芸術で稼ぐ異世界

アズ

文字の大きさ
22 / 30

22

しおりを挟む
 俺は今、建物の白い壁に絵を描く準備をしていた。壁画である。今までキャンバスの中におさまっていた絵は遂にキャンバスの外へと飛び出したわけだが、実際のところ、これからやろうとする作品は今まで以上に大作となる。人生初の挑戦に緊張が走る。
 因みに、これから描こうとしている絵のイメージはもう出来上がっている。銭湯にある富士山。それをこの壁に描くのだ。それが3人目の依頼だった。
 いや、本当にカロンの風景が俺の手によって塗り替えられ徐々に見たことある日本の風景へと変わっていくことに罪悪感があった。まるで、侵略だ。
 本当にこんなことしていいんだろうかと思ってしまうが、後ろへ振り向けばもう遅いように感じてしまう。
 道路を挟んだ向こう側には、俺の仕事を見学しに来た人達が集まっていて、明るい派手なドレスに混じって、俺が間違って広めてしまったコスプレ文化が混ざっていた。
 前回、女性の方が派手さがあると言ったかもしれないが、俺の言っている派手さとはコスプレ文化が女性に流行していることを指している。徐々にその波は男性にまで及びそうだ。
 ふと、その近くの壁に貼られてある兵士募集のポスターに目がいった。



◇◆◇◆◇



 エンケラドゥスは地理的には俺の前世と似ており、長い冬があってか不凍港の獲得がその国の課題であった。
 こう考えると、エンケラドゥスがロシアなら世界史的に言えばまず地中海に出ようと黒海から地中海ルートへと南下を考えるのだろうが、問題は前世とこの世界の世界地図が同じではないということだ。それは日本という島国がないように、前世にあってこの世界にないものもあれば、この世界にあって前世にないものがあるように、俺が知る世界史に当てはめて考えると、地図がそもそも合ってなかったりしてかなり実は混乱している。あくまでも歴史の出来事がデジャブのように似ているだけで、同じになっていない。だから、この世界でデジャブを頼りに未来を当てるにはより複雑なことを頭の中でしなければならない。
 例えば、黒海は前世にはあってもこの世界にはなく陸続きになっている。つまり、エンケラドゥスが黒海から地中海というルートはなく、海に出るまでの陸のルートを侵略し、エンケラドゥスから海に向かう鉄道を建設し、港から海に出るルートになる。だが、エンケラドゥスの下の国は既にカロンが獲得しており、エンケラドゥスはカロンと戦争することになる。エンケラドゥスがカロンとの戦争を回避するとなれば、別ルートのヤヌスへ向かい海を目指すことになる。前世でいうところの中国だ。
 前世ではロシアは地中海に出る為に戦争するが(結局南下出来なかったが)この世界では戦争は起きていない。
 エンケラドゥスにとってみればカロンは十分強敵であり、戦争回避を考えて早々に諦める可能性はある。
 対してヤヌスは弱く、そもそも日本みたいな島国らしき国は地図にはない。となれば日英同盟のような同盟はこの世界にはなく、エンケラドゥスは南下を成功させる可能性が出てくる。
 そもそも、日本がなく南下を成し遂げたとしたら、ロシア革命のようなものがエンケラドゥスでは起こらない可能性も出てくる。
 そうなるといよいよ未来がどうなっていくのか分からなくなる。



 俺が図書館で世界地図を広げながら真剣に考えていると、隣でいきなり咳払いがした。
 横を向くとそこにはエマが隣に座っていた。
「こうも気づかないと傷つくなぁ」
「なんだよ、からかいに来たのか?」
「さっきから何真剣に考えてるの? それって絵に関係あること?」
「いや。だが、重要なことだ」
「ふーん」
「だから邪魔するな」
「戦争がどうとかぶつぶつ物騒な独り言してたけど、それと関係あるの?」
「え? 声に出てたか?」
「うん。不気味なくらいにね。やめなよ、そういうの」
「どうしてさ?」
「それって意味あるの?」
 確かに、未来が分かったぐらいで自分がその未来を変えられるわけじゃあない。まさか、自分が前世の記憶を持っているのは、この世界の未来は俺に託されているとかそんなことではないだろう。第一、戦争を止めるなんてそんな簡単なこと俺一人で出来ることじゃない。
 それこそ、サラエボ事件を止めることが出来たなら、戦争にはならないかもしれないが。
「マーサはさ、未来とかが分かるの?」
「未来? 正確ではないよ」
「じゃあさ、私を占ってよ」
「いや、そういうものじゃないよ」
 俺は少し悩んでから彼女にだけは正直に話そうと思った。自分が実は一度死んでいて、その前世の記憶を持っていることを。そして、その世界とこの世界が歴史的に似ているということを。
「実はさ」
 その瞬間、視界が眩しく真っ白な光景になった。



 気づくと、そこは何もない真っ白な空間が広がっていた。
 さっきまでいた図書館がなければエマの姿もない。
「エマ! エマ!」
 俺は何度もエマを呼んだ。
 だが、返事はない。
(どうなってるんだ!? なんだ、これは??)
 すると、さっきまでなかったのに、白い蛇が下にいた。
 蛇は赤い目をしており、そいつは自分の尻尾にかぶりついていた。
「なんだよこれ……」
 普通じゃない。だが、何故か不思議と見覚えがある。これは確か……ウロボロス。そうだ、ウロボロスだ。
「スパイラル……」
 突然、自分の口からそんな言葉が出てきて自分で驚いたが、でも、確かに似た世界で前世の記憶を引き継いだまま転生したあたり、死と再生でもある。
「お前は俺になにをさせたいんだよ」
 だが、ウロボロスは答えない。
 異世界転生に天使や女神や神ではなく、俺の前に現れたのはウロボロスって言うのか!?
 俺は他になにかないか周りを見渡す。だが、本当に真っ白な世界が永遠に続いているだけだった。
 上は? と見上げると
「45!?」
 黒く45と数字が宙に浮かんでいた。
「なんだよ……なにかのナゾナゾか?」
 すると、また再び白い光が視界を襲ってきた。
「クソッ! またか!」



◇◆◇◆◇



 その頃、ウォルターは紅茶を飲みながら新聞を読んでいた。
 そこに勢いよく扉が開いた。
「エマか、ビックリするじゃないか。どうしたんだ?」
「マーサが……マーサが……」
「マーサ? マーサがどうかしたのか」
「私と図書館でさっきまで一緒にいたの。でも、いきなりマーサが目の前で消えちゃった」
「消えた? え、どういう意味だ? 分かるように言ってくれ。混乱でもしてるのか?」
「本当に消えたの!」
「目の前でか? あり得ないだろ、そんなこと……そうだよな?」
「嘘ついてるように見える?」
「まずいな、警察に通報しなきゃ」



◇◆◇◆◇



 白い光がおさまり目を開けると、そこは見知らぬ土地に来ていた。
「なんだよここ……カロンの大都市じゃないじゃないか! おい、コラ! 聞こえてんだろ! 俺を元いた場所に戻せ! おい、戻しやがれ!」
 俺は青空に向かって叫んだ。
 周りの人達はヤバい人だと思われて避けられたが、そんなものに構ってなどいられなかった。
「なんだよこれ……本当、どうなってるんだよ……誰か教えてくれよ……」
 俺はその場で膝をついた。



 俺は後にこの場所を知ることになる。
 そして、今は6月1日。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...