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4 ひとり
しおりを挟む翌朝目覚めると、私は一人だった。
ぼんやりと天井を見上げる。
彼、サディアスに置いていかれたらしい。
番だと言っても、こんな泣いてばかりで手のかかるつまらない女と過ごすのが嫌になったのかもしれない。
今、宿の主人に出て行けと言われたら、私は何も身につけていなくて、困ったことになる。
着替えも何も持たずに出てきたし、昨日脱いだ服しかない。
ゆっくり起き上がって、朝の手洗いと胸の張りを楽にした後は、ひとまとめに置かれた服を手に取った。
下着はしわくちゃで、手でしわをのばしてみたところでどうにもならない。
ワンピースは軽く折りたたんでくれていたからか、しわは目立たないけど、胸元の大きなシミが目立つ。
でもどうでもいい。
私の命なんていつ消えてもいいのだもの。
マントを羽織ってしまえば何を着ていたってわからない。
このまま下着は着ないで被ろうかと目の前に掲げたところで、扉が静かに開いた。
サディアスがすぐさま扉を閉め、早足に近づいた。
彼が戻ってきたことに驚いて、一瞬呆然としてしまったけど、私は隠すようにワンピースを身体にあてる。
「…………」
「…………それは着ないでくれ」
しばらく見つめ合っていたけど、彼が手にしていた袋の中から、新しい下着とワンピースを渡された。
「市場で見繕って来た。とりあえず、着替えたら食事にしよう」
下着はしめつけのないものだし、ゆったりとした淡い桃色のワンピースは、前見頃にボタンが並んでいて、私の今の状況に合うものを選んでくれていた。
「……ありがとう、ございます……」
「……いや、そのまま連れ出して悪かった」
彼が私に背を向けてテーブルに朝食を並べ始めた。
その間に私は着替える。
着替えはもう一着用意してくれていて、そちらはカナリアのようなくすみのある黄色いワンピースだった。
彼はこんな私を捨てずに彼の住まいに連れて行ってくれるらしい。
ゆっくりとテーブルに近づいた私を、彼が抱き上げて一緒に椅子に座った。
この距離感が彼の普通なのか、それとも番というのはこういうものなのか、わからない。
番と一緒で幸せなはずなのに、私の心は黙ったまま。
「今朝は何か食べれそうか?」
パンケーキにオムレツ、緑色のスープ。
それから、昨日と同じ果物をすりつぶしたジュース。
「ジュースが、いい、です……」
彼が私の口元にカップを添えて傾けた。
ごくんと飲み込むと、昨日よりさっぱりしている気がする。
「朝は目が覚めるように、柑橘類を増やしているらしい」
私の顔なんて見えないはずなのに、まるで会話しているみたいに話す。
「このスープはグリーンピースのスープで、こっちはこの宿屋の名物のオムレツだ。一口食べてみるか?」
私が頷くと、どちらも一口ずつ食べさせてくれる。
オムレツが気に入ったとわかると、二口、三口と私が飲み込むのを待ってから食べさせてくれた。
それだけでお腹がいっぱいになった私が、もう十分だと伝えると、無理強いせず、残りは彼が平らげた。
「今日はこの後、宿舎に戻る。広い部屋ではないが、しばらく我慢して欲しい」
私が頷くと彼がほっとした様子をみせた。
お腹が満たされて、うとうとする私をマントで包み、彼に抱えられながら馬に乗せられて辺境へと向かった。
途中起こされて、馬から降りて休憩をとり、夕方前に無骨な男達に囲まれて高く積み上げられた石垣の中へと入った。
異様な雰囲気に私はマントの中で縮こまる。
「……俺の番だ。怖がらせるなよ」
興味津々で見ていた男達が、一瞬静かになった後、
「副隊長目当ての女どもが、オレ達になびくチャンスかもしれねぇな!」
「そうだな、早く広めてこようぜ」
「じゃあ、お先に失礼しますっ!」
そんな会話をして離れていく。
「……大丈夫か? 慣れるまで部屋から出なくていい。いや、むしろ出て欲しくないな」
「…………」
「アマヤ。……大切にするよ」
彼の部屋は、私が暮らしていた部屋より台所がない分小さかったけれど、すっきりしているから気にならない。
室内を一通り案内された後、ベッドに向かおうとした私を彼が止める。
「座りっぱなしで疲れただろう。湯に浸かるといい」
私がぼんやりしている間に彼が風呂の用意をしたり、私の分までマントの埃を払ったり、着替えを準備をしたり、それを当たり前のようにこなす。
「風呂に行くぞ」
それから彼が下着姿になって、私の服を脱がせた。
昨日と同じ流れに私は逆らわない。
風呂の縁に座らせられた後、彼が出て行ったから、胸の張りを楽にした。
その後彼が浴室にやって来て私の身体を流す。
髪も身体も洗ってもらい、部屋に戻った後はやはり抱っこされたまま食事をとった。
「明日から仕事に戻る。しばらく日中は部屋から出ず待っていてくれ。休憩時間になるべく顔を出すが……」
私にすることなんてない。
ジョナスのことしか考えられないのだから。
「……待ってます」
心配そうに私の顔を覗き込むから、小さくつぶやいた。
朝になると、彼に起こされて、部屋で一緒に食事をとる。
彼が仕事に出た後は私はベッドに戻り横たわる。
眠れはしないけど、ジョナスのお包みを抱きしめていると心が落ち着くから。
思い出して涙が止まらなくなって、そのまま泣き疲れて眠ると、休憩時間に顔を出したサディアスが心配そうに私を見ていた。
私の視線に気づくとそんな表情はスッと消えるのだけど。
夜だってジョナスのことを思い出さないわけじゃない。
ただ、彼に抱きしめられていると、何も考えられなくなって、そのまま眠くなる。
ご飯を食べて、眠って、お風呂に入れてもらう。
そんなふうに過ごしているうちに、胸は張らなくなって、一つの季節が過ぎ去った。
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