探偵主人公

アズ

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14章 名も知らぬ客

02 警部

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「なるほど。それじゃ、従業員が部屋の明かりを見たのが十分前で、それから十分の間に従業員は明かりを見て直ぐにビアードに声をかけ、従業員数名で部屋を確認しに行き、遺体を発見。それから対応を話し合い、警察に通報。その後お前さんに声がかかった。正確ではないとは言え、だいたい十分間の動きは分かった。多少時間に余白があるが、初めて見た遺体に動揺もしただろうからそれも考慮するとだいたいそんなところか」
「警部、決めつけはよくありません」
「そんなもんは分かってる」
 ホランド警部はそう言った。
「それで、あの遺体の身元は分かりましたか?」
「ああ。所持品の中に身元が分かるものが入っていてな、名はサミュエル・キーティング。宿泊客リストにそのような名前はなかったし、誰もキーティングの顔は知らないと答えている」
「もし、従業員全員がグルではないとしたら、鍵の閉まっていた部屋にその男は勝手に侵入したことになりますね」
「鑑識によればピッキングされたあとはないんだとよ。どうやって鍵のかかっていた部屋にその男は入れたと思う?」
「窓からでは無理でしょう。バルコニーはありませんし、窓には鍵がかかっていたでしょうから。となれば、方法は二つしかありません。男が鍵を持っていたか、鍵を持っている人物によって開けられたか」
「つまり、従業員を疑っているんだな」
「一番可能性があります」
「宿泊客はどうだ?」
「勿論、調べる必要はあります」
「しかし、お前さんがこのホテルにいたのは驚いたな」
「この近くで講演をしてました。自分が関わった事件について話しをしただけです」
 講演のスポンサーはこのゲームのプレイヤー達だ。少しでも役立てる為に話をして欲しいと依頼がきたのがきっかけだった。
「さぞ、儲かってるんだろうな」
 警部が言うと嫌味にならない。そもそも、金に困っていないことは警部も承知している。警部の言葉に嫉妬は感じられない。単に褒め言葉だ。上手くやっているそうだな、と言い換えられる。
 しかし、言葉の真意の受け取りを間違えればそのまま嫌味に感じてしまうだろう。
 これは信頼関係だ。警部と自分との。
 それに、警部にはこれは分からないだろうが、この世界ではない現実世界では、自分は優秀というわけではない。長い時間この世界に入り込んでいるのは居心地が良いからだ。
 メタバースという言葉が流行し、次第に夢を抱き、それが実現すると人々はその世界へと没頭した。
 フルダイブはその後に出来た世界であり、自分もすっかりその住人になっている。
 だが、本当の住人になれないのは、躰がリアルの世界に存在し続けているからだ。
 もう仕事には行かない、嫌いな上司の顔を見る必要がない社会は訪れないのだろうか? 自動化され人の世話を全てロボットがしてくれる未来があれば、それも可能になるだろう。
 リアルで、戦争や貧困や環境問題を考えるよりも人々が仮想空間に移住すれば、SF映画のよう世界観が実現する。そんな未来を願うことは悪いことなのだろうか?
 だが、残念なことにまだ現実は理想にたどり着いていない。
 人は理想にではなく現実に生きろと言うことか? 現実世界では既に、若者が仮想に没頭し問題視されている。リアルと非リアルの間を行き来しながら生きていく程器用には生きられない。既に規制案が議論され、年齢制限の見直しや一日の制限時間等が意見として出てきている。
 もし、そうなれば既に没頭していた人達にとっては強引に現実へと引っ張られることになるだろう。そうしたら、いよいよ生きていくのが嫌になりそうだ。
 ジークは警部を見た。警部とはすっかり付き合いが長くなったが、警部はゲーム世界の住人でしかない。現実にはいない存在だ。コンピュータによって生み出された架空。それと信頼関係だなんて言っている時点で自分は病気なのかもしれない。
「犯人にとってお前さんがいたことは計画外だったろうな」
「それはどうでしょうか? このホテルに宿泊していることは従業員であれば知ることは出来たと思います。その時点で計画は中止出来たでしょう。しかし、そうはならなかった。犯人にとって計画をずらせない理由があったのか、それとも犯人にとってよっぽどの自信があったのか」
「俺の経験からして犯人はだいたい後者だ。連中は自分が捕まらないとたかをくくってやがる」
「ええ、私が関わった事件でもだいたいがそうでした」
「それじゃこれは挑戦だな」
「私にとってはいつも挑戦でしたよ。そして大抵手強い」
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