探偵主人公

アズ

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1章 始まりの街ロンドン

12 シェフの話

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 ノーランとムーアをモルダーが呼びに行っている間にジークはもう一度このホテルの見取り図を見た。
 一階はロビーと事務所スペース、厨房があり、事務所スペースから地下へ向かう階段が唯一ある。地下スペースには、ワインセラーや食料庫となっており、更に別館へ続く地下通路が存在する。別館は従業員の各自の部屋などがある。元々は使用人が使っていた部屋だ。本館と別館の地下通路の間には扉があり、普段は戸締まりされており鍵を持った従業員でしか出入りが出来ないことになっている。
 二階は客室で、階段をのぼって直ぐの窓のない通路があり、左手の手前側から001号室と部屋が続く。対して右手側には007号室から部屋番号が始まる。一人部屋のところは二人部屋と比べ部屋のスペースが小さいのが特徴だ。
 つまり、第一の被害者であるサム・ラーソンの004号室の向かいは010号室でホルトとソニエールの部屋となる。そして、第二の殺人の被害者であるキング夫妻の向かいが011号室のドレイクの部屋となる。
 あと、今は使われていないが一階にはパーティー用の貸し切り会場がある。大部屋だが、今は鍵がされている。
 三階も使われていない部屋があり、モルダー曰くホテルとしての利用は二階の十二部屋で十分とされ、三階はホテル用の客室ではなくドーソン家の別荘のまんまだと言う。勿論、宿泊客は用がなく三階への立ち入りは禁じられているのだが、例の秘密の金庫目当てに忍び込もうとする客が出てくるとのこと。
 確かに、三階は別荘のままというのがもう可能性を秘めている。特に、書斎やドーソンの寝室、クローゼットのある部屋などには特に金庫がありそうな感じがする。
 と、考えているとこのホテルのシェフが現れた。小太りの男はジークを見て「話しを訊きたいとモルダーさんから言われて来たんだが」と言った。
「あの、先にノーランさんとムーアさんから話しをお伺いしようと思っていたんですが……まぁ、せっかくなので構いません。どうぞ」
 そう言われたシェフは目の前の席に座った。
「それで話しを訊きたいというのは何ですか?」
「モルダーさんからは私達が犯人を探していることは訊いていますね?」
「はい。しかし、警察が来るまで待ったらどうです?」
「この天候では警察もここへは来れないでしょう。この吹雪がいつまで続くのか分かりませんし、その間にも第二の事件も起きてしまい三人も被害者が出てしまいました。このまま警察が来るのを待つよりも、私達の出来ることをすすめたいと思っています」
「勿論、協力はします。モルダーさんにも協力するよう言われてますし」
「因みにカーティスさん、モルダーさんが言うにはあなたはずっと調理場にいたということでしたが」
「それは本当です。特に予約がなかったあなた達が急に入ったことで、私は忙しくしていました。なにせ、シェフは私一人だけですから」
「普段から一人で?」
「いえ、この時期はそもそもこんなにお客様が入ることなんてないんです。だからどうして今日ばかり色んなことが起きるんだって思ってます。不運ですよ! 不運!」
「ええ、実際に三人も殺害されたんですからそうでしょう。しかし、料理を終えた後はどうですか?」
「翌日の仕込みをしなければなりません。この時期なら本来調理場にこんなに長くいませんでしたよ」
「なる程」
「分かってくれましたか! 私には皆さんの料理を用意しながら殺人をするなんて無理です」
「分かりました。では、質問を変えます。あなたの雇い主、ヒーリーさんについてどう思いますか?」
「え!? ヒーリー様が何かこの件に関わっているんですか?」
「それは分かりません。ですが、もし今回の容疑者Xが切り裂きジャックだったとして、何故このホテルを選んだのかが謎になります」
「それは……」
「今までの切り裂きジャック事件は全て屋外で行われています。通り魔的と言っていい。現に、三人の被害者の共通点は若くて女性であることと、ロンドンで起きていることですが、被害者三人の接点はありません。なのに、切り裂きジャックだと名乗るXはこのホテルの中で連続殺人を実行している。となれば、何故犯行現場をこのホテルに選んだのかが問題になります。勿論、Xが切り裂きジャックでないとすれば、Xが計画的にこの場所を選んだのは間違いないでしょう。例えばXにとって殺したい相手がこのホテルに偶然にも揃ったとした場合です。勿論、これは憶測に過ぎません。事実とは程遠い。では、事実は何か? それはこのホテルで三人も殺害されたということ。犯人はこのホテルについて詳しい可能性があります。でなければ犯人がわざわざホテルで殺害を実行する理由が謎になります」
「申し訳ないが私は頭がそこまで賢くはないんだ」
「分かりました。では、訊かれたことだけお答えできませんか?」
「ヒーリー様には感謝しています。ただ料理が趣味だっていうだけの俺を雇ってくれたんですから」
「失礼ですが、前職は何を?」
「自分で店を開いていました。しかし、客足は中々運ばず、結局店を閉めることになりました。夢を諦め、更に金がない俺を救ってくれたのはヒーリー様でした。恥ずかしい話しですが、私は一度ホームレスだったんです。路上暮らしを短い間していました。だから、ヒーリー様には感謝しています。ヒーリー様は何の関係もないと思いますよ」
「あなたはそう思っても、ヒーリーさんの全てを知っているわけではないでしょ? 普段からヒーリーさんにお会いになられるんですか?」
「いや、そうじゃないけど」
「一旦それを忘れて冷静にどうだったか考えられませんか」
「……」
「では、質問を変えます。あなたから見て怪しい人物はいますか?」
「分かりません。さっきも言いましたが、調理場にほとんどいたんですから」
「多くの人はモルダーさんが怪しいと言われていますが?」
「モルダーさんが犯人なわけがない! 私もモルダーさんも動機がないんですから」
「Xが切り裂きジャックの場合、動機なんてものはないのかもしれません」
「切り裂きジャックが起きた最初の日は私もモルダーさんもアリバイがありますよ。仕事をしていたんですから、証言もとれる筈です」
「分かりました。あと、もう一つ宜しいですか? 調理場にはモルダーさん以外に入ってきた人はいますか?」
「もし、不審者が入ってきたら真っ先にモルダーさんに報告してましたよ」
「モルダーさんとは長い付き合いですか?」
「ええ。勿論、それだけが理由ではありませんよ。現時点での責任者はモルダーさんですから。モルダーさんは今回の一件で……」
 クビか。
「いや、ただでさえ連続殺人事件が起きたホテルと報道でもされたら客足は遠のくだろう。そうすれば私も失業かもしれん。分かるだろ? そんなリスクを犯してまでやることか? むしろ、今回の件で犯人を恨んでいるよ」
「大変よく分かりました」
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