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アカデミー生と正式になったエマにとって最初の試練となるのが、後期にアカデミー主催で行われる展示会に出展する作品を提出することだった。
アカデミー生になれたのも正直ギリギリの評価だったのではと思っている自分としては、正直不安でしかなかった。
「アンジェはもう後期の作品は何か考えていたりするの?」
「まぁね。エマはどうするの?」
「まだ何も浮かばない」
「あまり期間はないよ?」
「うん。早めに決めるよ」
一様、アンジェからはこの国の宗教について色々教わり、なんとなくは理解できたけど、それをいきなり絵にしろというのはエマにとっては難しいことだった。
それでも描き始めないとと、キャンバスの前に座るが、筆が全く進まなかった。
そう、肝心なものがなかった。
それは、自分は心の底から描きたいものが頭に浮かばないという致命的な状況が、目の前の真っ白なキャンバスを示していた。
まさか、真っ白なまま出すわけにもいかないよね…… 。
◇◆◇◆◇
一日は早く過ぎていき、気づけば締め切り期限が残り1ヶ月となっていた。それなのに、エマのキャンバスは真っ白なままだった。しかも、一点も作らずここまでずるずるときてしまっていた。
様子を伺いに覗いたアンジェは真っ白な綺麗なキャンバスを見て思わず悲鳴をあげた。
下の階にいたタルボットは「ん?」と天井を見たが、直ぐに掃除の続きを始めた。
「なにやってるの!?」
「絶望だぁ~」
「いやいや、なんでもいいからとにかく描かないと本当に間に合わないよ」
「アンジェはどう?」
「私のことはいいから! さぁ、手を動かして」
エマは唸りながらもようやくキャンバスに筆を置いた。
◇◆◇◆◇
そして、提出期限当日。
「な、なんとか完成……」
エマはそう言ったが、隣で見ていたアンジェはそのキャンバスを見て絶句していた。
「え? そんなにおかしい?」
「いや……私には難しいかなぁ……って」
アンジェの反応を見て凄く不安になったが、もう作り直している時間はない。
とりあえず急いでキャンバスを持ち、提出にエマは向かった。
◇◆◇◆◇
そして、展示会開催当日。
アカデミー生や画商が先に会場にぞろぞろと入っていった。
アカデミー生は他のアカデミー生の作品を見ては刺激を受けたり、学んだりする一方で、画商は売れそうな絵や将来可能性のあるアカデミー生の作品があれば、その作者のところへ行き、話しを掛けたり、目星をつけたりする。
そして、会場が開いてから一時間が経過したあたりで、評論家達が会場に現れた。その後ろを新聞記者達が追いかけている。
順に今年最後のアカデミー生の作品を見ていっては評価をしていく。
「全くなってないね、この絵は」
「まだ、描きかけじゃないのか?」
評論家達の厳しい声が聞こえると、絶望的な表情をするアカデミー生の姿がいたり、逆に高評価を受けたりすると、こっそりガッツポーズをするアカデミー生の姿がいたりした。
エマは自分の番が来るまで心臓がバクバクしていた。
エマより先にアンジェの作品の前に評論家達は止まった。
アンジェの渾身作であり、中心に天使がいて、明暗が珍しく使われている。
作者の名前を見た評論家は名前に納得した様子だった。
「アンジェか……アンジェの絵にしては珍しいな」
「しかし、今やスタンダードな技法なだけに新しさは感じられないな」
「確かに」
それを聞いたアンジェは少し表情を暗くした。
その前の作品、前期に出した際には大きなキャンバスに沢山の天使と悪魔を描き、激しい戦いの姿をダイナミックに描いただけに、今回はインパクトが薄れた様子だった。
対して今回の作品は既に他の画家がやってきた作品と似ている部分もあってか、評論家達の意見は厳しいものになっていた。
そして、いよいよエマの番だ。
おじさんが他の評論家達にパンフレットを見ながら「次は最年少でアカデミーに入ったエマという10歳の少女の作品です。えーと……タイトルはフェアリー……タイトルは普通ですが」と言って評論家達がエマの絵を見た瞬間、悲鳴が上がった。
「なんだこの絵は」
それは、沢山の妖精がキャンバスの上で大渋滞したような絵になっていた。真ん中に白いドレスを着た素足の少女を囲むかのように沢山の妖精が飛んでいる。
妖精の一人一人を見れば、皆違っていて、男の妖精もいて細かな絵ではあるが、問題は沢山い過ぎて気味が悪いものになっていた。
あまりのショックに評論家の一人が後ろから倒れて気絶までした。
「医者を呼べ! 医者だ、医者!!」
「大丈夫ですか」
これは後のアカデミーの歴史に長く語り継がれることになる。
近くで見ていたマーサは「なにやってるんだ……」と呆れる一方で、隣にいたロビンは爆笑していた。
周りからも笑い声が響き渡り、エマは泣きそうになった。
◇◆◇◆◇
数日後、エマはおじさんに呼び出された。
「全く君には驚かされたよ」
「すいません……」
「いいかね、あのような作品は今後やめてくれ。評論家からはご立腹だったよ。記憶を失ったとまで言われたよ」
「それって……その、評論は駄目だったってことですよね?」
「当たり前だ!」
エマはうつ向いた。
「……とは言え、驚くべきことに画商があの絵を売りたいと言ってきたのだ」
「え?」
「まさか、あの絵が売れるとはな……絵が売れるとなれば、最低評価を付けるわけにはいかない」
「ということは」
「とりあえず、後期は乗り切ったな。まぁ、正直君には歴史画は向かないかもな。アンジェに何か言われたかもしれないが、むしろ君が描きたい絵を描いた方がいいな」
アカデミー生になれたのも正直ギリギリの評価だったのではと思っている自分としては、正直不安でしかなかった。
「アンジェはもう後期の作品は何か考えていたりするの?」
「まぁね。エマはどうするの?」
「まだ何も浮かばない」
「あまり期間はないよ?」
「うん。早めに決めるよ」
一様、アンジェからはこの国の宗教について色々教わり、なんとなくは理解できたけど、それをいきなり絵にしろというのはエマにとっては難しいことだった。
それでも描き始めないとと、キャンバスの前に座るが、筆が全く進まなかった。
そう、肝心なものがなかった。
それは、自分は心の底から描きたいものが頭に浮かばないという致命的な状況が、目の前の真っ白なキャンバスを示していた。
まさか、真っ白なまま出すわけにもいかないよね…… 。
◇◆◇◆◇
一日は早く過ぎていき、気づけば締め切り期限が残り1ヶ月となっていた。それなのに、エマのキャンバスは真っ白なままだった。しかも、一点も作らずここまでずるずるときてしまっていた。
様子を伺いに覗いたアンジェは真っ白な綺麗なキャンバスを見て思わず悲鳴をあげた。
下の階にいたタルボットは「ん?」と天井を見たが、直ぐに掃除の続きを始めた。
「なにやってるの!?」
「絶望だぁ~」
「いやいや、なんでもいいからとにかく描かないと本当に間に合わないよ」
「アンジェはどう?」
「私のことはいいから! さぁ、手を動かして」
エマは唸りながらもようやくキャンバスに筆を置いた。
◇◆◇◆◇
そして、提出期限当日。
「な、なんとか完成……」
エマはそう言ったが、隣で見ていたアンジェはそのキャンバスを見て絶句していた。
「え? そんなにおかしい?」
「いや……私には難しいかなぁ……って」
アンジェの反応を見て凄く不安になったが、もう作り直している時間はない。
とりあえず急いでキャンバスを持ち、提出にエマは向かった。
◇◆◇◆◇
そして、展示会開催当日。
アカデミー生や画商が先に会場にぞろぞろと入っていった。
アカデミー生は他のアカデミー生の作品を見ては刺激を受けたり、学んだりする一方で、画商は売れそうな絵や将来可能性のあるアカデミー生の作品があれば、その作者のところへ行き、話しを掛けたり、目星をつけたりする。
そして、会場が開いてから一時間が経過したあたりで、評論家達が会場に現れた。その後ろを新聞記者達が追いかけている。
順に今年最後のアカデミー生の作品を見ていっては評価をしていく。
「全くなってないね、この絵は」
「まだ、描きかけじゃないのか?」
評論家達の厳しい声が聞こえると、絶望的な表情をするアカデミー生の姿がいたり、逆に高評価を受けたりすると、こっそりガッツポーズをするアカデミー生の姿がいたりした。
エマは自分の番が来るまで心臓がバクバクしていた。
エマより先にアンジェの作品の前に評論家達は止まった。
アンジェの渾身作であり、中心に天使がいて、明暗が珍しく使われている。
作者の名前を見た評論家は名前に納得した様子だった。
「アンジェか……アンジェの絵にしては珍しいな」
「しかし、今やスタンダードな技法なだけに新しさは感じられないな」
「確かに」
それを聞いたアンジェは少し表情を暗くした。
その前の作品、前期に出した際には大きなキャンバスに沢山の天使と悪魔を描き、激しい戦いの姿をダイナミックに描いただけに、今回はインパクトが薄れた様子だった。
対して今回の作品は既に他の画家がやってきた作品と似ている部分もあってか、評論家達の意見は厳しいものになっていた。
そして、いよいよエマの番だ。
おじさんが他の評論家達にパンフレットを見ながら「次は最年少でアカデミーに入ったエマという10歳の少女の作品です。えーと……タイトルはフェアリー……タイトルは普通ですが」と言って評論家達がエマの絵を見た瞬間、悲鳴が上がった。
「なんだこの絵は」
それは、沢山の妖精がキャンバスの上で大渋滞したような絵になっていた。真ん中に白いドレスを着た素足の少女を囲むかのように沢山の妖精が飛んでいる。
妖精の一人一人を見れば、皆違っていて、男の妖精もいて細かな絵ではあるが、問題は沢山い過ぎて気味が悪いものになっていた。
あまりのショックに評論家の一人が後ろから倒れて気絶までした。
「医者を呼べ! 医者だ、医者!!」
「大丈夫ですか」
これは後のアカデミーの歴史に長く語り継がれることになる。
近くで見ていたマーサは「なにやってるんだ……」と呆れる一方で、隣にいたロビンは爆笑していた。
周りからも笑い声が響き渡り、エマは泣きそうになった。
◇◆◇◆◇
数日後、エマはおじさんに呼び出された。
「全く君には驚かされたよ」
「すいません……」
「いいかね、あのような作品は今後やめてくれ。評論家からはご立腹だったよ。記憶を失ったとまで言われたよ」
「それって……その、評論は駄目だったってことですよね?」
「当たり前だ!」
エマはうつ向いた。
「……とは言え、驚くべきことに画商があの絵を売りたいと言ってきたのだ」
「え?」
「まさか、あの絵が売れるとはな……絵が売れるとなれば、最低評価を付けるわけにはいかない」
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