二十九の星 -後漢光武帝戦記-

真崎 雅樹

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第八章 新たな単于

第四十九話

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 烏珠留うしゅりゅう単于ぜんう、名は嚢知牙斯のうちがしは、匈奴フンヌ単于国が東西に分かれて内戦を繰り広げていた時代に生まれた。同時代に生まれた匈奴人の多くと同じく、親類を含む大勢の匈奴人を敵として殺した。敵を殺す過程で仲間を失い、若くして歴戦の猛者のように数多の傷を顔に刻んだ。内戦が終結した後は、和親のためにかん帝国から単于国へ来た王昭君おうしょうくんに恋をした。兄が王昭君を娶ると聞いた時は、兄を殺して王昭君を攫い、千の都市のバクトリアまで逃げようかと本気で考えた。単于に即位した後は、単于国の存続に努めた。帝国との和親に心を砕く一方、帝国からの領土割譲要求を粘り強い交渉で切り抜けた。そして、漢帝国の後継であるしん帝国に戦いを挑み、戦いの終わりを見る前に死んだ。烏珠留単于の遺体は、金と共に在る山アルタイを彼方に見る草原の丘に埋葬され、匈奴の男たちは顔を、女たちは髪を切り、黄昏の時代を生きた単于に弔意を示した。

 烏珠留単于が埋葬されてから数日後、早くも単于位を巡る権力闘争が勃発した。烏珠留単于には数人の子がおり、その内の一人を烏珠留単于は後継者に定めていたが、匈奴単于国の四総督、左屠耆さしょき王、右屠耆うしょき王、左谷蠡さこくり王、右谷蠡うこくり王が故人の決定に異を唱えた。烏珠留単于が定めた後継者は若く、帝国との戦争を指導する能力に不安があることから、別の単于位継承候補者、具体的には烏珠留単于の弟か従弟に単于位を継承させることを主張した。四総督の主張に烏珠留単于の側近らは反発し、烏珠留単于の后を中心に結束して四総督の排除を図るも、単于の最側近であるはずの左骨都さこつと侯と右骨都うこつと侯は同調せず、逆に四総督の主張を公然と支持した。左右骨都侯が四総督側では勝算は無い、と烏珠留単于の側近らは諦めた。烏珠留単于の后だけが諦めず、各地の有力者に支援を求めたが、ある日、急に血を吐いて倒れた。辛うじて一命を取り留めた后を、烏珠留単于の父、呼韓邪こかんや単于の后が説得した。あくまで四総督を排除しようとするならば、おまえだけでなく、おまえの子供たちも毒を盛られるだろう、と言われ、ついに烏珠留単于の后は折れた。

 四総督と左右骨都侯は結託して故人の決定を覆したが、そこから先は意見が割れた。単于の首席補佐官である左骨都侯は、複数の候補者の中から、四総督の筆頭である左屠耆王を単于に推した。しかし、単于の次席補佐官である右骨都侯須卜当しゅぼくとうは、左屠耆王が既に高齢であることから難色を示し、右屠耆王輿を推した。残る四総督の内、左谷蠡王は左屠耆王と左骨都侯に、右谷蠡王は右屠耆王と右骨都侯に与し、俄かに匈奴単于国の有力者たちは二派に分かれた。

 夏、匈奴単于国の聖樹蘢城ろうじょうの前で、例年より遅れて蘢城祭が催された。蘢城祭の前日、次の単于を決めるための最後の話し合いが、聖樹の前で行われた。単于国の各地から多数の穹廬きゅうろが参集し、市街の観を成した穹廬群の中を大勢の人馬が往来した。往来する人馬の中には、漢帝国の高祖こうそ劉邦りゅうほうの末裔を自称する盧芳ろほうがいた。今年の蘢城祭は空気がぴりぴりしている、と盧芳は顔を顰めて馬を進めていたが、穹廬の陰で読書に勤しんでいる友人を見つけ、表情を緩めて声をかけた。

「よう、賈覧からん。また孫子そんしを読んでいるのか?」

「孫子ではありません」

 馬を寄せてきた盧芳に、賈覧は簡冊から目を上げずに答えた。

「去年の秋、単于が帝国の城塞を攻略された時に、城塞の一室で見つけました。三略さんりゃく、というものらしいです」

「聞いたことがないな。それも兵書の類か?」

「そのようです」

「熱心だな。世間で話題の単于位争いも、眼中に無しか」

「誰が単于になろうと、僕は王の無念を晴らすことに努めるだけです。それと――」

 じろ、と賈覧は横目で盧芳を見た。

「――文字を幾つか教えてくれたことは感謝しています。しかし、あなたは漢人であり、漢人は僕の敵です。まるで友のように、気安く話しかけられては迷惑――」

「お」

 十数騎を率いて馬を進める右骨都侯の姿を、盧芳は穹廬の列の向こうに見つけた。

「須卜当だ。あいつもぴりぴりしてるな。当然か。話し合いのはずが殺し合いになる、なんてよく聞く話だ」

「右骨都侯は――」

 話を聞かない人だ、と小さく息を吐きながら、賈覧は盧芳が見ている方へ目を向けた。

「――右屠耆王を、単于にしようとしているのですよね」

「何だ、おまえも実は興味津々か」

「彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず。この国の内情をよく知らなければ、必勝は望めません」

「真面目だな。ま、そうだな。須卜当の妻は、右屠耆王と母が同じだからな。右屠耆王が単于になれば、これまで以上に単于との関係が深くなり、より強大な一族になれる、というのが匈奴の名族、須卜氏の総意だ」

「総意、ですか。まるで当の右骨都侯は、右屠耆王が単于になることを、望んではいないかのような」

「あいつは輿の短所を知り尽くしているし、権力に惹かれてもいないからな。一族の総意でなければ、危険を冒してまで右屠耆王を担いだりはしない」

「右屠耆王はどうなのですか? その気も無いのに担がれるような人とは思えませんが」

「あいつは冒頓ぼくとつ単于の子孫で、しかも、王昭君の子だ。当然、単于になりたいだろうよ」

「なぜ、冒頓単于の子孫で王昭君の子だと、単于になりたいのですか?」

「そういうものだからだ」

「そういうもの、ですか」

 解らない、という顔を賈覧はした。盧芳が苦笑し、おまえもいつか解るようになる、と言おうとした時、盧芳と賈覧の横を数騎が通りすぎた。通りすぎる瞬間に一騎が盧芳を一瞥し、漢人を侮辱する言葉を吐き捨てた。嗚呼、今日も空が美しいことよ、というような顔を盧芳はした。歩み去る数騎の背中を賈覧は見た。

「右屠耆王は、あのような者たちから熱烈に支持されているとも聞きました」

「あいつは言動が荒々しいし、漢人を見下してもいるからな。それを頼もしい、痛快だと感じる匈奴人は、それなりにいる。おまえも、その一人なんじゃないのか?」

「僕は――」

 賈覧は三略へ目を戻した。

「――生粋の匈奴人ではありませんから」

 聖樹の枝葉から漏れる陽光を、夏の風が揺らした。右骨都侯須卜当が到着し、次の単于を決める話し合いが始められた。四総督の筆頭である左屠耆王こそ単于に相応しい、と左骨都侯が改めて主張し、若くて闘志に溢れた右屠耆王輿を単于に選ぶべきである、と右骨都侯須卜当が持論を繰り返した。順序でいえば左屠耆王が単于になるべきであろう、と左谷蠡王が言い、順序というなら烏珠留単于の生前の指名こそ優先されるべきではないか、と右谷蠡王が左谷蠡王の矛盾を指摘した。その場には酒食が用意されていたが、皆、毒殺されることを警戒して飲食を控えた。唯一、烏珠留単于の父、呼韓邪単于の后の老婆だけが、老いても健啖であることを周囲に見せつけた。后の子や孫たちが心配したが、この歳になると死ぬことが怖くないのだ、と后は笑い、食べないなら貰うよ、と孫たちの肉や酒にも手を伸ばした。形だけ出席している后を後目に、左屠耆王派と右屠耆王派の論戦は白熱し、右屠耆王派の若い族長が、高句麗の戦いで新軍に敗れた左屠耆王に単于が務まるものか、と言い、左屠耆王派の高級武官が、右屠耆王も新軍に捕らえられたではないか、と言い返した。右屠耆王輿が王昭君の子、すなわち敵国人である漢人の子であることを問題視する発言も飛び出した。輿が激昂して弓を掴みかけた時、今の言葉を取り消せ、と右屠耆王派の族長たちが喚いた。右屠耆王は勇猛で誇り高い匈奴の戦士だ、と左屠耆王側へ詰め寄ろうとした者たちを、落ち着け、と須卜当が押し止めた。

 太陽が聖樹の上を過ぎ、影が東へ伸びた。話し合いの様子を穹廬の屋根の上から見物していた盧芳が、太陽を振り仰いだ。

「まずいな」

「何がです?」

 屋根を壊さないでくださいよ、とだけ言い、以後は穹廬の陰で読書に没頭していた賈覧が、盧芳の声に反応した。盧芳は賈覧を見下ろした。

「話し合いの決着がつく前に、陽が落ちてしまいそうだ。これは、血が流れるな」

「左右の屠耆王の内、どちらか一方が暗殺されるということですか?」

「暗殺で済めばよいが、市街戦になるかもな」

「市街戦?」

「市街戦という表現は変だが、おれの言いたいことは解るだろう?」

「それは、解りますが」

 賈覧は簡冊を閉じた。聖樹を囲む穹廬群の別の場所では、女たちが世間話を交えながら明日の祭事の準備をしていた。女たちの一人が、祭事で披露する胡琴ウードの絃を調えながら、左屠耆王と右屠耆王、どちらが単于に即位すると思うか、周りの女たちに訊ねた。女たちの意見は分かれたが、どちらが単于になろうと大して変わらない、と考えている点は共通していた。どちらが単于になろうと戦争は続く。無論、匈奴人であるからには戦争を恐れはしない。敵の城塞を幾つも破壊し、輝かしい勝利を重ねていると聞けば、疲れた体にも力が湧く。それでも、前年の冬の寒さは身に応えた。負けたように人が死に、家畜も大きく数を減らし、烏珠留単于さえも命を落とした。震えながら春を待つ自分は、強く勇ましい匈奴人ではないように思えた。女たちの一人が、わたしたちは次の冬を越えられるだろうか、と弱音を口にした。この戦争に勝てるのだろうか、と口にしてはならない言葉を口にしかけた。女たちの近くでは、子供たちが狼の幼獣と遊んでいた。明日、祭宴で饗される運命とは知らず、無邪気に子供たちの背中を追いかけていた狼の幼獣が、不意に何かに怯えたように尾を丸め、穹廬の車輪の陰に隠れた。子供たちは車輪の陰を覗き込んだ。子供たちの背後の地面を、まず猛禽の鉤爪が、次いで馬の蹄が通りすぎた。

 左屠耆王こそ、と叫ぶ声が空に響いた。間髪を入れず、右屠耆王だ、と拳が地を乱打した。怒号が飛び交う中、左屠耆王が左骨都侯に、右屠耆王が右骨都侯に、それぞれ目配せした。双方が暗殺の機を窺う間も、鉤爪と蹄は草を踏んで前へ進み続けた。

うん

 半鷲半馬の鷲馬ヒポグリフに盧芳が気づいた。鷲馬は背に云を乗せ、聖樹の方へ進んでいた。まずい、と盧芳は血相を変え、転げ落ちるように穹廬の屋根を下りた。躓きながら馬に乗り、鷲馬を追いかけた。云、云、と馬上で何度も云を呼んだ。

「云、行くな、危険だ」

「盧君期くんき

 黒髪を風に靡かせながら、云が盧芳の方を顧みた。盧芳は鷲馬に追いつき、鷲馬の横に馬を並べた。

「云、やめろ。あいつらを心配する気持ちはわかるが、あいつらは匈奴でも指折りの戦士だ。そう簡単に殺されはしない。それでも心配だというなら、おれが行く。だから――」

「盧君期」

 微笑みながら、云は前を向いた。

「ありがとう、心配してくれて。でも、わたしは行きます」

「云」

「やらなければいけないことが、あるのです」

 聖樹を囲む穹廬群を抜け、云と盧芳の前が広く開けた。風と共に草原を進む鷲馬に右屠耆王輿が気づいた。同じく鷲馬と云に気づいた右骨都侯須卜当が、この場から云を遠ざけるよう周りに命じた。数騎が云の許へ駆けつけ、鷲馬の前を塞いだ。危険だから引き返すよう云に求めた。説得を続けていた盧芳が、戻ろう、と云の腕を掴んだ。

 空を裂くような声で、鷲馬が吼えた。鷲馬の前を塞いでいた馬たちが驚き、背に乗せていた戦士たちを振り落として逃走した。云を連れ戻そうとしていた盧芳も落馬した。左屠耆王だ、と騒ぐ声も、右屠耆王だ、と喚く声も、雷に打たれたように止んだ。風の音だけが聞こえる草原を、鷲獅子グリフィンと馬の混血獣は悠然と進んだ。無人の野を歩くように、左骨都侯、右骨都侯、左屠耆王、右屠耆王の前を過ぎる鷲馬を、周辺の穹廬の陰から多くの牧民が覗き見た。鷲馬は聖樹の前に到ると、左屠耆王、右屠耆王らの方へ体を向き直らせた。

「お集りの皆さま」

 鷲馬の背の上で、云が声を朗と響かせた。

「わたしは、復株累ふくしゅるい単于の子、須卜居次きょじ云です。今日は皆さまに伝えたいことがあり、推参いたしました」

 これは何の見世物だ、と左骨都侯が須卜当に目で質した。須卜当は首を横に振り、自分も知らないと左骨都侯へ伝えた。何をする気なんだ、と輿が呻くように呟いた。同じ言葉を盧芳も口にした。

「皆さまは、匈奴の歴代の単于の中で、誰が最も偉大な単于だと思われるでしょうか」

 冒頓単于、と馬上で答える賈覧の声を盧芳は背後に聞いた。そうだな、と盧芳は同意した。輿と須卜当の周りでも、冒頓単于、と答える声が相次ぎ、穹廬の陰から様子を見ていた牧民たちも、冒頓単于、と身を乗り出して声を連ねた。云は頷き、冒頓単于を讃えた。月氏サカを退け、漢帝国を退け、匈奴単于国を大ならしめた武勇を称賛した。冒頓単于を崇拝する匈奴人たちは大いに喜んだ。

「また、冒頓単于は智略の人でもありました。東胡とうこが――」

 東胡、とは二百年前に匈奴単于国の東隣に割拠していた遊牧民族である。

「――匈奴に良馬を要求してきた時、冒頓単于は自らの愛馬を東胡に与えました。美女を求めてきた時は、自らの妻を差し出しました。そのようにして時を稼ぐ間に、軟弱な匈奴軍を鉄の如き軍団に鍛え上げ、東胡を攻め滅ぼして国を拡げ、月氏や漢と戦う力を蓄えました」

 さすがは冒頓単于だ、と讃える声が辺りに溢れた。周囲が沸き立つ中で、輿と須卜当は複雑な表情をした。かつて云を漢帝国へ人質として差し出した時の記憶が、冒頓単于を無邪気に讃えることを二人に躊躇わせた。

「しかし、今の匈奴軍は、冒頓単于の頃のような鉄の如き軍団でしょうか」

 烏珠留単于が大新帝国と戦争を始めてから、既に四年以上が過ぎていることに云は触れた。四年の間に大勢の戦士が名誉の戦死を遂げたことに触れた。失われた兵力を補充するために、戦士としては未熟な若者が軍に加えられていることに触れた。

「そして、新しく軍に加えられた戦士に与えられる武器が、これです」

 一本の矢を、云は眼前に掲げた。矢の鏃は鉄ではなく、白い骨で出来ていた。

「今はまだ、戦士たちは鉄の鏃の矢で、帝国と戦えています。しかし、五年後、いや、三年後には、骨の鏃の矢で戦うことになるでしょう。百戦錬磨の戦士でさえ、このような武器では苦戦を免れません。ましてや、訓練も経験も足りていない若い戦士が、こんな武器で帝国の兵士と戦えば、強い戦士へと成長する前に命を落とすことは明白です。若い戦士が命を落とせば、更に若く未熟な戦士が軍に補充されます。改めて、わたしは皆さまに問います。今の匈奴軍は、冒頓単于の頃のような、鉄の如き軍団でしょうか。今より後も匈奴軍は、帝国の大軍にも負けない精鋭でいられるでしょうか」

 問われた者たちは返答に窮した。輿も、須卜当も、左屠耆王も、左骨都侯も、数多の牧民たちも、目を逸らして沈黙した。沈黙の時間が十秒、二十秒と過ぎた。下を向いていた須卜当が、ならば、と声を上げた。地を叩くように立ち上がり、責めるような声で云に問い返した。

「居次は、如何にせよと言うのか。確かに、匈奴軍は鉄の如くあらねばならない。鉄であらねば、匈奴は帝国に勝てない。今の匈奴軍は、鉄ではないかも知れない。仮に鉄ではないとして、匈奴軍を鉄にする策が、居次にはあるのか」

「あります」

「では、その策とは?」

「帝国と講和することです」

「こ――」

 講和、という言葉を発することを、須卜当の喉が反射的に拒んだ。輿の周り、左屠耆王の周りで騒めきが生じた。云は更に声を張り上げた。

「今一度、冒頓単于の智略を思い出してください。冒頓単于は、馬を要求された時は自らの愛馬を、美女を要求された時は自らの妻を差し出し、軍を強くするための時を稼ぎました。この冒頓単于の智略に倣い、時を稼ぐのです。帝国と講和して時を稼ぎ、足りない鉄を蓄え、若く未熟な戦士たちを鍛えるのです」

 まじかよ、と盧芳が呟いた。穹廬と穹廬の間でも、驚いたような、或いは困惑したような声が交わされた。云は輿と左屠耆王の方へ目を向けた。

「そこにおられる左屠耆王は、偉大な戦士です。右屠耆王も、勇猛な戦士です。しかし、今、匈奴に必要な単于は、帝国と講和できる単于です。偉大な単于でも、勇猛な単于でもなく、帝国と講和できる単于を、わたしたちは選ぶべきです。平和こそが、匈奴を鉄にするのです」

「講和など出来るか」

 怒号と共に、輿の拳が大地を叩いた。それまでに云に集中していた視線が、一斉に輿の方を向いた。輿は立ち上がり、前へ進み出た。動揺している数百、数千の目に対し、火のように声を噴き上げた。

「今、我らの側から帝国に和を求めれば、帝国は必ず、新の匈奴、と刻まれた金印を受け取ることを、単于に要求するだろう。新の匈奴、新の匈奴、新の匈奴、新の匈奴。猛き戦士の国である匈奴単于国が、新の属国になることを強いられるのだ。この空も、草原も、大いなる湖バイカル・ノールも、金と共に在る山も、そこに生きる民の一人、獣の一匹、草の一本に至るまで、全て帝国のものになるのだ。それでも――」

 輿は云の方を振り向いた。

「それでも、云、おまえは帝国と講和せよと言うのか。皇帝に屈服し、帝国の属国に成り下がれと言うのか。誇り高き戦士であるべき単于に、誇りを棄てろと言うのか」

「右屠耆王、あなたには出来ますまい。あなたも、左屠耆王も、匈奴のために死ぬことは出来ても、誇りを棄てることは出来ますまい。しかし、この匈奴には一人だけ、それが出来る人がいる」

「それは誰だ、どこにいる」

「ここにいるぞ」
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