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第12章 フミンの少女

第85話 フミンの少女

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第85話 フミンの少女
 
 翌日の朝。
 僕はミレーヌと一緒に街の散策に出かける事にした。
 

 「ユキナ。何処に行こう?」

 「そうだね。まずは食事をしようか。船旅で干し肉と干し魚と干した玉ねぎばかりだったから果物が食べたい」
 
 「うん!ボクも果物が食べたい!」
 
 僕たちは市場でミカンのような果物を購入した。
 長い船旅だったからビタミンCが不足しているので果物で補おうというわけだ。
 ただ重要な問題があった。
 言葉が通用しないのだ。
 クヌートとフェリシアがいれば通訳して貰えたのだけど仕方がない。
 僕は身振り手振りで他の人が食べている果物や飲み物を注文する。
 物価が思っていたより高かったのは、いくらか吹っ掛けられたのだろう。
 
 「賑やかな街だね」

 「そうだね」

 周りからコーヒーのような飲み物と新鮮なハーブや香辛料の匂いがする。
 山積みのドライフルーツにも興味がわいたけど、またぼったくられるのが嫌なので買い物は控えるとしよう。
 露天商のおじいちゃんが水煙草をくゆらしながら半分眠ったようにしているけど、こういう年寄りが一番侮れない。
 よく見ると露店には宝石の類も売っていたが、かなりぼったくられそうなのでクヌートたちと合流してからにする。
 ミレーヌに似合いそうな服もあったけどこれも我慢。
 定価らしいものは木札に書いてあるがこれも当てになるかどうか。
 多分客と店が値引き合戦をして決めるのだろう。
 よく見るとあちこちで店側と買い物客が口論していた。
 熾烈な戦いに苦笑しながら僕とミレーヌは広場にあるテーブルとイスで休憩をする事にした。
 
 「凄い街だね。活気があってボクこういう所好き♪」

 「そうだね。フレーベルとは違う雑然とした街だけど僕はこういう賑やかな所は好きだよ」
 
 前世では身体が弱くて入退院を繰り返していたから賑やかさとは無縁だった。
 だからこういう活気のある街は好きだ。
 ミレーヌは僕の隣で果物を食べている。
 僕も同じ果物を食べる。
 瑞々しい甘さが口いっぱいに広がる。
 前世で食べたミカンより甘みがあって美味しい。
 僕が2個目の果実に手を伸ばした時、広場の反対側から悲鳴が聞こえてきた。
 僕とミレーヌは急いで悲鳴のした方向へ走る。
 
 そこには数人の男が一人の少女を取り囲んでいた。

 少女は栗色の髪をした10歳くらいの女の子で、服は破れていて顔や身体に痣ができている。
 男たちは剣を抜いて少女を威嚇していた。
 少女は怯えていて周りに助けを求めるように周囲を見回すが誰も助けない。
 それどころか当たり前のように傍観していた。
 
 「どうしてみんな助けないんだ!?」
 
 僕が叫ぶと少女を取り囲んでいた男たちが驚いたような顔をしたがそれも一瞬の事で、再び何も無かったように剣を身構えた。
 僕が少女を助けに入ろうとするとブレストプレートを身に着けた兵士に手を掴まれた。
 
 「やめておけ。あれはフミンの子だ」
 
 その兵士は僕のわかるフレーベル語で話しかけてきた。
 よく見ればブレストプレートアーマーも綺麗で手入れが行き届いていて、アーマーの下に着ている服の襟元に刺繍が施してある。
 整った外見と流暢なフレーベル語を話すので、きっと外国人も相手にする上級兵士なのだろう。
 
 「フミンってなんですか?」

 「このアルスラン帝国の宗教を受け入れず、法や秩序を乱し病気を流行らせる民族だ。可哀そうだがあの子を助ける人はいないよ」
 
 「じゃあこのまま見殺しですか!?」
 
 「そんなのボク許せない!!」
 
 そんな馬鹿な話があるか。
 僕とミレーヌはそのまま男たちに威嚇されている少女を庇おうと駆けだす。
 
 「おい待てって。ここにはここのやり方ってのがあるんだ」
 
 後ろで兵士が何か言っているが気にしない。
 僕とミレーヌはフミンの少女を庇うように男たちの前に立ちふさがった。
 今の僕たちはヨロイを身に着けていない。
 腰には護身用に青龍氷牙を身に着けているがそれだけなので、男たちに切りつけられたら応戦するしかない。
 周りの人々が騒ぎ出し何かを叫んでいる。
 きっと僕たちの行動に憤っているのだろう。
 よくわからない言葉で罵られるが気にしない。
 僕もミレーヌも剣は抜かないでおく。
 剣を抜いたら最後、お互い血を流すことになるからだ。
 僕の背中で震えている少女を庇うようにミレーヌが抱きしめると、少女は何かをぽつりと口にした。
 多分お礼を言っているのだろう。
 
 じりじりと男たちが剣を手に何かを叫んでいる。
 多分邪魔をするなとか、その子をこちらに寄越せとか言っているのだろう。
 僕とミレーヌは当然拒否する。
 男たちは地面に唾を吐いた後、剣を振り落ろそうとした。
 僕は当身を食らわせるべく拳を身構える。
 
 一触即発の状態は数秒後に予想外の展開になった。
 群衆と男たちがふらふらと身体を揺らしたあと倒れたのだ。
 よく見ると全員眠っている。
 
 「馬鹿何やってる!!」
 

 「ユキナ、ミレーヌ、無事ですか!?」
 

 クヌートとフェリシアの声が聞こえた。
 二人が群衆にスリープ(眠りの魔法)をかけてくれたとわかった僕とミレーヌは、急いで少女の手を引きクヌートと
 声の方を見ると路地裏からこっちへ来いというジェスチャーで二人が手を振っている。
 僕とミレーヌはフミンの少女の手を引っ張って路地裏に逃げ込んだ。
 路地裏は薄暗く不潔で臭かった。
 あちこちにネズミが這い回り、表の世界とは別世界のようだ。
 水はけも悪く水たまりが点在していて靴が濡れる。
 群衆が目を覚ます前に出来るだけ遠くへ逃げないといけない。
 
 「何がどうなってるのか説明してくれないか?」
 
 クヌートが僕に事情を説明しろと言ってくる。
 走りながらも息を切らさないのはクヌートとフェリシアが普段から身体を鍛えているからだ。
 フミンの少女が限界近く咳き込むが今は我慢してもらうしかない。
 
 「後で話すよ!!とにかくこの子を無事に保護しないと!!」
 
 「わかりました。このまま裏路地を走れば町はずれに出ます。そこで事情を聞かせてください」
 
 「わかったよ。後で話すね」
 
 フェリシアにそう答えてあと、僕達は無言で走り続けて町はずれの貧民街にたどり着いた。
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