で抱き合っているのを見ると、俺のいけない心が興奮するからだ。



 そんなある時、教室の隅で窓の外を眺めていると「よぉ」と成瀬が声をかけてくれた。
「ああ……」
「最近、話しかけてくれないじゃん。俺のこと嫌い?」
「いや、そんなことないよ」
「そぉ? 俺はお前が部活バスケの応援してくれてるの知ってるんだぜ。ありがとな」
「あ! ああ……」
「なんだよ、小学生の時はもっと喋ってたじゃん」
「いや……そうだっけ?」
「お前顔赤いぞ? 大丈夫か? 気分悪いなら保健室まで付き合うぞ?」
「いや……大丈夫だよ」
「いいって。遠慮するな」
 成瀬が俺に触れ俺を立たせる。
「あ、ありがとう……」
「いいってことよ」
 成瀬は笑顔でそう言った。
 別に体調が悪いわけじゃなかったが、断れきれず保健室へ向かった。




 保健室は開いていたが、そこに肝心の先生がいなかった。
「とりあえずベッドに寝て休んだら」
「う、うん……」
 俺は言われるままにベッドに横になった。人生で保健室のベッドに横になったのはこれが初めてだった。側臥位になって寝ると、その後ろにいきなり成瀬が入ってきた。
「え……」
「実はさ……はやてが俺のこと見ているの気づいてたんだ」
 俺の心臓はバクバク鳴る。
「実は俺も颯のこと見てたんだ」
「え……」
「中学生に入ったとたん、お前筋肉つき始めただろ? 陸上に入ってから足がまた速くなって」
 そう言いながら成瀬は俺の足を触り始めた。
「俺より太いんだな。羨ましいよ」
「そう?」
「俺もバスケやってるから持久力には自信があるんだけどさ、颯は本当に足速いよな。どんどん差が開いていくみたいだ……」
 成瀬の手は徐々に付け根まで到達する。
「俺、本当はお前に嫌われたくない。でも、本当のこと話すよ。俺、実はお前のことが好きだったんだ。筋肉とか俺よりあるし、デカいし、声も低くていいし、俺にないものを颯は持っている。なぁ、俺って気持ち悪いよな……」
「……実はさ、俺も成瀬のことがずっと昔から好きだったんだ」
 すると成瀬はいきなり俺を後ろから抱きついた。
「知ってた」
「ええっ!? いつから?」
「俺、ずっとお前を見てたんだぞ」
 成瀬はそう言って手を前に回した。成瀬の手を俺は感じ、俺も成瀬の方に手を回した。
「これは俺達だけの秘密な」
 俺はそれに頷いた。
「ああ、秘密だ」




 神はこんな俺達の関係を許してはくれるだろうか? 親はどう反応するのだろうか? この秘密の関係を皆に知られたらどうなるんだろうか? その恐怖がもし、俺達の関係を壊すんじゃないかと怯えない日はない。それでも、お互いの気持ちが確かめあえただけで、しかも両思いだったことは確かな幸せだった。この幸せが壊れることなく続いたらと願う。
 たまに、成瀬は隠す気がないのか風呂の体を洗う時、俺の隣の椅子に座った。俺の心は(おいおい!)と叫んでいるが一方でそれは喜びでもあった。
 ただ、それに気づき嫉妬した男子がこれから先、俺達の関係を阻むとは知らずに…… 。
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