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第1章
第201話 婚約者×婚約者×婚約者
しおりを挟む「無愛想だし、口調はおっさんだし、なんでも自分中心に考えちゃうし・・女の子に何の配慮も出来ないし、それはもう、あんた達は辛い思いをいっぱいしていると思う。誠に申し訳なかった! どうか、この年寄りを哀れと思って、水に流してやってくれないだろうか? この通りだ!」
アンナが大きな体を縮め、喫茶店の床に両手両膝を着いて頭を下げた。
「ちょっ・・ボス?」
「助けて・・ボス?」
ユアとユナが慌ててシュンの袖を引く。
「良いんだ。こんな老婆だ。いくら罵ってくれて構わない! 日頃、胸にたまってることを全部ぶちまけてくれて良い! だから、どうか・・この通りだ。シュンの嫁になっておくれ!」
アンナが、ユアとユナを見上げて懇願した。
「そりゃぁ、この子は人間としては半人前だろう。女の気持ちどころか、人の気持ちだって分からないような奴さ。でもね? 甲斐性だけはあるんだよ? 猟師としては一流だ。それについては保証するよ? この子と一緒なら、何があっても食いっぱぐれることは無い。食えるってことは大事なことなんだよ?」
「ええと・・」
「聞いて下さい?」
ユアとユナが控えめに声を掛けようとする。
「あたしはね。この子の駄目なところをいっぱい知ってる。ジナリドに居る間、ただの一人も・・そう、一人も女の子を連れて来なかったんだ。世の中、女の子がだぶついてんだよ? 男は兵士だの何だのにとられて死んで、それこそ未亡人まで含めたら町中女だらけさ。なのに、この子ったら、一度として女の子を連れて来ないんだ! それどころか、キャミに聞いても、浮いた噂の一つもありゃしない! 町を一緒に歩いている事も無い! 山の中で魔物を狩って、町へ来て売ったら、また山に戻るだけ! それはもう酷い生活をしてたんだよ」
「お~い、アンナさぁ~ん」
キャミが苦笑しながら手を振って見せる。
「なんだい、キャミ? 今、大事な話をしてるんだよ?」
アンナがぎろりと睨んだ。
「いやぁ~、何というか・・お嫁さんがドン引きですよ?」
「・・なんだって?」
「だから、シュン君のお嫁さん・・の候補さんが、困っちゃってますよ」
「あ・・いや、そうなのかい?」
アンナが慌ててユアとユナににじり寄った。
「まあ、そのくらいで」
苦笑しながら聞いていたシュンが間に割って入った。
「アンナ・・ちゃんと紹介するよ」
「う・・うん、そうだね。うん・・そういや名前もまだだった」
アンナが頭を掻きながら床の上に座り直した。
「床じゃなくて、椅子に座って。キャミさん、手伝ってくれ」
シュンは笑いを噛み殺しながら、アンナを半ば強引に椅子に座らせた。
「アンナの事は、何度も話したと思うけど・・心配性なんだ」
「そりゃあ心配もするさ。ずうっと山の中に居て、たまに町でお金を使う時には狩猟槍を造れだの、矢が欲しいだの・・」
アンナがシュンを睨む。
「アンナ、婚約者を紹介するよ。こちらは、ユア。そして、ユナ。迷宮に入る時からずっと一緒に行動している2人だ」
シュンは、ユアとユナをアンナの前に押し出すようにしながら紹介した。
「あ、あの・・ユアです! ボ・・シュンさんに優しくしてもらっています」
「ユ、ユナです! ボ・・シュンさんに守ってもらっています」
ユアとユナが緊張顔で言って頭を下げた。
「シュンが女の子に優しい? 守る?・・そう言えって強制されているのかい? あたしがついてるんだ。正直に言って良いんだよ?」
アンナが疑わしげに2人の顔を見る。
「路頭に迷いそうなところを救われた」
「命の恩人」
ユアとユナが言う。
「この子が? 自分のことは自分でやれとか言いそうだけど?」
アンナが納得のいかない顔で首を捻る。
「自分でやろうとして駄目だった」
「そしたら助けてくれた」
「ふ~ん・・本当かねぇ?」
アンナがシュンを見る。
「女の1人や2人、捕まえて来いと言ってたのはアンナだろ。このとおり、ちゃんと捕まえて来たよ」
懐疑的なアンナの顔を見て笑みをこぼしながら、シュンは婚約者達の肩に手を回した。たちまち、ユアとユナが火を噴きそうなくらいに顔を赤くして俯く。
「むぅ・・まさか、本当に? 凄いじゃないか! どうやったんだい?」
アンナが勢いよく立ち上がった。
「もう少し早く紹介するつもりだったけど。ジナリドがあんな状態だったから・・ああ、まだエラードには言ってない」
「そりゃそうだ。あたしより先にエラードに言ってたらぶん殴るよ? うん、それで・・婚約ってことは、ほら・・近いうちに結婚するんだろ? いつだい? 家はどうすんだい?」
「アンナさん」
キャミが、アンナを抑える。
「なんだい?」
「そういうことは、口にしちゃ駄目ですって!」
キャミが小さな声で窘める。
「・・そうなのかい?」
「当人同士が丁度良い時に決めるものです」
「ふうん・・まどろっこしいね。まあ、いいさ。この先に楽しみが出来た。なんだい! 嬉しいじゃないか! なんだか、こう・・もうちょっと生きてやろうかって気にさせるじゃないか!」
アンナが晴れ晴れと明るい表情になって、義理の息子と並んで真っ赤な顔をしている2人を好ましげに見つめた。
「シュンから聴いているとは思うけど、あたしはアンナ。ちょいと冒険者をやって、そんで今は鍛冶屋さ」
「ユアです。双子ですけど」
「神様に1人になれる魔法を掛けて貰いました」
ユアとユナが、ちらとシュンを見る。
「せっかくだから、紹介しておこう」
シュンは頷いた。
「なんだい? 誰を紹介するってんだい?」
「2人は、魔法で姿を変えるんだ」
「魔法? 神様の・・って言ったっけ?」
「少々お待ちを」
「服が脱げちゃうのです」
ユアとユナが店の奥にある便所の方へと駆け去った。
そして、
「お待たせしました」
いくらも待たない内に、ユアナになって出て来た。騎士服姿で、艶やかな黒髪を無造作に背で束ね、澄ました顔で歩いて来る。
「ちょっと・・どちらさんだい?」
アンナがシュンに小声で訊いた。
「ユアとユナ」
「あん? 何言ってんだい。年寄りをからかうんじゃ・・まさか? 姿を変えるって?」
アンナがそっとユアナの方を見る。
すらりと細身の肢体に年頃の娘らしい柔らかな胸乳の膨らみ、きゅっと絞れた腰から脚がすらりと長い。お人形のように端正な顔で、黒い瞳が快活そうに輝いている。
「アンナさん、この姿の時は、ユアナと呼んでください」
ユアナが笑顔でお辞儀をして見せた。
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