魔女は甘い果実に囚われて。

mari

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魔女は酷く甘い果実を欲する。

2

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ー私と彼の関係に名前はない。

だって、私は魔女なのだから。


    *******


  ヴィオライドが家に来てから数時間。

「・・・っ、」

仕事を早く進めないといけない私はせっせと手をうごかす。

ービクッ

「んっ」

薬草を潰して、混ぜて。

これまで失敗は1度もない。でも、これから失敗しそうで仕方ない気持ちで作業をする。

真剣にしないといけないのに、拒めないせいで今も体をくすぐるそれに翻弄される。

声が出てしまって仕方が無い。

「あっ、、」


・・っ、、


「ヴィオっ!仕事の邪魔をしないでっ、、」

私がこらえきれず、そう言うと

「邪魔にはなってないでしょ?それに、」

「・・、、!」

(耳っ舐められてる!!)

多分、私の顔はもう真っ赤に染まってるのだろう。

「フッ、、可愛い。。」

性懲りもなく耳元でそう囁く彼の顔は背中側にあるせいで私からは見えない。

でも、おそらく彼は今

「ねぇ、早く終わらせてよ。」

そうしないと

ーいたずら、ひどくなっちゃうかも、、


「・・なぁ?」

フッと風が首元にかかる。


ー絶対、楽しそうに微笑んでいるのだろう。


あの綺麗な顔で、妖艶に、美麗に。


けして今その顔を見てはいけない。

そのことをわかっているの。

なのに、、

「まだ、終わってないのに、、」


かまってほしそうな彼。

子犬というような感じではないし、ただただ甘すぎるだけの彼。

(あぁ、、今日は徹夜かなぁ)


「ーソニア...?」


「ー少しだけ、、だからね?」


「っ、ーあぁ。わかった。」

本当に嬉しそうな笑顔を浮かべる彼。

まったく、、

ー彼が来る時間は仕事ができない。

今に始まったことではないから、もう諦めることにしよう。

彼の相手ができないと思ったことが間違いだったのだ。

「ソニア。今日はのんびりしよう。」

(いつもしてるじゃない、、)

「じゃあ、失礼してっと」

彼は抱きついていた私をはなし、私を近くのソファに座らせる。

この時、お姫様抱っこで運ばれるのは諦めた。

「はいはい。」

私の膝の上に頭をのせ、ソファに寝転がるヴィオライド。

その長い足がソファからはみ出ているが仕方の無いことだと諦める。

「ソニア。」

突然名前を呼んだかと思えば、彼は私の頭を引き寄せて、

「・・っん、。」

ー一瞬、息が止まったように感じた。

いつもしてるのに、いつまでもそれになれない私。

私と彼のこの行為は、なんの意味もないただの挨拶。

そうわかっているけれど、それでも無理なのだ。

「・・ソニア。おやすみ。」


彼は私の髪をサラリと撫でると瞼を閉じる。

サラサラとした彼の髪を撫でながら寝ている彼の寝息をききながら時間が立つうちに私も寝ている。

それが、いつもの私たちの日常。

彼は甘えん坊だ。

昔からうちに来ては私のそばにくっつきたがる。

彼に会いに行く事はできない私に彼はいつも会いにきてくれる。

ーいつまでもこの生活が続くことを願いたいと思う反面、そんなのできるわけないとわかる頭と心の差が私を苦しめる。

だから、私は彼を拒めない。

ー彼と私は恋人ではない。

しかし、友達ともいう事もできない。

それは、彼が彼で、彼であるからだ。

昔から、私達はよく一緒にいた。

彼が毎日のように私に会いに来ていたからだ。

今こそ昔のようには行かないけれど、週に3回は必ず会いに来てくれる。

私は彼に会いに行く事はできないから。

この生活がいつまで続くかは、神しか知らない。

いつか終わることをわかっている。

長く続いて欲しいと思う。
 
だからこそ、この離れるかもしれない苦しみから早く開放されたくて、その日がすぐに来て欲しいとすら思ってしまうほどに。

私は彼のそばにいたい。

まぁ、彼の行動は甘すぎて、恥ずかしいからいつもつい言葉では反発しちゃうんだけど。

私はいつも思うのだ。

「ねぇ、ヴィオ。私たち、いつまで一緒にいれるんだろうね?」


聞こえるのは、彼の気持ちよさそうな寝息。

この家は森のなかにひっそりと隠れてある屋敷だ。

私は魔女。薬や毒の扱いに長けたもの。

時々くる街からの依頼を受けて、こなして、生活している。

貧乏ではないが、裕福でもなく。

彼が本当ならいていい空間でなんて、けしてないのだ。

「、、」

部屋には彼が土産に持ってきてくれた香炉の香りが漂っている。

(あぁ、、なんだろう。)

すごく、眠い。寝てないからだろうか。

ーどうせだ。少し、眠ることにしようかな。

どうせ彼が起きるまでは仕事もできないのだし。

そうして瞼を閉じる。

彼の顔を見ながら目を閉じる。

こうすれば最後に目に写るのは彼の顔。

(今日は、いい夢、見れそう、、か、な、、)

つい、笑みがもれる。

そして私は、次第に眠りの世界へと落ちていった。




ー私と彼の関係に名前はない。


だって。

 
 彼は、王子様なのだから。





   *******


魔女は欲した。

すぐ近くにあるように見えるそれを本気で欲しいと願った。

それが、決して手に入る事はないとわかっていながら。





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