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2 ふたりきりのばんさん

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「二人とも結婚おめでとう。エリアーヌ姫は着いたばかりで疲れているだろう。二人とも部屋にてお互いの親睦を深められるように、晩餐を用意しよう」

 王様の顔がひきつっていた。
 ただのゴリラではないか、ってさっきつぶやいたのも聞こえてなんだか少し悲しい。
 私はゴリラ獣人に誇りを持っているけど、人間になれないのは本当のことだからそう言われても仕方ない。

 しょんぼりする私の手を、ディディエ様がぎゅっと握った。

「ありがとうございます、陛下」

 ディディエ様がそう言ってお辞儀したから、私も真似をする。

「二人仲良く、お幸せにね」
「……下がって良い」

 王妃様がにこやかに笑い、王様はなにか言いたそうではあったけど、ディディエ様に引っ張られるようにその場から連れ出された。








 侍女達が離宮で食事を並べている間、ディディエ様はお庭を案内してくれた。
 見たことのない草木がいっぱいで、これからたくさんの花が咲くんだって。

「あのね。僕、お母様が亡くなってからずっと一人でこの離宮に暮らしていたから、今日からずっとエリアーヌ姫がいてくれてすごく嬉しいんだ。僕の妻になってくれてありがとう」

 ディディエ様はずっと私の手を握ったままで、今も時々ぎゅうっと強く握る。
 ディディエ様はずっとお寂しい暮らしだったのかな。

 私は両親が時間があればすぐにそばに来てくれて好きだって抱きしめて愛情表現してくれたからあまり寂しくなかった。
 これからは私がずっと一緒にいるから、ディディエ様を大切にする!

「……私もディディエ様と結婚できてよかったです」
 
 他の人達はみんな冷たかったけど、ディディエ様だけは違う。
 私が話すとディディエ様が驚いて辺りを見回した。

「エリアーヌ姫は話せるんだね! 僕、嬉しい。……だけど、話すのは二人きりの時だけにしてくれる? みんなには内緒にしてほしいんだ」
「どうして?」
「僕の大切なものは全部壊す人がいるから」

 私はそれを聞いて頭の中に王妃様が浮かんだ。
 でもそれを口に出してはいけない気がして、小声で言った。

「わかったわ。二人きりの時だけね」
「うん、無理を言ってごめんね。僕がもっと大きくなってエリアーヌ姫を守れるようになるまで待ってくれる?」
「はい!」

 その後、テーブルにたくさんの料理が並べられ、給仕が一人部屋の隅に残っただけ。

「二人きりだから、自由に食べよう」

 これなら大きな失敗はしないですみそう。
 真っ先に目の前のブドウに手を伸ばした。
 
「エリアーヌ姫は、果物が好き?」
「……ウホ」
「そう、よかった。たくさん食べてね」

 コクンと頷いて無言でパクパク食べる。
 とても甘くておいしくて夢中になった。

「エリアーヌ姫、ブドウを気に入ったの? じゃあ、僕の分もあげるね」
「ウホッ⁉︎」

 そう言われて顔を上げるとディディエ様がニコニコしながら私にブドウののったお皿を差し出した。
 だけど隅に控えていた給仕がとても怖い顔で私を見ていて、手を膝に下ろしてドレスをにぎる。

 もしかして、お行儀の悪い食べ方をしちゃったのかも……。

「あれ? もういいの? それなら、梨はどうかな。とろりとしておいしいよ」

 ちらりと見ると、給仕がにらんでいるのに気づいて首を横に振ってうつむいた。怖くてディディエ様のほうを見ることができない。
 
「……食べ終わったら声をかけるから、休んでいていいよ」

 ディディエ様が給仕に、にっこり笑いかけると、かしこまりましたと言って部屋から出て行った。
 
「エリアーヌ姫、もう二人きりだからもっと気楽にして」

 おしゃべりはもうちょっと待って、って唇に指を当てて小さな声で言われたからうなずいた。

「今日は僕達の結婚のお祝いだから。ね、食事を楽しもうよ」

 私はほっとして、目の前の小さく切られた梨をフォークで刺してさっきよりもゆっくり食べることにした。
   
「これから毎日、一緒に食事がとれるんだね」

 ディディエ様はずっとニコニコしていて私は心が温かくなる。

 これからは私が失敗してディディエ様に迷惑かけないようにしたいから、あとでこの国のマナーをディディエ様に教えてもらおう。







 それぞれお風呂に入って、さっきとは別の冷たそうな侍女に案内されて寝室に入った。
 お風呂係に全身泡だらけにされて嫌だったけど、大きなお風呂ですっきりしたから早くベッドに飛び込みたい。

 だけど大きなベッドにディディエ様がちょこんと座っていて、どうやらこれから一緒のお部屋を使うみたい。結婚したからかな。

「エリアーヌ姫、疲れたでしょう? 今夜は早く眠ろう」

 二人一緒に横になってもあと一人二人寝れそうなくらい広い。
 ベッドで跳ねることはできないけど、誰かと一緒に眠るのは初めてでわくわくした。

「それでは、灯りを消しますので……本日はおめでとうございます。ゆっくりお休みくださいませ」

 侍女が扉を閉めて、シーンとした。
 ディディエ様がカサコソ動いてベッドから降りると、ほんの少しカーテンを開けて戻る。
 ベッドに横になったディディエ様の顔が月明かりでよく見えた。

「エリアーヌ姫? もう眠い? 今ならおしゃべりできるんだけど……」
「ディディエ様は眠くないですか?」
「僕は大丈夫。あのね、エルって呼んでもいい? エリとどっちがいいかなってお風呂に入りながら考えたんだ」

 両親はエリって呼んでいたけど、ディディエ様のエルって呼び方が気に入った。

「私はエルがいいです。誰にもそう呼ばれたことがないから……あの、私もディー様って呼んでもいいですか?」
「うん、もちろん。ディーがいいな。……それに僕のだから、そんなにかしこまらなくていいよ。僕達同じ歳なんだから……」

 ハンリョって言葉が難しくて首をかしげた。

「伴侶って、エルの国だと番って言うのかな? だから二人で話す時はディーって呼んで」
「うん、わかったわ。ディーは私の番なのね! これからずっとよろしくね」

 私が手を差し出すとディーが握った。
 その夜はこっそりお互いの好きなものと嫌いなものの話をして、私達はいつの間にか眠りに落ちていた。
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