今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ

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第二章 マユラ、錬金術店を開く

軍隊蜂の襲撃

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 ぶんぶんと耳障りな音を立てながら、草むらからマユラたちに向かって飛んでくる黒い影がある。
 それはマユラの顔ほどの大きさの、蜂だ。
 
 その大きさからして普通の蜂とは違うのだが、特徴的なのは羽が四枚あることだろう。
 その四枚の羽を忙しなく動かして、飛び回っている。

 大人のこぶし大の顔と同じぐらいの大きさの毒針が、尻からは突き出ている。
 刺されたら毒で死ぬ──どころではない。そもそも体がえぐれて死ぬ。

 それぐらいの凶悪な針を、人間に向けて一直線に飛んでくる。それが無数にいるのだから、軍隊蜂とはある意味クイーンビーよりも恐ろしい存在だった。

「蜂ですね……!」

 人間、蜂を見ると蜂としか言えなくなるらしい。
 杖を構えて蜂と言うマユラに、師匠が『軍隊蜂を倒しに来たのだから、蜂に決まっているだろう』と呆れたように呟く。

「マユラ、さがっていろ。兄の勇姿を見ているがいい。そして惚れろ」
「マユラ、俺の後ろに!」

 ユリシーズの指先に、雪の結晶がちらつき始める。
 レオナードは剣を抜くと構えた。
 二人がいてくれてよかった。情けないことだが、杖を振り回すぐらいでは視界を埋め尽くすほどの軍隊蜂の大軍にはとても勝てそうにない。

 もしレオナードたちがいなければマユラもそれなりに準備をしてきたのだろうが、今回は甘えさせてもらおう。

「凍れ!」
「散れ!」

 二人の声が重なる。ユリシーズの氷魔法が向かってくる軍隊蜂を一気に氷漬けにして、ぼとぼとと地面に落とした。
 レオナードの一閃が、軍隊蜂たちの羽だけを器用に切り裂く。

「蜂ー!」

 二人の攻撃から逃れた軍隊蜂たちが、おそらくは弱い、と判断したのだろう。
 マユラに向かい飛んでくる。
 それをマユラは杖の先端でぼこすか殴った。杖は鈍器。そして案外殺傷能力が高い。

 ぼこっと殴られた軍隊蜂が、弾き飛ばされる。我ながら華麗なる杖捌きだと、自分で自分を褒めておくことにする。
 中々どうして、悪くない。シダールラムやスキュラを討伐したことで、少し強くなっている気がする。

「マユラ、討ち漏らした。無事か」
「マユラ! すごいな、よく戦っている、偉いぞ」
『よい調子だ、腕力女』

 心配する兄と、褒めてくれるレオナードの声に、師匠の声が混じる。聞かなかったことにしよう。

「ありがとうございます、頑張りますね!」
「無理はするな。私の背に隠れていろ」
「軍隊蜂ぐらいいは、たいしたことはない。だが……そろそろだな」

 兄とレオナードは、軍隊蜂たちを次々と撃墜していく。
 マユラは杖で叩き落としたり、「ひぁ!」と、悲鳴をあげながら逃げたり、隙を見て杖で叩き落としたりを繰り返した。

 地面に動けなくなった軍隊蜂たちが山のように積み上がったころだ。
 
 ぶぅうううん──と、地響きのような羽音が軍隊蜂の奥から響いてくる。
 軍隊蜂を更に引き連れて姿を現したのは、クイーンビーの名にふさわしい、軍隊蜂よりも更に大きな蜂だった。

 蜂といっても、羽根が四枚ありその尻からは毒針がはえているが、その体は──女性のものである。
 なんともなまめかしい体つきをした、蜂と女性が合わさったような見た目をした魔物。
 それが、クイーンビーだ。

『……出ていけ。人間、ここから立ち去れ』

 マユラの頭の中に、女性の声が響いた。これもやはり、マユラにしか聞えていないようだ。
 明らかに敵意を持った声だ。

『私たちはここで、子を育てて生きている。去れ、邪魔をするな、人間!』
「そうですね、ごめんなさい。でも、退治しないといけないのです。私には必要なものがありますし、石化された人たちも助けないと!」

 ──果たしてそれは正しいのかと、一瞬迷ってしまった。
 鞄の中に押し込んでいた師匠が飛び出してきて、マユラの頭をぱしっと叩く。
 そして、マユラの肩にすとんと降り立った。

『魔物に飲まれるな。お前は魔物の言葉を聞くことができるのかもしれないが、所詮は悪意から成り立つものだ。害悪にしかならん。奴らは敵でしかない。わかりあうことなどできん』
「はい、そう、ですよね……」
「消え去れ、魔物め」
「悪いが、倒させてもらう!」

 一瞬ためらうマユラを尻目に、ユリシーズが魔法を構築して、レオナードが剣を構えて向かっていく。
 クイーンビーが両手を唇にあてる。それから、ふぅっと、息を吐き出した。
 
 桃色の煙があたりに漂う。レオナードは口を押さえた。
 ユリシーズの手から魔法の力が消える。頭を押さえて、ユリシーズはその場に膝をついた。

『ふふ、眠れ、眠れ!』

 クイーンビーの勝ち誇ったような笑い声が響く。口を押さえているレオナードに、軍隊蜂が群がった。
 クイーンビーが両手を広げると、軍隊蜂は無数の、針、に姿を変える。
 
 それは銀色で尖っていて、先から毒液を滴らせている。
 レオナードはその針を、剣で叩き落とす。だが、次から次へと生まれてくる針のせいで、息が切れる。
 思いきり桃色の煙を吸い込んだレオナードもまた、くらりと足をもつれさせて、その場にしゃがみ込んだ。

「お兄様、レオナードさん……!」

 マユラも桃色の煙を吸い込んだが──特に、体に異変はない。
 一瞬、無数の針がお菓子や揚げ鶏や果物などに見えた気がしたが、その幻覚もすぐに消えた。

 マユラの目の前で、銀の針がレオナードとユリシーズに刺さる。
 刺さった箇所から、ぴしぴしと音を立てて、二人の体が石像に変わっていく。

 満足げに笑っていたクイーンビーが、マユラに視線を向ける。

 マユラは地面に落ちている軍隊蜂を両手に抱えた。そして、落ちないように師匠と杖も抱えて、その場から一目散に逃げ出したのだった。

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