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セフィール家での休暇と想起の夏
真昼のお茶会 2
しおりを挟むドロレスは小さく嘆息したあとに、両手で握りこぶしをつくった。
「来年の殿下の卒業後、ですね。あと、半年近く。……それでしたら、何があっても、このドロレス。お二人を影ながら、表ながら、全力で応援させていただきますので。辺境の魔導士の名にかけて、あらゆる悪意をばさっと成敗させていただきますので、ご安心を……!」
「ありがとう、ドロレス。でも、大丈夫だと思うのだけれど……」
そこまで言って、私はアニスさんのことを思い出した。
よく考えたら、特に解決はしていないのよね。
フィオルド様と一緒に居るとふわふわして幸せで、すっかり、きれいさっぱり忘れていたけれど。
学園に戻ったら、アニスさんとも会わなければいけない。
アニスさんのお母様の、アザレア・レランディア公爵夫人は、私のお母様のことが嫌いらしいのだし、溝は深そうよね。
「成敗しては、いけないわ、ドロレス……色々、事情があるみたいだから……」
「悪は即効断じろ――という格言がございまして」
「それは、あまりよくないと思うの……」
「お嬢様は優しいですね、私などは、復讐は何もうまないけれど気分がスッキリ爽快になる。悪人にかける情けはないと、思っているタイプなのですけれど」
「その、難しい、けれど、……色々あるのだと、思うの」
ドロレスは「お嬢様は可愛いですねぇ」とにこにこした。
他の侍女の皆さんが「ドロレスさん、邪魔です」「お嬢様と殿下がいちゃいちゃするのを見守る会ではなかったのですか」と言いながら、ドロレスを引きずっていった。
「……セフィール家の侍女たちは皆、リリィを大切にしているのだな」
侍女のみなさんとドロレスがいなくなり、フィオルド様が私の手を握って言う。
それから、そっと私の手を引いて、椅子から立たせてくださった。
「少し、歩こうかリリィ。それとも、もう少し食べるか?」
「もう、お腹がいっぱいで……お散歩、しますか?」
「あぁ。セフィール家の庭は、美しい。少し見ても良だろうか」
「勿論です。ドロレスの影響で、お庭には珍しい植物が多いのですよ。辺境の街には、なんでも集まるそうですから」
「あぁ、そのようだな」
私とフィオルド様は、手を繋いで中庭の庭園へと向かった。
空は晴れ渡っていて、風に揺れる花々が、華やかで香しい芳香を運んでくる。
――何か、胸がずきりと痛んだ。
フィオルド様とこの場所を歩くのははじめてのはずなのに、強い既視感を感じた。
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