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別のお話
ずっと手をつないでいて sweet version ①[R18改稿版]
しおりを挟む* 過去に別であげていた話のR 18版です。R18にした代わりに、山のない甘いだけの話に変わってます。本編とは雰囲気が違って、笑いなしのしっとりめ。全四話です。
******
ひっそりとした、小さな暮らし。
体の弱いお母様が眠っている間、私は庭に出て寝室に飾る花を摘む。
たくさん花が植えられているのはすべてお母様のため。
だって花が大好きだから。
「あなたは王女だから余計なことを話したり、行動してはいけないの。……それは身を滅ぼすのよ」
お母様は静かに言われた。
私はこの国の七番目のお姫様だけど、王妃様の子どもじゃないから目立ってはいけないんだって。
離宮と呼ばれるこの場所に、日替わりでやってくるのは侍女。
時々やってくるのは家庭教師の先生に、庭師。
月に一度国王である、お父様がやってくるけれど、静かに食事をして帰っていく。
みんな忙しそうだから、いつからか話しかけるのを止めてしまった。
だけど幼なじみのオーウェンとずっと一緒にいられるからいいの。
お母様以外に気兼ねなくおしゃべりができるのは彼だけだから。
彼は私が小さい頃から毎日のようにやってきて、時には泊まっていくくらい仲がいい。
私が離宮で産まれる少し前、王宮で第三王子ハーマンが産まれて、男児誕生に国中が喜びに包まれたらしい。
ハーマンにはオーウェンの次兄が仕えていて、オーウェンはゆくゆくは私だけの騎士になって、護ってくれるのだという。
一緒に勉強することもあるし、オーウェンが剣術を習っている時以外はたいていそばにいてくれる。
「ヘーゼル、そのまま動かないで」
私は彼に言われた通り、じっと待つ。
オーウェンが私の髪にそっと触れて、それから手の中の蝶を見せた。
「髪にとまってたの?」
「髪飾りみたいで可愛かったけど……今日はヘーゼルにリボンを持ってきたから、使って欲しい」
「本当? 嬉しい。じゃあ、すぐこの花を花瓶に生けるから、見せてくれる?」
「うん」
蝶はひらひらと飛んでいき、私はオーウェンの手をぎゅっと握って室内へ向かった。
初めてリボンを結んでもらったのは半年ほど前の、オーウェンの十一歳の誕生日。
私がハンカチに刺繍をしてプレゼントしたお返しに、綺麗な空色のリボンをくれた。
『オーウェン、結んでみて』
私より一つ年上の彼は、何でもできると思っていたからそう言った。
戸惑いながら髪に巻きつけて蝶々結びにしてくれたけど、不格好に曲がってぽとりと床に落ちた。
でも私は嬉しかったからそのまま大事に飾って眺めていたの。
恥ずかしいからあれは飾らないでくれと言われて、代わりに毎日つけることにしたら、にっこり笑って喜んでくれた。
彼がしてくれることは何でも嬉しい。
あの誕生日の夜、当たり前のように私は言った。
『今日も一緒に寝てくれる?』
『……うん、……でも、父様に次の誕生日までだって言われた』
ちょっと困ったように眉毛を下げる。
『……そう、なの……?』
『もうすぐ二人とも大人になるからダメだって』
『……じゃあ、今のうちにいっぱい泊まりに来て。……オーウェン』
『……うん……わかった』
そう言ったけど、オーウェンが泊まることは少なくなっていった。
大人になるって寂しい。
だから一緒にいられる間は近くにいたい。
「……結んでいい?」
「うん、お願い」
オーウェンは、一度も切っていない榛色の私の髪を指で軽くすいて、ゆるく編んでいく。
紐でくくってからリボンを結んで、私が見えるように胸の前に髪をのせた。
この結い方もリボンの結び方も、オーウェンの乳母に特訓してもらったらしい。
「この色、なんていうかわからないけどヘーゼルに似合うと思って選んだんだ」
桃色というには淡く、乳白色というほど白くもない。
「ありがとう。うれしい……すごくきれい」
「よかった」
オーウェンが嬉しそうに笑うから私も嬉しくなる。
「今日はヘーゼルの誕生日だから泊まっていいって言われた」
「本当? すごく嬉しい! このリボン、誕生日プレゼントだったんだね!」
「違うよ! こっちが本当のプレゼント!」
小さな箱の中には持ち手のついた小さな鏡。
背面に綺麗な花の絵がたくさん描かれている。
鏡を使わない時もこの絵を眺めてしまいそう。
お母様もお花が好きだけど、私だって大好きだから。
「きれい……! オーウェン、ありがとう! 大切にするね」
ぎゅっと胸に抱きしめて、オーウェンを見つめた。
「……うん、よかった」
少し照れたように笑うから、胸がぽかぽかして温かくなる。
こういう時、オーウェンは私にとって特別だと、思う。
今夜はいつもより体調がいいと言ってお母様とオーウェンと私の三人で夕食をとった。
お母様は私とオーウェンが話す様子をニコニコして見ている。
「二人が仲良くしていて嬉しいわ。……ヘーゼル、誕生日おめでとう。あなたの母親になれて幸せよ」
お母様からおばあ様にもらって大事にしていたネックレスを渡された。
「幸運のお守りだから、いつでも身につけるといいわ。ヘーゼルも、娘が生まれたら渡してあげてね。息子だったらお嫁さんに、ね」
私を見た後、お母様はオーウェンに笑いかけた。
彼はきょとんとした顔をした後、いきなり赤くなって何度も頷いていたから、なんだかおかしくなって私は笑った。
その日の夜、久しぶりに一緒の寝台に上がった私は嬉しくてたまらない。
「オーウェン……音、聞かせて」
彼が返事をする前にその胸に耳をくっつけた。
「ヘーゼル……今の。びっくりしたから、……音速いかも?」
「うん、少し。……でもこの音落ち着くの。毎日この音を聞いて眠りたいのにな」
少し早めの規則正しいリズムが心地いい。
それと、お母様みたいに柔らかくないけれどあったかいのも落ち着くの。
「…………あと、半年は泊まりに来れるよ」
「うん。……寂しいな」
ぎゅっと抱きつくと、オーウェンも背中に腕を回してぎゅうっと抱きしめてくる。
「うん。俺も」
「ずっと一緒にいたいな」
「うん。好きだよ、ヘーゼル」
「私も大好き。……おやすみオーウェン」
今朝はいつもより背中があったかいと思ったら、オーウェンと背中合わせに眠っていたらしい。
私はくるりと振り返って、のぞき込んだ。
ぐっすり眠っているから、静かに寝台を降りて隣の部屋をのぞく。
「姫様、おはようございます。朝食をご用意いたしますか?」
「うん。今朝はパンケーキなのよね? クリーム多めにしてもらえる? それとテラスの方にお願い」
私は身支度を整えてから寝室に戻った。
さっきとまったく同じ姿勢でオーウェンが眠っているから、ついついいたずら心で彼に飛び乗る。
「オーウェン、おはよう! 起きて!」
ぎゅーっと布団の上からしがみつくと、ぼんやり見つめてくる。
「……心臓、止まるかと思った…………おはよう、ヘーゼル」
「オーウェンは相変わらず朝が弱いのね。騎士になったら朝早いんでしょ? 大丈夫?」
「……いつもはちゃんと早起きできてる。多分……ここは静かだしヘーゼルが温かいし、いい匂いするからぐっすり眠れたんだと思う」
「私もオーウェンと一緒だとぐっすり眠れる。だけどちょっと違うのは、朝すっきり目が覚めるの。なんでだろうね?」
起き上がって、首をかしげる。
「今朝はパンケーキだから。もう一度眠らないで。支度してテラスに来てね」
「わかった、ありがとう」
まだ少し朝はひんやりするけれど、空気が澄んで気持ちいい。
「おいしそうだな……待っていてくれてありがとう」
「いっぱい食べてね」
パンケーキのために別添えでクリームやフルーツもあるけれど、オーウェンの為にソーセージやベーコン、オムレツもある。
「誕生日の翌日だから?」
「オーウェンが泊まったからお願いしたの」
「……ありがとう」
「うん。だからね、また泊まりに来てね」
「……うん」
オーウェンが照れたように笑うから私は変なの、と思う。
私にとってオーウェンのために何かすることは当たり前のことなのに。
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