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夢の場所を探す

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 私がおそろしい夢を見た日に、由良様はすぐに鳴神様に連絡を取った。
 由良様の手の上に、光が形をつくるようにして集まって現れた可愛らしい赤い鳥が、鳴神様の屋敷まで飛んでいった。

 それも由良様の法力でつくりあげたシキなのだという。

 それから身支度を整えると、ハチさんの運転する車に乗って、私と由良様は夢で見た場所を探しに出かけた。
 私は由良様と共に後部座席に座って、車窓から景色を眺める。

 私は地理に明るくなくて、あの路地が、どこなのかが分からなない。
 私と由良様から話を聞いたハチさんは「とりあえずは、宵ヶ丘学園の方向に行ってみましょう」と言った。

「宵ヶ丘学園は、西地区の学園街にあります。 良家の娘たちの通う女学校ですね。帝都の各地区から、生徒が通う程人気です。薫子様の妹君は、宵ヶ丘学園の生徒だったのですね」

 運転をしながら、ハチさんが言う。
 私は小さく頷いた。

「はい。よくは、知りませんけれど」
「制服を見たよ。だが、俺も女学生の制服には詳しくなくてね。ハチなら、分かる?」

 私の隣でゆったりと後部座席のシートに身を預けながら、由良様が肩をすくめた。
 ミラーの中のハチさんの顔が、微苦笑する。

「人聞きの悪いことを言わないでください。僕も、女学生の制服に詳しいわけではありませんよ。ただ、宵ヶ丘学園の制服は、胸元に宵という文字を飾り文字にして、刺繍してありますね」
「そういえば、あった気がします」
 
 由良様は私の手を取ると、手のひらに『宵』と指先で、書いてくれる。
 くすぐったさに眉を寄せて、私はその指の描く文字を頭の中に思い浮かべた。
 咲子さんの胸元にも、そのような文字があったような気がする。
 
「でしたら、まず間違いないでしょう。遠くから来る生徒は、馬車や自動車で通いますから、歩いて帰宅していたというと、学園からはそう遠くない住宅地に家があると考えていいですね、きっと」
「人喰いは警邏隊の服を着ていたそうだよ」
「警邏隊なら、夜も昼も、街にいたところであまり気にはされませんからね。本当に警邏隊の人間なのか、警邏隊の人間を食ったあとに、その服を奪った――という可能性もありますが」

 帝都の頂点にいるのは月帝様。その下では様々な人たちが働いていて、帝都警備隊という組織もその中の一つだ。
 帝都を騒がせるのは何も怪異ばかりではない。
 人同士の争いのほうがずっと多い。
 それらを取り締まるのが帝都警備隊に所属する警備官で、街を巡回している方々を警邏隊という。

 人同士ならそれでよいけれど、怪異が相手では警備官では歯が立たない。
 その場合は、由良様たち帝都守護職に任されることになる。

「切り裂き魔について、警備官からは話があがってきていない。もし、同胞が犠牲になったとしたら、彼らはもっと大騒ぎをするけれど、静かなものだ」
「確かに、それはそうですね」
「ある種の食人鬼は、食した人間に擬態をすることがあるから、なんとも言えないけれどね」

 由良様は私の手の平に文字を書いてから、私の手をずっと握っている。
 私はこんな時なので恥ずかしがっている場合ではないと、自分を戒める。
 できるだけ意識しないようにしながら、由良様を見つめた。

「擬態を……?」
「そう。だからね、厄介なんだ。その体に魂ごと取り込んで、自分のものにしてしまう。次々と擬態をすれば、人喰いだと知られる可能性は減る……けれど、食べるほどに、ぼろが出る」
「食べるほどに……」
「あぁ。人としての理性をなくし、獣に成り果てて……その行動も、杜撰になる」

 新聞には、三人目の被害者と書いてあった。
 私が夢で見た女生徒は、四人目の被害者ということになる。
 けれど――。

「新聞記事に出るぐらいに杜撰――には、なっているのだと思う。骨も残さず食べてしまえば、事件が露呈することを防げるけれど、内臓だけを食って、いらない部分を捨てているとしたら……」

 由良様はそこまで口にして、自分の口を手で押さえた。

「すまない」
「大丈夫です、由良様。私も、神癒の巫女。怖くは、ありません」
「薫子、しかし」
「……夢が、本当なら。私はあの子の無念を、晴らしたいと願います」
「そうか。……だが、あまり無理はしないで欲しい。今日だって、本当はハチと二人で来るべきだった。だが、君は夢で景色を見ている。だから、一緒に来てもらったんだが、本当はとても、心配で」

 私は、大丈夫――だとは、言いきれなかった。
 由良様のように怪異と戦う力なんて私にはないのだから。
 せめて、迷惑をかけないように、足手まといにならないように気をつけなければ。
 それに――。

「由良様の傍にいれば、もし由良様が怪我をしたときに、私が癒してさしあげることができます。お邪魔をしないように気を付けますから、どうか、お傍にいさせてください」
「……薫子。……ありがとう。君のことは、必ず俺が守る」
「はい。ありがとうございます」

 熱心に見つめられて、頬が染まる。
 ふと、自動車がゆっくりと速度を緩めて、路肩に停まった。

「申し訳ありません、お二人とも。邪魔をしているようで心苦しいのですが――どうやら、この場所のようです」

 窓の外に視線を向けると、そこは見覚えのある住宅地だった。
 道の向こうに、人だかりができている。
 何台かの黒に赤いランプのついた自動車が停まり、警邏隊の制服を着た人たちが、集まっている人々が路地に近づかないように、見張りをしていた。

 
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