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「俺がいるけど」
 
「セフレになるのはいやだから」
「俺もそんなつもりはない」

 同僚だから、今夜限り。
 お互いの意見が一致してるなら、今夜のことは全部忘れちゃえばいい。

「なみちゃん、忘れられない夜にしよう」
「え? あっ、待って……ん、あっ、んンッ」

 一定のゆったりした律動が内壁すべてを刺激する。
 指で触れられたところも、そうじゃないところも、大きな亀頭がひだをひっかくように動く。
 勢いと力任せの行為じゃないからじわじわと快楽が押し寄せてきた。

「なみちゃん、腰、動いてるね」
「動いてない」
「うん、動いてない。俺も動いてる……すごく気持ちいい」

 ぎゅうっと奥に押し当てられてキスするのも、もどかしいくらい気持ちいい。
 クリトリスに触れられるのとはまた違う感覚に林を受け入れる前の身体の状態を思い出した。

 もっと動いてほしい。
 でも言い出しづらい。
 林は腰を引いて浅いところを突き始めた。

「あっ、いい……」
「気持ちいい? ん、よかった。こうしたら?」

 指でクリトリスを押されて、あっさり達した。
 強くて甘い刺激に内壁が収縮する。

「なみちゃん、絞りすぎ」

 ぎゅっと目を閉じて耐える林に身体が反応する。
 いつも余裕のある姿だから、新鮮に感じた。
 なんとか耐えたらしい林が大きく息を吐いて深く突き込んだ。
 
 ぐうっと奥まで拓かれることにまだ慣れない。
 痛いわけじゃないけど林にしがみついて、浅く呼吸する。

「なみちゃん、ゴム外したくなってきた」
「無理」
「……わかってるけど、生だと思ったほうが気持ちいい。中で出して、もっとなみちゃんを濡らしたい」

 キツく抱きしめられながら耳元で囁かれると変な気分になる。

「可愛い……中が締まった。なみちゃんと俺の子、きっと可愛いよ」
「そうかもね」

 林に似れば。
 まぁ、そんなことは起こらないけど。

「なみちゃん、俺のすべてを捧げる」

 大げさだな、なんて考え事ができたのは一瞬だけで、その後の林は本領発揮とばかりになみを揺さぶった。

「あっ、はやしっ、もう、終わって……!」
「だから、名前で呼ばないと終わらないって」

 そう言いながらキスするんだから終わるはずもない。

「んー、んー、んー!」
「わかんない、イクのもったいなくて終われない」
「……ばかぁ!」
「それは認める。けど、名前言えてないから終わらない」

 自分の身体が自分のものじゃないみたい。

「あ――っ、あ――、あ――っ!」

 何度もイかされてもうよくわからない。
 朦朧とする意識の中で、ようやく射精した林が言った。

「なみちゃん、この先は君だけだ」
 

 
   
 


 シャワー浴びたいのに動くのが面倒くさい。
 林がぴったりくっついてるのもあるかも。
 
「引っ越し先さ、ここから5分のマンションを勧める」
「……まさか林と同じところ?」

「そう、いくつか空いてる。隣駅から歩いて七分。古いけど改装してあるからきれいだし家賃はここと変わらないし、エントランスはオートロックで、荷物を受け取れるロッカーもある。別の階ならお互い休日に何してようがわからない。俺は普段バイク通勤だから電車でも会わないから会社にバレない」

 そう言われると悪くない気もする。
 でも林と一緒ってどうなんだろう。
 本当のこと言ってるなら、見るのはタダだし。

「見てみようかな」
「……明日は?」
「急すぎない?」
「だって俺このまま泊まるし。今出てったら目立つよ? 一緒に朝出ようぜ」

「寮長が怒ったし、何も言ってこないと思うけど。さすがにもうみんな寝てるんじゃないかな」
「あの歳の時は朝まで起きてた。心の中でフラれたとか早漏とか思われるのもいやだ」

「私は一緒に朝まで過ごすのがいや。一人でゆっくりしたい。ベッド狭いし。ここから5分なんでしょ? 帰ったほうがいいよ。そうだ」

 ふと思いついた。

「お気に入りの豆があるんだけど、コーヒー、飲んでいく? ちょっと手間だけどネルドリップで淹れてあげる。これだけ時間が経ってたら誰も早漏と思わないよ、多分」

「……朝飲む。絶対泊まるし、それがいやなら抱っこしてでもうちに連れていく」

 すこし怒ったような懇願するような顔。
 おかしくなって思わず笑い出した。
 あの林が早漏と思われるのが嫌で、疲れたからか帰りたがらないなんて。

「笑っていられるのも今のうち……俺は早漏じゃない」
「そうだね、元気だよね」

 今もなにか当たってる。離れようとするとくっついてきた。

「なみちゃん、つきあおう」
「いや無理」
「しばらく職場は秘密でいい。なみちゃんしか見ないし、証明する」

 体の相性はよかったのかもしれない。だけど。
 
「できもしないことを言うのはどうかと」
「本当に欲しいものを手に入れたら、ほかはいらなくなるんだ」

 この五年、林の噂は色々聞いてきた。
 女癖が悪いのって一生治らないんじゃない?
 ……やっぱり信じられるわけない。

「私は結婚したいし、誠実な相手と恋愛したい。私たちは長続きする関係じゃないと思う。……でも慰めてくれてありがとう?」
 
「……わかった。職場では今まで通りの同僚としてつき合う。だけどさ、今はもう少しなみちゃんの深いところに触れたい」

 いいよ、って答えてしまったのはよくなかったかもしれない。
 林はさっきと同じくらい丁寧に触れてきて、頭も身体もわけがわからなくなった。

 この先は君だけだ、そう何度も言われたけどさっぱりわからない。
 相手は来るもの拒まずの林だ。
 ベッドの上で甘い言葉も言えるんだなって、昔聞いたのとは違うから反省したのかも。

「なみちゃん、好きだよ」
「うん? ありがとう。私も好きかな」
 
 なんだかんだと同僚としては。
 女の子のあしらいは上手だろうから職場でもいつも通りの態度で接してくれるはず。
 月曜からも今までと変わらないはず。

「本当に好きだ」
「やっぱり林は林だね」

 そんなにサービスしなくてもいいのに。

「私じゃなかったら勘違いしちゃうよ」
「…………」
 
 その夜は林に後ろから抱きしめられて、お互いにシャワーを浴びる体力も残っていなくて、暑くて動けないのも不快に思ったのに、元カレのことを一度も思い出すことなくぐっすり眠りについた。










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 お読みいただきありがとうございます。
 とりあえず本編一旦完結としますが、続きの小話がきりのいいところまで書けましたら投稿したいと思います。
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