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家族会議
しおりを挟む『姉さん、ここにいるのはわかっているんですよ!? リュール商会の者たちを脅し……説得して聞き出しました。僕に姉さんのことで知らないことがあると思っているんですか? リュール商会を裏で密やかに支援していたのは僕なのですから!』
入り口の扉の向こう側で、レナードがものすごく怒っている。
いつも淡々としている、冷静なレナードとは思えない。
「ル、ファ……っ、レナードのところに、いかないと……っ」
「俺よりも大切なことなどあるのか?」
「も、やだ、やだ……っ、死んじゃうから……っ、お願いです、も、終わりに……っ」
『姉さん、くそ、何故開かないんだ、この扉は!? 姉さん、もう大丈夫ですから! 扉を開いてください!』
開きたいのは山々なのだけれど、ルーファスさんが私を離してくれない。
逃げようとすると、背後から腰を引き戻されて、欲望で中を掻き回わされる。
理性が蕩けてしまうのを感じながら、私はなんとか、唇を噛んで耐えた。
レナードも怒っているけれど、ルーファスさんも怒っているみたいだ。
もしかして、嫉妬なのかしら。
嫉妬をされるのって、はじめてよね。ルーファスさんは笑いながら『妬ける』と冗談をいうことはよくあるけれど。
こんなにあからさまに、怒っているのははじめてだ。
「……っ、ふ、ぅう……あ、あ……もっ、おく、だめ……っ、れなーどには、ちゃんと説明して帰ってもらいますから、お願い、怒らないで……」
「…………あぁ、全く……っ、可愛いなリュミ。いうことを聞いてやりたくなる」
背後から私を抱きしめているルーファスさんに懇願すると、ルーファスさんは深くため息をついた。
何度か絶頂を迎えた体から、ずるりとルーファスさんの自身が抜けていく。
喪失感と寂しさと、最後まで終わっていない切なさを感じながら、私は深く息をついた。
「仕方ない」
「言うことを聞いてくださってありがとうございます。ルシファウス様、お利口、ですね」
「……なんだそれは。……あぁ、そうか。なるほどな。利口ないい子にしていてやるから、あとで褒美をくれるのだな」
「はい。だから、大人しくしていてくださいね、お願いです」
できることならレナードには、ルーファスさんのことは内緒にしておきたい。
ワイアット様に捨てられて実家から逃げた私が、古の英雄王を呼び覚ましてしまったと知られたら、大問題になりかねない。
屋敷で世捨て人のように淫らな日々を送っていた私は、少しだけ、自分の立場というものを思い出した。
私は、一応──未だに身分は公爵令嬢なのよね。
家から逃げてもそれが変わるわけではないもの。
「……レナード、久しぶりね」
「姉さん……!」
身支度を整えて、おかしなところがないかを確認した私は、入り口の扉を開いた。
ルーファスさんには部屋から出てこないように再三言い聞かせて、屋敷で働く人ではないものたちも、隠しておくようにとお願いをした。
久々に一人きりの私を見て、レナードは目を見開く。
「姉さん……一体、何があったのですか」
底冷えのするような低い声に尋ねられて、私は自分の姿を確認する。
髪は整えたし、屋敷に持ち込んでいたドレスを顔無し貴婦人に着せてもらった。
いつもの、リュミエルである。レナードの知っているリュミエルだと思う。
「特に、何もないわ、レナード。……その、色々あって、ここで一人で住んでいるけれど、私はとても健康で元気だわ。だから、心配をしないで」
「入りますよ、姉さん」
レナードは私が薄く開いていた扉を掴むと、強引に開いた。
従者はいない。レナード一人きりのようだ。黒いマントに質のいい服を着たレナードからは、私が最近めっきり離れていた、外の世界を感じる。
もちろんルーファスさんも着飾っている時はあるのだけれど、ほとんど服を着ていないことが多いのだ。
入り口でレナードにお引き取りいただこうと思っていた私は、内心慌てた。
家にあげるとなると、ルーファスさんのご機嫌がさらに悪くなりかねない。
屋敷の中を見渡しながら中に入っていくレナードは、やや青ざめている。
「……姉さん、こんな廃墟で、生活を?」
「廃墟?」
「今すぐ帰りましょう。それに……なんだか妙に、なんというか」
「ええと、その、レナード。とりあえず、座って話しましょう?」
私の腕を掴んで引っ張ろうとするレナードを、私は宥めた。
私の目には、廃墟ではなくて古めかしくはあるけれど美しい屋敷に見えるのに。
「座るって、どこに」
「ソファはあるのよ、一応」
私は引っ越した日に酒盛りをしたリビングルームに、レナードを案内した。
レナードは難しい顔をしながら、部屋を見渡している。
ソファの対面に渋々座ってくれるレナードに、私は何をどう伝えたらいいのか悩んだ。
「ええと、その……レナードには廃墟に見えるかもしれないのだけれど、今はお掃除中で、私の一人暮らし用のお屋敷なのよ、ここは」
「そうですか。姉さんがシモン家から逃げたくなる気持ちは理解できます。ですが、ご安心を。もう姉さんの安全を脅かすような存在はいません。僕が全て排除しました」
「排除……?」
「ええ。ゴミクズのような両親は、今頃牢獄です。あの二人は姉さんの両親を殺した。もう二度と、外に出られることはないでしょう」
「お父様と、お母様が……夢と、同じだわ」
「夢? 姉さんも、あの夢を?」
レナードの声に艶が混じる。
私は思わず口走ってしまったことを誤魔化すように、「なんでもないの」と言って両手をわたわた振った。
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