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2 お夜食を二人で
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私の部屋の窓が叩かれて、そのすぐ後に大きな籠を持ったルーが静かに入ってきた。
一気に部屋の中に美味しそうな匂いが広がる。
「サラ、夜食持ってきたよ。一緒に食べよう」
ルーの両親はカフェバーを営んでいて、日付けが変わる今の時間は、まだ賑わっていて。
幼い頃は、どちらかのベッドで一緒に眠ることも多くて、今だってこうして部屋の行き来をしているけど、こんな時間に部屋に入れるのはお父さんには内緒。
隣の部屋のお義姉さんは気づいているけど。
「ルー……私、もう寝ようとしてたの。……すごくいい匂いだけど、太っちゃうから、明日の朝でもいい?」
「だめだよ! だって僕、一生懸命用意したんだよ……だからいつもより遅くなっちゃったんだけど……」
しょんぼりして私を見てずるい。
一生懸命作ったとか。
すごくいい匂いのする作りたての料理にデザートとか。
好きな人が私のために用意してくれたもので。
でも、最近スカートがきついような気がするし、太りたくない。
「ルー、気持ちはすごく嬉しいよ。でも、私本当に最近……」
太ったの、っていう前に。
ルーが私をギュッて抱きしめる。
「お義兄さんのこと、好きになっちゃった……?」
「え?」
驚いて顔を上げると、ルーに見下ろされていることに気づいた。
また背が伸びたみたい。
それに、前はもっとひょろひょろしていたのに筋肉がついたのか男っぽく感じて。
意識したら心臓が跳ねて何も言えなくなった。
「サラ?」
名前を呼ばれてはっとする。
いつのまにこんなに声が低くなったんだろう。
なんだかすべてが恥ずかしい。
「ルー、ちょっとだけだよ? ルーも食べてね?」
腕から逃れるように身をよじる。
ルーってば、私のことは姉か妹くらいにしか思ってないんだろうな。
そうじゃなきゃ、こんなに簡単に抱きしめることなんてないと思うの。
ルーの好きは私の好きと違う気がする。
「うん! もちろん! サラが食べきれない分は僕が責任持つから。ほら、座って」
いそいそとテーブルに料理を並べ、私が座ると口元に柔らかく煮込んだ肉を差し出した。
「ありがとう……んっ」
自分で食べられるんだけど、っていつも思うんだけど、ルーが次々に私の口元に運ぶから、味わっている間にフォークを奪って彼の口へ放り込む。
「ありがと、サラ」
嬉しそうに笑って口を開けるから、フォークを奪い返されるまでどんどん食べさせる。
「おいしいよ、ルー」
二人で過ごすこの時間も幸せに思えるし、ルーを独り占めできて嬉しい。
だけど、やっぱり好きな人には可愛い女の子に思われたいから太りたくない。
「だって、サラのために作ったからね! もっと食べて健康的になろう」
「……十分健康的だと思うんだけど」
もしかして、もしかしてだけど。
「ルーから見て健康的な人って、クラスメイトで言ったら誰になるの?」
「うーん、そうだなぁ……。クラスメイトというより、ウラリー先生くらいが一番いいんじゃないかな!」
ウラリー先生はパンダ獣人で、ふくよかな女性だと思う。
おっとりしていて大好きな先生だけど、小麦の大袋分くらい太らないといけないということ?
「ルーは……私に先生みたいになってほしいの?」
「うん」
即答されて、好きな人の理想の女の人に近づきたいけど、太るのは嫌だと思う。
だって、お気に入りのワンピースが着れなくなるもの。
「とにかく今は痩せすぎだよ。もっといっぱい食べて、僕を安心させて」
「……安心って、ルーは私が太ったら安心するの?」
「もちろん。……だって今のままじゃ風が吹いたら飛んでいきそうだし、男達がジロジロ見るでしょ?」
んん?
何だかおかしなこと言われたみたい。
「ルー、私達、小さい頃から一緒にいるけど風に飛ばされそうになったことなんて……ほとんどないよ」
ハリネズミ姿の小さなルーのほうが、飛びそうだった、って心の中で思うけど気にしそうだから言わない。
それに。
「ジロジロ見られることなんてないけど」
「いーや! これが見てるんだ。サラは全然わかってない! とっても守ってあげたくなるんだ。男ならみんなそうだよ。俺がそう思うんだから間違いない。だから、太ってどっしり構えたほうがいいと思う!」
前半の言葉だけだったら、ちょっと嬉しく感じたかもしれない。
でも……。
「ルーは太った女の子が好きなの?」
「うーん、どうかな? 考えたことないや」
なによ、それ……。
意味がわからない。
でも、恋愛対象じゃないって言われたみたいで。
そう思ったら、涙がポロリとこぼれた。
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