異世界で再会した姉はおばあちゃんで、私はそこで恋に落ちた

能登原あめ

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 梅仕事がひと段落ついた日。
 日本のような婚姻届はないけれど、役場の台帳に私とフランシスは夫婦として名前を書いた。
 
 簡単すぎて拍子抜けしてしまうけど、これで夫婦になったらしい。
 ぎゅっと手を握られて、そのまま雑貨店へ向かう。
 お義母さんに、明日からみんなが玄関前にお祝いの品をそっと置いて帰ってしまうだろうけど、気にせずそのまま受け取るようにと言われた。

 新婚さんが家でゆっくりできるように野菜に米、卵や牛乳、干し肉や干し魚なんかも置かれることがあるらしい。
 これも正体を明かさず、やれる人がやる風習だから、今後誰か結婚したら、私たちだったら梅干とか渡せばいいみたい。

「しばらく朝はゆっくりしましょう。このところ休みがなかったもの」

 雑貨店で待っていたあみちゃんが、お義母さんの説明にそう付け加えた。

「さぁ、食事にしてお祝いしましょう」

 今日のお昼ご飯もこの村の伝統的な料理だという、鶏肉のお腹に詰め物をしたオーブン焼きに、野菜と白身魚の蒸し焼きと、ジャガイモの冷たいスープ、野菜のトマト煮とあみちゃんの塩むすびが並んだ。

「俺の好物ばかりだ」
「そうなの?じゃあ、教えてもらわないと」
「……お前、嫌いなものないだろ」

 アーティさんがそう呟いて、フランシスがしばらく考えてから本当だって笑った。

「そうそう!ユミちゃんからもらったビスケット本当においしかったわ。あれ、うちで売れないかしら?日持ちもするし、売れると思うのよね」
「そう言ってもらえると嬉しいですけど……今年はそれほどアブリコのジャムを煮ていないので、季節ごとに他のジャムに変えれば色々と作ることはできると思うんですけど……」
「あらまぁ、それはいいわね。もう少し涼しくなったらジャム向きの果物がでるから、味見させてくれる?料理はいつでも教えるから」
「はい、よろしくお願いします」

 思いがけず新たな収入源が増えるかもしれない。
 頭の中で、ナッツを空煎りしてから蜂蜜で煮からめて挟んでもいいなぁなんて考えた。

 食事の最後に、大きなプリン。
 ほんのり温かくて、おばあちゃんの作ってくれた味を思い出す。

「おいしい……」
「ほんとね……」

 私もあみちゃんも感動していたら、これも教えてもらえることになって、ますます幸せな気持ちになった。
 
 お腹も心も満たされて、そろそろ帰ろうという頃、あみちゃんは残ると言う。

「お腹いっぱいだし、今夜一晩お世話になるわ。二人は戻ってちょうだい」

 今日のあみちゃんは荷物が多いなと思っていたけど、初めからそういう話がまとまっていたみたい。
 みんなに挨拶して見送られながら、ほんの少し気恥ずかしい。

 まだ明るいから歩いて帰ると言った私たちをアーティさんが着く頃に暗くなって物騒だからと言って、荷台に乗せてくれ、家まで送ってもらった。
 
「アミさんは午後の配達の時にこっちへ連れてくるから!」
「ありがとうございます!」


 二人きりは初めてかも。
 途端に緊張してきた。
 さっきから、フランシスはずっと無言だし。

 私は顔をのぞきこんで、ぷっと吹き出した。

「フランシス、どうしたの?なんでそんなに緊張してるの?」
「…………ユミはどうして平気なの?」

 手をつないで部屋に入った私たちだけど、しんとして二人きりだと意識しないわけにはいかない。

「あまりお腹減らないけど、簡単に食べるものの準備と、お、風呂の準備しちゃおうか……」

 変なところでつっかえて恥ずかしい。

「うん、そうだね。……じゃあ、俺、風呂の準備をしてくるね。食事は、ユミは食べれそう?」
「実はあんまり……昼に食べ過ぎちゃった。平たく焼いたパンがあるから、トマトとチーズのせて炙ってもいいし、オムレツくらいならすぐできるから、お腹空いてから作ってもいいよ」
「じゃあ、お腹空いたら一緒に作ろう。ユミは休んでて」

 そう言われても、なんだか落ち着かなくて、とりあえずぬか床をかき混ぜて入っていたのがきゅうりだったから、そのままにした。
 今出しちゃうと味が落ちるけど、入れっぱなしで酸っぱくなった古漬けは好きだから。

 生で食べれる野菜をハーブと一緒に刻んで塩を加えて混ぜておく。
 そのまま食べてもいいし、パンにのせてもいいし。
 困ったら、スープにしてお米と卵落としてもいいし。
 小麦粉でお団子を作ってスープに落としても手軽かも。
 すいとんみたいなイメージで。
 手を動かしながらそんなことを考えていたら、フランシスが戻ってきた。
 
「ユミ、何か作ったの?」
「下ごしらえだけだよ。もしかしてもう準備できたの?」
「うん、そう……だから、先に入って」
「え?……でも。いつも……」

 フランシスのほうが、お風呂が早いから先に入るのに。
 
「あの……女の子の、ほうが色々準備あるだろう、と思って」

 準備、だなんて。
 ぼんっと瞬間的に顔が赤くなる。

「ユミ、真っ赤。……ね?先に入って」

 逆転してしまった。
 頬にキスしてにっこり笑うフランシスの顔を今度は私が直視できない。
 
「あんまりかわいいと……」

 フランシスのつぶやきに顔を上げると唇が落ちてくる。
 
「んっ……!」

 ためらいなく唇を啄まれて舌が滑りこむ。
 驚いて後ろに下がりかけた私の腰をぐっと引き寄せて、より深く舌が絡んだ。
 腰のあたりがムズムズする。
 体の力が抜けてすがるように彼に腕を回した。

「ユミ…………このまま寝室行く?……風呂にする?」
「お風呂がいい……でももう少しこのまま抱きしめて?……なんだか、足が震えちゃって……」

 フランシスが深く息を吐いて、小さく我慢我慢ってつぶやきながらぎゅっと抱きしめてくれる。

「……大好き……ありがとう」

 それから私は、ここに戻る時あみちゃんに今夜使ってと渡された袋を抱えて風呂場へ向かった。
 
 
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