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領地で新婚生活編
23 アンジーの肖像画
しおりを挟むこの町に評判の画家がいる。
腕もよく肖像画描きを生業としているらしいが、商売っ気がなく、空いた時間は風景を描いて細々と暮していると聞く。
今すぐアンジーを描いてもらえるかもしれない。
報酬ははずもう!
「僕の美しい妻を描いてほしい。背景はあとで案内する湖で、妻だけの絵と、夫婦の絵を一枚ずつお願いしたい」
「承知いたしました」
「ではこれを」
僕は手にしていた大判のハンカチを渡した。
「……なんでしょう?」
「これで、目隠しをしてください」
「……これから奥様とお会いするんですよね?」
「そうだが、妻を見つめて欲しくないので」
「……それは…………どのように、描いたら良いのでしょう?」
「僕が横で説明するから、任せてほしい!」
アンジーの美しさを伝えられるのは僕だけだっ!
「報酬はこれくらいで……」
「そんなにですか…………期待に応えられるか分かりませんが、頑張ってみます……」
「アンジーはそこにそのまま座っていて。……アンジーの顔を描いてもらうから」
「……わかったわ。……ヴァル?」
アンジーが不思議そうに首を傾げたけど、そのまま黙って椅子に座る。
僕が、目隠しした画家を連れて来たからだと思うけど、大丈夫、というように大きく頷いてみせた。
画家とアンジーの間についたてがあり、彼女が見えないように後ろ向きに座らせてから目隠しを外す。
「振り向いたらいけないよ?」
「……はい」
真面目な画家でよかった。
紙と筆を用意したのを見て、僕はアンジーをみつめた。
「かわいい……。こほん。……妻は十八歳で、結婚したばかりだ。まず、一言で言うと天使のように愛らしい。この世界で一番かわいい女性だ。……見てはだめだ」
振り向きそうになった画家を止める。
「金色の髪……は、暖かくて優しいバターのような黄色味を帯びていて、背中の半分ほどの長さかな。こう、指に巻きつけるとするすると……こほん」
それは僕だけが知っていればいいか。
「えーと、抜けるような白い肌。小さな丸い顔に愛らしいくりっとした瞳。色は……感情によって色が変わるのだけど……今はほんのり緑の混じった栗色、かな? それから、小さな鼻と、ふっくらした小さな唇……色は血色のいい、紅? キスして確かめて来ていいかな?」
「え! あの? ドウゾ、とりあえず描いてみます……」
さらさらと紙に描きつける音がする。
その音に安心して、ついたてから出てアンジーのもとへ向かった。
目の見えない方が、描かれるの? って小声で訊くアンジーに違うって答えてから唇を重ねる。
恥ずかしがるアンジーに見えないからって言って、何度か啄んでから戻った。
あー、かわいい。僕の天使。
僕の妻、最高。
「……奥様はこのような感じでしょうか?」
「誰だ、これは?」
「…………(でしょうね)」
「……では湖に案内するから先に仲睦まじい私達夫婦を描いてもらえるかな」
翌月、湖を背景に金髪の女性を胸に抱え込むように抱きしめる僕の絵を、画家が恐る恐る差し出して来た。
「こちらでいかがでしょうか……?」
「…………顔が、見えない」
「お気に召さないようでしたら」
「………………いや。僕がどれだけ妻を愛して大事に思っているか、よく描かれてるよ! 素晴らしい‼︎ ブラーボー!」
観れば観るほど、妄想をかき立てられていい絵だなぁ!
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