リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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セフィール家での休暇と想起の夏

真昼のお茶会 1

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 明るい陽射しが、中庭には降り注いでいる。
 ドロレスたちが特別に中庭に昼食を準備してくれた。

 フルーツをふんだんに使ったサラダや、柔らかそうなお肉や、そら豆のポタージュ。
 それから、パンや、色とりどりの小さなケーキ。

 お肉はフィオルド様用だろう。チーズとオリーブとトマトの乗った一口大の、小さな串にささった食べやすそうなピンチョスが、私の前に取り分けられる。

 セフィール家のお食事はどれもこれも私の好みにあわせてくれていて、ありがたいし、申し訳ない。

 私もお肉、好きだったらよかったのに。

 小さく切ってあるピンチョスを、口に入れると、オリーブのさわやかな味が口いっぱいに広がった。
 今日はケーキもあるし、料理人の皆さんの力が入っている。

 テーブルには色とりどりのお花が飾られていて、侍女の皆さんで中庭は華やかに飾られていた。

 木々にはリボンが結ばれたり、魔法風船がそこここに飾られたり、花の形をした魔導ランプが、真昼なのにあたりを青や赤色に照らしていたり。

「今日は第一回、お嬢様と殿下の恋人記念パーティーですので、存分にごゆるりと、楽しんでいってくださいね!」

 ドロレスが何もない場所にふわふわと浮かんでいる、何か大きな丸いものから垂れ下がっている紐を引っ張った。

 丸いものはぱかりと二つに割れて、中から癖の強い丸い文字で『祝・恋人記念』と書かれた布が現れる。

 ドロレスが両手を空に掲げると、どういうわけか、ぽんぽんと花びらが舞い散り、白い鳩が空に向かって飛んで行った。

 ドロレスの横に並んでいる侍女の皆さんが、ぱちぱちと拍手をしている。

 私もつられて拍手をした。

 拍手をしたあと、ふと、これはやりすぎなのではないかしらと思ってフィオルド様に視線を向けると、フィオルド様も感心したように拍手をしていた。

 不機嫌そうな表情じゃなくて良かった。

「苦節十六年、やっとお二人が、色々な意味で仲良しになれて、感慨深いです。次は御子ですね、殿下。旦那様も奥様も、そしてこのドロレスも、セフィール家の面々も、今か今かと待ち構えていますので」

「ど、ドロレス、それは、フィオルド様に失礼なのではないかしら……」

「大切なことは声を大にして言わなければいけませんよ、お嬢様。これはとても重要な事なのです、これ以上殿下に我慢をさせたら、そのうち殿下が死んでしまうかもしれませんので」

「フィオルド様が……?」

 一本指を真っ直ぐ立てて、ドロレスが言い聞かせるように私に言った。

 私は青ざめながらフィオルド様を見上げる。

 フィオルド様の忍耐については私はなんとなく知っているつもりでいたのだけれど、まだなにか我慢していることがあるのかしら。

 とても、心配。

「リリィが気にすることではない」

「殿下、今のはいけませんよ。リリィお嬢様は、気にするななどと言われたら、それはもうぐるぐる気にして、三日三晩気にして、最終的に――私は嫌われているのではないかしら……! という極論に辿り着く方なのですから」

「……それは、気を付ける。……リリィ、今の言葉は違う。いずれお前には話すつもりでいたが、……今はまだ。その時ではないと思っている」

「でも、でも、我慢なさっているのですよね……? 私、フィオルド様に、なにか我慢をさせてしまっているということですよね……?」

「そうではなく」

「隠しごとはいけませんよ、殿下。ま、私が言えた言葉ではありませんけれど。でも、ドロレスは心配しています。……物事は早め早めが肝心です。いつ何が起こるかわかりませんから。お二人は愛しあっているのですから、何も問題はございません」

「そうかもしれないが、物事には順序というものがあるのではないか。いや、私も、言えた言葉ではないが。……せめて、婚姻を」

 フィオルド様は、珍しく歯切れが悪く言葉を濁した。

 何の話なのかよくわからなくて、私は二人の顔を交互に見つめる。


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