繋がりのドミグラスソース

山いい奈

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4章 再開に向かって

第10話 男性の正体は

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 弥勒みろくさんはゆっくりと立ち上がると、無邪気な笑みを浮かべる。

「弥勒と言います。あ、もちろん本名とちゃうで。こういう仕事やからな、念のため本名は伏せてるんや。ほら、占い師とかが琥珀こはくとかローズなんちゃらとか、中二病みたいな名前付けるんと一緒やな。わしの名前もきらっきらやし」

 凄い偏見だなと思いつつ、守梨まもりは呆気に取られて「は、はぁ」として言えなかった。

「弥勒さんは親父の弟やねん。せやから苗字は原口はらぐちやねんけどな。まぁ下の名前は一応言わんとくわ」

 と言うことは、弥勒さんは祐ちゃんの伯父おじさんということか。確かに、良く見ればおじちゃんに似ている気がする。

「俺が幽霊見えるんはな、親父方の血筋なんや」

「そうなんや。初耳や」

 守梨は目を丸くする。

「黙っとったわけや無いんやけど、わざわざ言うことでもあれへんしな。親父には見えへんから安心しとったらしいんやけど、俺にきざしが見えたからな。小さい俺を連れて、慌てて実家に行ったらしいわ。その時親族で霊能者やったんは、この弥勒さんだけやったから」

「せやから必然的に、わしが相談に乗ることになるんよ。まぁなぁ、こんな面倒な能力、無い方が幸せに暮らせるわ。言うても、今更無かった方が良かったとは思わんけどな。それなりにええことが無かったわけや無いし。人生経験としてな」

 守梨は祐ちゃんが霊を見ることは昔から聞いていた。しかし祐ちゃんは見えることで、特にこれといった話などを守梨にしたことは無かった。だが弥勒さんの言葉からすると、祐ちゃんも苦労して来たのでは無いだろうか。

 その時に寄り添えなかったことを、守梨は悔しく、そして不甲斐無く感じる。祐ちゃんはこんなにも守梨のことを考えてくれていると言うのに。

「わしはな、霊能者になるしか無かったんや。要は、原口家に霊的に何かがあった時に、矢面に立てる人間が必要やったんやな。もちろん能力には大小があるから、霊感があるからって誰にでもなれるもんや無い。わしは霊能者に成るべくして生まれたんや」

「弥勒さんは見える、聞こえる、触れる、祓える、の能力が小さいころから備わってはったからな」

 祐ちゃんは本来なら見えるだけで、この弥勒さんが作ったお守りのお陰で聞こえる様になった。その事実からしても、弥勒さんはかなり高い能力を有しているということなのだろう。

「凄い人なんですね」

「霊能者としてはそれなりにな。で、なんでわしが今日ここに来たかっちゅうと」

 弥勒さんは店内をぐるりと見渡して、ドアから1番近い席に視線を定めた。

「お父はんとお母はん、いてはるな。うん、確かに無茶しはったなぁ」

 守梨はふと思い出す。お父さんが梨本を弾き飛ばした時、祐ちゃんが同じせりふを言っていたことを。

「見えへん人に見えるほどの力を出すってことはな、ほんまに無茶なことやねん。それでお父はんは相当な力を使いはったはずや。もうここにおれる時間もあんま無い。自分で縮めてしもたんや」

「……でも、それは私らを助けるために」

「そうやな。それが親ってもんやわな。愛する子のためなら、自分がどうなってもええ。ほんまにええお父はんや」

「はい……!」

 幽霊としてであっても、この世にいられる時を短くしても、守梨と祐ちゃんを守ってくれた。本当に、お父さんは守梨にとって自慢のお父さんだ。

「けどなぁ、そん時、まずったな」

 弥勒さんは困った様に頭を掻いた。

「そん時、生きてる人間に危害加えてしもたやろ。その罪が乗ってしもてる」

「え、どういうことですか?」

 守梨が聞くと、弥勒さんは苦虫を噛み潰した様な顔をし、祐ちゃんは辛そうに顔を歪めてしまった。守梨は不安でいっぱいになる。

「祐ちゃん……?」

「守梨ちゃん」

 弥勒さんに呼ばれ、守梨はおずおずとそちらを向く。弥勒さんはためらいも無く、言った。

「このままやったら、お父はん、どうやっても悪霊になるわ」

「え……?」

 守梨は言われた言葉の意味が一瞬把握できず、ぽかんとしてしまう。悪霊? お父さんが、悪霊になる?

「悪霊って、え、何でですか?」

 守梨が呆然となって聞くと、弥勒さんは冷静なまま口を開く。

「言葉の通りや。お父はんは、このままやったら悪霊になる」

「そん、な」

 あまりのことに、守梨はその場に崩れ落ちた。悪霊? どうして。お父さんが一体何をしたと言うのだ。梨本とのことか? あれなら、お父さんは梨本から守梨たちを守ってくれただけでは無いか。頭の中が真っ暗になる。気が遠のいて行きそうだ。

「守梨!」

 祐ちゃんが支えてくれて、守梨はどうにか顔を上げる。祐ちゃんの顔はやはり辛そうで、悲しそうで、ああ、ほんまなんやなと、守梨はようやく理解してしまったのだ。
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