リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

文字の大きさ
112 / 200
セフィール家での休暇と想起の夏

 はじめてのお泊り旅行 2

しおりを挟む

 けれど、それではやっぱり駄目なのだと思う。

 言葉にしないと、なにも伝わらないから。

 ただでさえ私は、フィオルド様に甘えて、泣いてばかりいる。

 フィオルド様は私がフィオルド様に甘いとおっしゃってくれたけれど、それは多分逆で、私はフィオルド様にすごく、すごく、甘えてしまっている。
 
「ち、違うの……怖かったのは、魔族のお話ではなくて、その……聖女様の……」

「聖女の……?」

 フィオルド様は私の足下に跪くようにして、床に膝をついている。
 伺うように真っ直ぐに顔をみつめられて、私はこくんと頷いた。

「聖女様が、大切ということが、よく分かって……だから、もし、アニスさんや、レイフィアさんが、ほかのだれかが、聖女様、だとしたら、……フィオルド様は、その方を、大切にしなければいけなくて……」

「リリィ、聖女は――」

 フィオルド様はそこで一度言葉を飲み込んだ。
 それから考え直したように軽く首を振ると、口を開く。

「聖女など、どうでも良い。私はリリィが欲しい。暗く深く、清らかさとはほど遠い欲望も、愛情も、お前にしか抱くことはない」

「フィオルド様、私も、……フィオルド様だけが、良い、です……他の人じゃ、駄目、で……」

「嫉妬をしてくれたのだな、リリィ。……私があらわれてもいない聖女を大切にして、お前を忘れてしまうことを想像して、泣いてくれたのか。……愛しているよ、私の女神。……私も、同じだ」

「同じ……?」

 フィオルド様は私の足下に膝をついたまま、私の足に触れた。
 恭しく持ち上げるようにすると、剥き出しの足先に口づける。

「ゃ……だ、だめ、……汚い、から……っ」

「動かないで、私のリリィ。ずっと、触れたかった。小さく白く、形の良い美しい足を食べてしまいたいと、葡萄の果汁で濡れるお前の足を見ながら、考えていた。……リリィ、食べさせて」

「……ゃ、っ、あ、ぁ……」

 恥ずかしいのに、いけないことなのに、抵抗なんてできなくて、私は俯いた。

 足の指を舌が這う。

 一本一本を舐られて、指の間を舌先がぬるりと蠢いた。

「……葡萄の木々の中央で踊るように、魔力をあふれさせていたお前は、本当に女神マリアテレシアのようだった。誰かに奪われるのではないかと、見知らぬ誰かに嫉妬を抱くほどに美しく、神々がお前を連れ去ってしまうのではないかと、不安になるぐらいだった」

「ふぃお、さま、……っ、だめ……っ」

 丁寧に指先を舐っていた舌が、ふくらはぎを伝う。
 軽く食むように歯がたてられると、ぞくぞくした何かが背筋をはしった。

「私以外の誰かが……例えば、お前に好きだと告げたら。私がお前に思いを伝える前に、お前を大切にし、愛を伝えてその心を溶かす誰かがいたとしたら……そんなことを、考えていた。それを考えるだけで、おかしくなってしまいそうだった」

「っ、そんなひと、いない、です……私には、フィオルド様だけ、で……っ」

「私も、見知らぬ誰かに、嫉妬を。……そう思ってしまうぐらいに、お前は美しい。誰にもお前の愛らしさや美しさを知られたくないと、……どうしようもなく醜い独占欲に、頭が支配されそうになる」

「ん……ぁ、ん……フィオ、さまぁ……」

「誰にも見られないように、閉じ込めておきたい。……檻に入れて、二度と外に出られないように。私の声だけをきいて、私の姿だけを、見て……そう、思ってしまう。……自分が、嫌になる。こうして、お前の嫌がることをしているのに、私の心は、獣の喜びで満たされているのだから」

 ふくらはぎから、内股を舌が辿る。
 僅かな痛みとともに、赤い跡が内股に散っていく。

 赤く散った跡に、優しく宥めるように舌が触れる。

 めくりあげられたスカートの下にはきっと下着がのぞいているはずで、全てを晒して見られていると思うと、羞恥心が新しい快楽をうみだして、下腹部が切なく疼いた。

 フィオルド様の感情が、怖いぐらいの強い愛情が、全部、全部――嬉しい。

 嫌なことなんて、本当はひとつもない。

 いけないことも、恥ずかしいことも、――フィオルド様だから、どんなことだって、して欲しい。

「して、くださ……私、フィオルド様に、なら、閉じ込められても、良い、から……っ」

「……リリィ。……私が、本気にしたらどうする?」

 フィオルド様は私の内股から唇を離すと、私を抱きすくめた。
 ぽすりと一緒にベッドに横たわって抱きしめてくださるのが心地よくて、私はその首に甘えるように頬をすりつける。

「良い、です……だって、フィオルド様がずっと、愛してくださるなら、私、……きっと、幸せで」

「……好きだよ、リリィ。自分が自分ではなくなるほどに、……お前を愛している」

「私も……好き、です。フィオルド様、好き。嫌じゃ、ないから……いけないこと、いっぱい……して、ください……」

 きゅっと抱きつきながら強請るように言う。

 自分でも恥ずかしくなるぐらいに甘えた声が出た。

 思い切り甘えることができるのが、嬉しい。恥ずかしさ以上に、甘えられるという心地よさと喜びが胸にあふれる。

「……リリィ」

 フィオルド様が、切なげに眉を寄せる。

 熱の籠もったアイスブルーの美しい瞳が、私を射るように見つめた。

 ちらちらと、今日何度目かの雪が部屋に舞い落ちている。

 触れるだけの口付けを何度か繰り返したあと、フィオルド様は「体を清めようか。……あのときは我慢していたが、もう、その必要はないのだな」と、艶やかな笑みを浮かべて言った。



しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...