仲良し夫婦、記憶喪失。

能登原あめ

文字の大きさ
9 / 10

9 ※

しおりを挟む


 余裕たっぷりに笑ったミケルは、私の腰をつかんでゆっくり揺さぶる。

「可愛い、大好き。ずっとこのままでいたい」
「私も……っ、んっ」
 
 はしたない音が響き、恥ずかしさに体温が上がる。だけどそんなことが気にならないくらい、深い交わりに溺れていった。

「ミケル……ッ、ずっと、おかしい、の……! 気持ち、良すぎて……っ、私……!」
「可愛いッ、おかしくない、おかしくないよ! 俺も気持ちいい」

 どこを触られても気持ち良くて、頭がおかしくなりそう。

「ミケルがッ、こうしたの……! 私、こうなるって……知らな、かったん、だから……っ」

 いつの間にか流した涙に彼が唇を寄せる。

「ごめん、昔の俺のせいだよね。自分に嫉妬する。……だけど、そんなことは忘れる。今のモニカも可愛くて好きだ。もっと乱れて」
 
 再び仰向けに倒されて、ミケルが乗り上げるように上から突き込んだ。

「あッ、ミケル――!」

 一瞬浮かべたいじわるな顔。
 そんな彼に私はすがりつく。
 気持ち良くてたまらなくて、もう何も考えたくない。

 私の熱がはじけても、ミケルはさらに高みを探った。
 私の体のことは、私以上に彼が知ってしまったみたい。

「ミケルっ、あっ、もう……助けてッ!」
「うん……可愛い、大好きだよ」
 
 その夜、過去を思い出さなくても十分なくらいお互いのことを知った。



 
 


「おはよう、モニカ」
「……おはよう、ミケル」

 翌朝目覚めると、とろけるような笑顔のミケルが私にキスをする。
 満足そうな笑顔に私もつられて笑った。

 なんだかとても体が重くてだるい、けど幸せだからいいかな。ミケルにすり寄って胸に顔を伏せる。
 すごく落ち着いた。

「モニカは昔からずっと、どんな時も可愛いね」
「……昔から? 何か思い出したの? 私はまだ何も思い出せていないわ」
 
「…………いや⁉︎ まだ! 何も……昨日学園時代の話を聞いたから勘違いしたのかも。早く一緒に記憶を取り戻したいな」

 寝起きの頭ではよく考えられない。
 そんなに急いで思い出さなくてもいいと思うのだけど……。

「思い出せなくても、ミケルが大好き」
「……うん、私も大好きだ」

 私から彼を抱きしめて、慌てなくていいよって慰めた。だってこのままでもすっごく幸せだから。

「ありがとう……ずっとずっと大好きだ」




 
 
 それから、私たちが記憶を失ったことが社交界で噂になることもなく1年が経った。
 相変わらずの私たちだったけど、娘が生まれた時にお互いにすべての記憶を取り戻したのは奇跡。
 
 もしかしたら、娘からのプレゼントじゃないかと思っている。
 きっと頼りない両親より頼れる両親になってほしいんじゃないかな。

「ミケルに似て可愛いわ」
「いや、口元や髪はモニカだよ。本当にこの子は美人になる」
「ミケルに似て美人なのよ。……ずっと見ていて飽きないわ」

 娘のノエルが3歳になる頃、不思議なことを言い出した。
 
「パパはわたしがママのおなかにはいるまえに、ぜーんぶおもいだしていたわ。でも、ママがだいすきでいいたくなかったみたい」

 私が見つめると、ミケルはほんの少し困ったように笑った。

「一緒に記憶を失ったから、思い出すのも一緒がよかったんだ。黙っていてごめん」
「そうなの? そんなふうに思ってくれてありがとう」
「怒ったり、呆れたりしてない?」
「しないわ。……すぐに思い出せなくてごめんね」
 
 少しも喧嘩にならない私たち。
 抱きしめ合うと、ノエルがじっと見つめていることに気づいて、真ん中に娘をはさんだ。

「ノエル、君は私たちの宝だ」
「大好きよ、ノエル。あなたがいるだけで私たちは幸せだわ」
「……パパ、ママ、だいすき!」

 季節が変わる頃、もう1人産まれる。
 お腹の子は男の子だってノエルが教えてくれた。
 娘の言うことは当たる気がしている。
 お腹に向かって話しかけているもの。

「家族が増えると幸せも増えるのね」

 みんなで抱きしめ合って、1番最初に飽きた娘が腕からすり抜けた。

「わすれないうちに、おとうとのかおをかいてくる! パパとママのかおも!」
「まぁ……」
「かぞくだってわすれないようにえをかくのー!」

 ミケルと顔を見合わせてほほ笑んだ。
 私たちがもしもまた記憶を失うことになっても、お互いを好きになることは変わらないと思う。









            終



******


 お読みくださりありがとうごさいます。
 もう一話ミケル視点でおまけがあります。
しおりを挟む
感想 33

あなたにおすすめの小説

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

『まて』をやめました【完結】

かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。 朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。 時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの? 超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌! 恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。 貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。 だから、もう縋って来ないでね。 本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます ※小説になろうさんにも、別名で載せています

諦められない貴公子から送られた招待状

待鳥園子
恋愛
ある日送られて来た、夜会への招待状。それは、兄と喧嘩別れしたはずの元友人ユアンからのものだった。 いつの間にか邸へと遊びに来なくなってしまった素敵な彼のことを、ずっと好きだったエレイン。 是非会いたいと招待に応えたら、忘れてしまっていたとんでもない真実を知る。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

ヤンデレ王子に鉄槌を

ましろ
恋愛
私がサフィア王子と婚約したのは7歳のとき。彼は13歳だった。 ……あれ、変態? そう、ただいま走馬灯がかけ巡っておりました。だって人生最大のピンチだったから。 「愛しいアリアネル。君が他の男を見つめるなんて許せない」 そう。殿下がヤンデレ……いえ、病んでる発言をして部屋に鍵を掛け、私をベッドに押し倒したから! 「君は僕だけのものだ」 いやいやいやいや。私は私のものですよ! 何とか救いを求めて脳内がフル稼働したらどうやら現世だけでは足りずに前世まで漁くってしまったみたいです。 逃げられるか、私っ! ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

処理中です...