ヒロインのはずなのに、王子様が迎えに来ません!

能登原あめ

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「シンシア、向こうから黄色のドレスを持ってきて。お揃いのボンネットもね」
「はい、エイミーおねえ様」

「シンシア、この間の赤のドレスに黒いレースを足してって言っておいたじゃない。仕事が遅いわ」
「ごめんなさい、メグおねえ様。ピンクのレースを外すのに時間がかかってしまって」

 社交界にデビューした異母姉たちは今夜も新しい出会いのために私を小間使いのようにあつかう。

 異母姉たちの持参金をこれ以上減らさないために、ここ2年はドレスをリメイクしているからかなり腕前は上がった気がする。
 
「もう! 気が利かないわね……それなら緑のドレスにするわ。アイロンはかけてあるのでしょうね?」
「はい。すぐに持ってきます!」

「次は私の髪を整えて!」
「はい! エイミーおねえ様」

 肌や髪の手入れも屋敷の中で1番上手かもしれない。斬新なのに効果アリって言われている。だけど朝から晩まで働き詰めで全然休めない。

 男爵がメイドだった母に手をつけて私が生まれたから、異母姉たちとは立場が違う。一応娘と認めてもらえているけれど、幼い頃から小間使いと変わらない生活。
 
 男爵には無視されているし、男爵夫人から嫌味を言われることも多いけど、もう慣れた。

 使用人と同じご飯を食べて、使用人と同じ屋根裏の部屋で眠った。母は3年前に亡くなってしまってさびしいけど、屋根裏には小鳥たちが遊びに来てかわいい姿でなぐさめてくれる。

「……おねえ様、とてもお綺麗です。……いってらっしゃいませ」
「当然よ! あとで夜会のロマンスを聞かせてあげるわ」
「……楽しみに待っています」
 
 男爵家の力もないし、クジャクみたいに派手な姿で目立とうとしているけど、夜会でどう映っているのか知らない。
 なんちゃら伯爵に見つめられた、だのなんちゃら侯爵夫人に個性的と褒められたって嬉しそうに毎回言う。
 
 だけどわがままで意地悪な性格が透けて見えるからか、それぞれ18歳と19歳になるのに2人とも結婚相手が見つからない。
 夜会での出会いは諦めてお見合いすればいいのに。
 

 でもこんな日々ももうすぐ終わる。
 だって私はヒロインだもの!
 ストロベリーブロンドに小さな顔に大きな目はスカイブルー。
 華奢な手足と、何もしなくても太らない体!
 
 使用人あつかいの薄幸の美少女で、男爵令嬢。
 意地悪な姉は2人、屋根裏に小鳥たち(ネズミは勘弁)、0時に魔法のとけるあの女の子みたい!
 
 名前はシンシア。あのお話と似た名前!
 しかも来月から特待生として貴族ばかりの学園に入学する。3年間はどきどきの寮生活。
 男爵からは持参金なしで嫁げる金持ちの貴族を捕まえるか、侍女兼家庭教師の2択と言われた。

「これあれだわ、乙女ゲームでしょ。あるある設定だもん」

 これまでの辛い日々を我慢できたのは、前世の記憶のおかげ。
 ブラックな職場でパワハラ、モラハラ、スメハラ、アルハラ……いろんな目に遭ってきたから今の環境はぬるいくらい。
 
 なんで転生しているのかは、確実に過労。
 家族が裁判起こして会社からたくさんお金をぶんどっていたらいいんだけど!
 
 シスコンの兄は腹黒だし何もしないはずがない。
 見た目ゆるふわの妹はSNSをうまく利用してハラスメント社員の良心を刺激して追いつめそうし、がめつい両親の老後が心配ないくらいのお金は手に入れたはず!
 みんなごめんね、でも。

「7歳の時に出会った王子様と、きっと学園で会えるから! 私、この世界で幸せになるよ!」

 
 男爵家の領地の隣には由緒正しい伯爵領があって、とても高貴なお方が療養に来ていたらしい。
 私は領地の境にある野いちごをつみに、こっそり、何度も足を運んでいた。
 
 質素な食事にデザートや菓子なんてなかったから、母から教えてもらった時は嬉しくて嬉しくて。
 男爵家じゃ野いちごは雑草あつかいだったから、たくさんつんで使用人たちにも分けた。
 みんなクタクタだったから喜んでもらえたし、円滑な人間関係成立! 食べ物大事!
 
『あなたは誰?』

 そこで出会った男の子は、歳は同じくらいだけど質のいい、高そうな服を着ていた。
 
『私はシンシア。あなたも食べる?』
『……いらない。ここで僕と会ったことは内緒にしてほしい』

 隣の領地には普段は老夫婦の管理人しか住んでいないから、この子が高貴なお方の1人かもってピンときた。この頃は半分くらい前世を思い出していたから、チグハグな子どもだったと思う。
 
『うん、わかった。あなたも私がここにいたことを内緒にしてくれる?』
「いいよ、約束。お互いの秘密を守ろう、絶対だよ」
「うん!」

 その夏は、時々顔を合わせて秋には仲良くなった。
 淡い金髪に海のように深い青い瞳。
 名前はリー。

 冬になるともう現れなくなって、それから今まで会っていない。
 顔の細かなところはもうぼんやりとしか覚えてないけど、スイートスプリング王国の病弱な第二王子ダグラス・リー・ヘップワースとしか考えられなかった。
 リーだし。スイートスプリング王国だし。

 ぜっったい、これが出会いイベントだ。
 私たちは初恋同士のはず。
 王道の王子様ルートに間違いない!

 「でも……このゲームって一体なんだろう?」
 




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