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セフィール家での休暇と想起の夏

 はじめてのお泊り旅行 2

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 けれど、それではやっぱり駄目なのだと思う。

 言葉にしないと、なにも伝わらないから。

 ただでさえ私は、フィオルド様に甘えて、泣いてばかりいる。

 フィオルド様は私がフィオルド様に甘いとおっしゃってくれたけれど、それは多分逆で、私はフィオルド様にすごく、すごく、甘えてしまっている。
 
「ち、違うの……怖かったのは、魔族のお話ではなくて、その……聖女様の……」

「聖女の……?」

 フィオルド様は私の足下に跪くようにして、床に膝をついている。
 伺うように真っ直ぐに顔をみつめられて、私はこくんと頷いた。

「聖女様が、大切ということが、よく分かって……だから、もし、アニスさんや、レイフィアさんが、ほかのだれかが、聖女様、だとしたら、……フィオルド様は、その方を、大切にしなければいけなくて……」

「リリィ、聖女は――」

 フィオルド様はそこで一度言葉を飲み込んだ。
 それから考え直したように軽く首を振ると、口を開く。

「聖女など、どうでも良い。私はリリィが欲しい。暗く深く、清らかさとはほど遠い欲望も、愛情も、お前にしか抱くことはない」

「フィオルド様、私も、……フィオルド様だけが、良い、です……他の人じゃ、駄目、で……」

「嫉妬をしてくれたのだな、リリィ。……私があらわれてもいない聖女を大切にして、お前を忘れてしまうことを想像して、泣いてくれたのか。……愛しているよ、私の女神。……私も、同じだ」

「同じ……?」

 フィオルド様は私の足下に膝をついたまま、私の足に触れた。
 恭しく持ち上げるようにすると、剥き出しの足先に口づける。

「ゃ……だ、だめ、……汚い、から……っ」

「動かないで、私のリリィ。ずっと、触れたかった。小さく白く、形の良い美しい足を食べてしまいたいと、葡萄の果汁で濡れるお前の足を見ながら、考えていた。……リリィ、食べさせて」

「……ゃ、っ、あ、ぁ……」

 恥ずかしいのに、いけないことなのに、抵抗なんてできなくて、私は俯いた。

 足の指を舌が這う。

 一本一本を舐られて、指の間を舌先がぬるりと蠢いた。

「……葡萄の木々の中央で踊るように、魔力をあふれさせていたお前は、本当に女神マリアテレシアのようだった。誰かに奪われるのではないかと、見知らぬ誰かに嫉妬を抱くほどに美しく、神々がお前を連れ去ってしまうのではないかと、不安になるぐらいだった」

「ふぃお、さま、……っ、だめ……っ」

 丁寧に指先を舐っていた舌が、ふくらはぎを伝う。
 軽く食むように歯がたてられると、ぞくぞくした何かが背筋をはしった。

「私以外の誰かが……例えば、お前に好きだと告げたら。私がお前に思いを伝える前に、お前を大切にし、愛を伝えてその心を溶かす誰かがいたとしたら……そんなことを、考えていた。それを考えるだけで、おかしくなってしまいそうだった」

「っ、そんなひと、いない、です……私には、フィオルド様だけ、で……っ」

「私も、見知らぬ誰かに、嫉妬を。……そう思ってしまうぐらいに、お前は美しい。誰にもお前の愛らしさや美しさを知られたくないと、……どうしようもなく醜い独占欲に、頭が支配されそうになる」

「ん……ぁ、ん……フィオ、さまぁ……」

「誰にも見られないように、閉じ込めておきたい。……檻に入れて、二度と外に出られないように。私の声だけをきいて、私の姿だけを、見て……そう、思ってしまう。……自分が、嫌になる。こうして、お前の嫌がることをしているのに、私の心は、獣の喜びで満たされているのだから」

 ふくらはぎから、内股を舌が辿る。
 僅かな痛みとともに、赤い跡が内股に散っていく。

 赤く散った跡に、優しく宥めるように舌が触れる。

 めくりあげられたスカートの下にはきっと下着がのぞいているはずで、全てを晒して見られていると思うと、羞恥心が新しい快楽をうみだして、下腹部が切なく疼いた。

 フィオルド様の感情が、怖いぐらいの強い愛情が、全部、全部――嬉しい。

 嫌なことなんて、本当はひとつもない。

 いけないことも、恥ずかしいことも、――フィオルド様だから、どんなことだって、して欲しい。

「して、くださ……私、フィオルド様に、なら、閉じ込められても、良い、から……っ」

「……リリィ。……私が、本気にしたらどうする?」

 フィオルド様は私の内股から唇を離すと、私を抱きすくめた。
 ぽすりと一緒にベッドに横たわって抱きしめてくださるのが心地よくて、私はその首に甘えるように頬をすりつける。

「良い、です……だって、フィオルド様がずっと、愛してくださるなら、私、……きっと、幸せで」

「……好きだよ、リリィ。自分が自分ではなくなるほどに、……お前を愛している」

「私も……好き、です。フィオルド様、好き。嫌じゃ、ないから……いけないこと、いっぱい……して、ください……」

 きゅっと抱きつきながら強請るように言う。

 自分でも恥ずかしくなるぐらいに甘えた声が出た。

 思い切り甘えることができるのが、嬉しい。恥ずかしさ以上に、甘えられるという心地よさと喜びが胸にあふれる。

「……リリィ」

 フィオルド様が、切なげに眉を寄せる。

 熱の籠もったアイスブルーの美しい瞳が、私を射るように見つめた。

 ちらちらと、今日何度目かの雪が部屋に舞い落ちている。

 触れるだけの口付けを何度か繰り返したあと、フィオルド様は「体を清めようか。……あのときは我慢していたが、もう、その必要はないのだな」と、艶やかな笑みを浮かべて言った。



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