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序章 迷宮脱出編
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そんな最中で、乃愛は少しずつ頭痛が治ってきた。
“彼”はやっと落ち着きを取り戻したのかもしれない。
今、乃愛の目の前には、様々な情報が文字や絵図となって見えている。
周囲を観察したが、どうやらこれは他の人には見えていないようだ。
プロジェクターのように映し出された情報はひたすら上から下へと流れていくが、速すぎてほぼ目では追えない。
パッと見はソフトウェアをインストール中の進捗画面に近い気もするが、目視できた情報以外は何も頭に入ってきていない。
だがこれでは、人造人間説もあながち馬鹿にできない。気分はサイボーグにでもなったかのようだ。
膨大な情報が瞬く間に無意味なものとして流れていく。目で追いきれないのもそうだが、そのほとんどが今の乃愛には意味の分からない内容ばかりだった。
ただそれに伴って、悪酔いしたかのような頭痛が酷くなっていくことはわかった。目を瞑っても表示は消えてくれない。
滅多やたらに〈回復〉をかけられてもいるが、効果はあまり出ていないようなので、インプットまたはスキャンのような今の作業を停止してほしいと強く願うと、情報の流れに急ブレーキがかかって頭痛も次第に治っていった。
表示される内容は自分の情報のみで一旦まとまったようだ。
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
名前: ノア=シヅ (志津 乃愛)
年齢: 16 / 200
性別: 女
血液型: Rh-M
出身: 新総学園高等学校1年3組<日本<地球<AZ1201-De56
種族: ネオヒューマン
天職: ガーディアン
魔法: 全属性
能力: 鑑定、収納、結界、反射、減衰、回復
才能: 分析、解析、走査、言霊、霊気、空間、堅守、放射、吸収
加護: 雷神(魔)の寵愛
魔力: 70 / 100
気力: 60 / 100
知力: 50 / 100
視力: 80 / 100
聴力: 80 / 100
筋力: 90 / 100
持久力: 90 / 100
瞬発力: 90 / 100
柔軟性: 90 / 100
敏捷性: 90 / 100
体温: 37.5 [40°]
血圧: 120/80 [140/90]
脈拍: 80 [100/m]
心拍数: 80 [100/m]
呼吸数: 19 [20/m]
健康: 普通
意識: 正常
症状: 頭痛、喉の渇き
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
何から見ていったらいいのか、自分のことみたいなので気になる内容が多すぎる。とりあえず、今の乃愛は人間ではないと報告されているのか。
上から順に項目を追っていく。それぞれの表記をじっと見つめていると、何となくその意味が理解できるようになっていた。情報の真偽も否応なく真であると納得させられる。
まず年齢の最大値には絶望感を覚えた。つまり200歳が寿命。
血液型も元はAB型だったのが、今はもう、聞いたこともないM型となってしまっていた。
生んでくれた両親の顔がふと思い浮かんで、目尻に涙が溜まる。
一頻り感傷に浸ってから、改めてゆっくりと続きを確認していく。
出身。わざわざ地球とまであって、その横には謎の羅列文字。これは宇宙や並行世界の種別と分類番号、らしい。この辺りはいまいちピンと来ないが、ここはどうやら元いた世界とは異なる場所のようだった。
今いる場所の表記は、
【王城地下遺跡<アーシア王国<ピセス<KC3631-Qj82】
となっている。
比較すると、別の宇宙、別の惑星にいるということになる。
なぜ突然こんな場所へ移されたのか、誰かの思惑があるのか、それはこれだけでは分からない。ただ、ここへやってきたことで、この世界基準の種族、つまり身体になってしまったということは理解した。
元の体質のままでは、この世界の環境に適応できないからだろう。似たような人の文明社会があったとしても、惑星どころか宇宙からして違うのだ。人体のメカニズムが全く同じである可能性は極めて低い。
重力や大気などの差異もあれば元素も違うだろうし、未知の病原体に対する問題も考えられる。その他にも微妙に少しずつズレた違いによって、そのままではすぐに体に支障をきたしていただろうことは想像に難くない。
転移したというよりも、転生の方が近いのかもしれない。
それだけであれば、せめて一番人間に近いはずの〈ヒューマン〉という種族に変異して欲しかった。ネオが付いてしまった事で色々と人間離れしてしまっている。姿だけは変わらなかったのは救いか。
また気分が沈んでいきそうだったので、それ以上は深く考えないようにする。
天職はこの世界ではジョブと呼ばれるもので、成人—ヒューマンは15歳—を迎えると、降って湧いたように得られるものらしい。
ジョブは多種多様にあり、その中から本人の資質や人格に応じたものが適用されると、新たな才能を自覚できるようになる。それはいいが、乃愛は〈ガーディアン〉が適性とされたことに甚だ疑問が尽きない。
これは守護する者という意味ではないのだろうか。特に騎士のようなイメージもある。乃愛はどう考えても他所様を守っているような場合ではないはずなのだ。なぜ数ある中から敢えてこれがチョイスされるのか。
実際にその職に就かなくてはいけないものではないようなので、ここはひとまずスルーしておくことにした。
能力はスキルと呼ばれるもので、ジョブや経験によって習得していくようだが、内容を見たら漠然とそれぞれの使い方を把握できてしまった。
才能はそれ自体を直接使うことはあまりないようで、それらをベースにして能力開発したものをスキルとして行使する、ということらしい。
自分の才能や能力が明確にわかることは、自覚や成長を促進させるものとしては非常に有効で便利だと感じるが、名称として見えているからといってコマンド使用のように扱えるものではないようだ。
わかりやすい適当な名称を当て嵌めただけの、目安程度に留めていた方が良さそうだ。
しかし乃愛には既にいくつかの能力が備わっているようだった。
才能含めて元の身体由来のものは全く無さそうだが、いつの間に開発していたのだろうか。頭痛の時かもしれないが、仕組みを察するに、というより元の世界でもそうだが、無自覚ではスキルは習得できないはずだった。
——そういえば喉が渇いていた。
と自覚すれば、水魔法が発動した。小さな水球が突如として現れて思わず目を見張る。眼前でふよふよと浮いている。
そういう感じで使えるのか。
魔法という文字を見てから、それなんてファンタジー、と心なしか少しワクワクした気持ちが湧いていた。けれどまさか、こんな何の前触れもなく無意識に使ってしまえるとは思いもよらず、拍子抜けが勝って素直に感動することを逸してしまった。
何となしに水球を見つめ続けていたが、それよりもこれをどうやって始末すれば良いかに思い至れば、徐々に現実感が戻ってきた。すると流れるように、するりと水球が形を変えて口の中に少しずつ入りこんできた。咽せないようにか、口に含まれていく水はちょうど良い塩梅だ。コップ一杯分くらいの量はあったようで、飲み干すころには充分な満足感があった。
なるほど、これはすごい便利だし、すごく助かった。
ただ魔法は呪文を唱えたり魔法陣から出すものだと、勝手に思い描いていたせいだろう。漠然と頭に入ってきた知識の中ではそれらは確かに存在するはずだったので、期待に胸を膨らませてしまっていた気持ちが宙ぶらりんだ。
何だか釈然としない思いがくすぶるが、起こしたい現象をイメージすれば簡単なものは発動するということで、ひとまず納得しておく。
全属性とあるので、イメージするものは何でも良いのだろう。
基本属性は、【火・水・風・地・光・闇・無】が全てであり、組合せ次第では氷や雷といった派生属性もあるようだ。
別の意味で一番気になるのは、やはり加護の〈雷神(魔)の寵愛〉だろう。
加護は良い言葉の響きに思えるが、中身が不穏すぎる。つまり魔神ということになるのか。その神に乃愛はなぜか好かれていもいるようだが、心当たりは全くない。
——あぁ、でもその存在をどうしても感じてしまう。
頭痛が始まったあたりからだろうか。
言葉までは交わせないが、“彼”—雷神様—の感情や意志が時々伝わってきてしまう。スピリチュアルに目覚めそうだ。
始めに情報が一方的に流れてきていたのも、乃愛が倒れた事で“彼”が酷く動揺してしまい、ただ不安を解消させてくれようとしていただけだった。そして乃愛が目醒めてからもずっと心配してくれており、その結果が回復スキルの乱発だった。
そう、本人の意思とは関係なく、“彼”は乃愛のスキルを自由自在に操っていた。詳しいことまではよく分かっていないが、スキルが既に開発されていたのも、自然と魔法が発動されたことについても、実はそれが関連しているのではないかと疑っている。
この神様は遠くから見守っているというより、背後霊もとい守護霊のような存在ではないかと感じているが、加護とはそういうものだっただろうか。
不思議な現象につい驚いてしまうことはあっても、それが乃愛にとって害があるわけでもなく、むしろ守ってくれようとしていることが伝わってくるので、魔神なのだとしても悪感情は全く抱いていない。
未知の世界に突如放り込まれたこともあって、無条件で守ってくれる存在を感じられることは、唯々ありがたい他ない。
だがいかんせん、神が本当に実在するなんてこれまでの人生で考えたこともなければ、加護は初詣のときにもらう御守りのようなイメージ—偏見—しかないのも手伝って、明らかに存在を感じるとなるとどうしても違和感は拭えないのだ。
世界が違えば、神に対する概念も別物になるのかもしれない。
元の世界でも国内外どころか県外ですらほとんど出歩いたこともないのに、まさか次元を超えて異世界なんて、スケールが違うにも程がある。
何らかの助けがなければ、この世界で真っ先にお陀仏となる生徒は乃愛だったことだろう。卒倒したあとそのまま永久に目醒めなかったかもしれない、精神的に。
因みに今見えているような個人情報はステータスと呼ばれる—対象の属性や状態を表す—ものらしいが、バイタルサインまで表示されていると、身体測定や診察結果を記したカルテのようにしか思えない。心電図のような波形—PQRST波—も動いていて、心拍数と連動している。
何もここまでせずともと思わなくもないが、とにかく心配性であるらしい“彼”にとっては必要な情報なのだろうか。
現状は元の身体基準とそう変わらないように見えるが、カッコ内が種族固有の成人基準値になるようで、それとかけ離れ過ぎていると身体異常と判断されるらしい。であれば今の状態は全体的に少し低めになっているのかもしれない。
筋力などの各項目は、その数値の単位や基準は不明だが、左が現在値、右が最大値となっている。現在値は全体的に減っているが、主に頭痛の時に諸々消費してしまったのだろう。
単純に身体を行使する他に、スキルや魔法を発動しても、その内容や威力に応じてそれぞれ消費される。
健康不良や状態異常にでもなっていない限り、通常は時間経過で自然回復していくようで、その際に体を休めておくと回復速度は増すようだ。
なぜか最大値は一律で揃っているが、通常は固有値にジョブ基礎値が上乗せされるため、バラツキが出るのが常のようだ。
また、100というのが他と比べて多いのか少ないのかはわからない。鍛えれば増えるようだが、種族や個人差で限界値はありそうだ。
各パラメータの現在値はリアルタイムで変動していくようで、常にパラパラと数字が動いている。波形と合わせてそれがとても目に煩わしい——と思えば、全ての表示がパッと消えた。
自分で行ったのかどうか実感はなかったが、感謝の念を送っておく。
これで今わかるおおよその変化や状態は掴めただろうか。
あとは他の人たちはどうなっているかだが、声を掛けられる雰囲気でもなければ度胸もない。
しばし途方に暮れた。
そんな最中で、乃愛は少しずつ頭痛が治ってきた。
“彼”はやっと落ち着きを取り戻したのかもしれない。
今、乃愛の目の前には、様々な情報が文字や絵図となって見えている。
周囲を観察したが、どうやらこれは他の人には見えていないようだ。
プロジェクターのように映し出された情報はひたすら上から下へと流れていくが、速すぎてほぼ目では追えない。
パッと見はソフトウェアをインストール中の進捗画面に近い気もするが、目視できた情報以外は何も頭に入ってきていない。
だがこれでは、人造人間説もあながち馬鹿にできない。気分はサイボーグにでもなったかのようだ。
膨大な情報が瞬く間に無意味なものとして流れていく。目で追いきれないのもそうだが、そのほとんどが今の乃愛には意味の分からない内容ばかりだった。
ただそれに伴って、悪酔いしたかのような頭痛が酷くなっていくことはわかった。目を瞑っても表示は消えてくれない。
滅多やたらに〈回復〉をかけられてもいるが、効果はあまり出ていないようなので、インプットまたはスキャンのような今の作業を停止してほしいと強く願うと、情報の流れに急ブレーキがかかって頭痛も次第に治っていった。
表示される内容は自分の情報のみで一旦まとまったようだ。
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名前: ノア=シヅ (志津 乃愛)
年齢: 16 / 200
性別: 女
血液型: Rh-M
出身: 新総学園高等学校1年3組<日本<地球<AZ1201-De56
種族: ネオヒューマン
天職: ガーディアン
魔法: 全属性
能力: 鑑定、収納、結界、反射、減衰、回復
才能: 分析、解析、走査、言霊、霊気、空間、堅守、放射、吸収
加護: 雷神(魔)の寵愛
魔力: 70 / 100
気力: 60 / 100
知力: 50 / 100
視力: 80 / 100
聴力: 80 / 100
筋力: 90 / 100
持久力: 90 / 100
瞬発力: 90 / 100
柔軟性: 90 / 100
敏捷性: 90 / 100
体温: 37.5 [40°]
血圧: 120/80 [140/90]
脈拍: 80 [100/m]
心拍数: 80 [100/m]
呼吸数: 19 [20/m]
健康: 普通
意識: 正常
症状: 頭痛、喉の渇き
・-・-・-・-・-・-・-・-・-・
何から見ていったらいいのか、自分のことみたいなので気になる内容が多すぎる。とりあえず、今の乃愛は人間ではないと報告されているのか。
上から順に項目を追っていく。それぞれの表記をじっと見つめていると、何となくその意味が理解できるようになっていた。情報の真偽も否応なく真であると納得させられる。
まず年齢の最大値には絶望感を覚えた。つまり200歳が寿命。
血液型も元はAB型だったのが、今はもう、聞いたこともないM型となってしまっていた。
生んでくれた両親の顔がふと思い浮かんで、目尻に涙が溜まる。
一頻り感傷に浸ってから、改めてゆっくりと続きを確認していく。
出身。わざわざ地球とまであって、その横には謎の羅列文字。これは宇宙や並行世界の種別と分類番号、らしい。この辺りはいまいちピンと来ないが、ここはどうやら元いた世界とは異なる場所のようだった。
今いる場所の表記は、
【王城地下遺跡<アーシア王国<ピセス<KC3631-Qj82】
となっている。
比較すると、別の宇宙、別の惑星にいるということになる。
なぜ突然こんな場所へ移されたのか、誰かの思惑があるのか、それはこれだけでは分からない。ただ、ここへやってきたことで、この世界基準の種族、つまり身体になってしまったということは理解した。
元の体質のままでは、この世界の環境に適応できないからだろう。似たような人の文明社会があったとしても、惑星どころか宇宙からして違うのだ。人体のメカニズムが全く同じである可能性は極めて低い。
重力や大気などの差異もあれば元素も違うだろうし、未知の病原体に対する問題も考えられる。その他にも微妙に少しずつズレた違いによって、そのままではすぐに体に支障をきたしていただろうことは想像に難くない。
転移したというよりも、転生の方が近いのかもしれない。
それだけであれば、せめて一番人間に近いはずの〈ヒューマン〉という種族に変異して欲しかった。ネオが付いてしまった事で色々と人間離れしてしまっている。姿だけは変わらなかったのは救いか。
また気分が沈んでいきそうだったので、それ以上は深く考えないようにする。
天職はこの世界ではジョブと呼ばれるもので、成人—ヒューマンは15歳—を迎えると、降って湧いたように得られるものらしい。
ジョブは多種多様にあり、その中から本人の資質や人格に応じたものが適用されると、新たな才能を自覚できるようになる。それはいいが、乃愛は〈ガーディアン〉が適性とされたことに甚だ疑問が尽きない。
これは守護する者という意味ではないのだろうか。特に騎士のようなイメージもある。乃愛はどう考えても他所様を守っているような場合ではないはずなのだ。なぜ数ある中から敢えてこれがチョイスされるのか。
実際にその職に就かなくてはいけないものではないようなので、ここはひとまずスルーしておくことにした。
能力はスキルと呼ばれるもので、ジョブや経験によって習得していくようだが、内容を見たら漠然とそれぞれの使い方を把握できてしまった。
才能はそれ自体を直接使うことはあまりないようで、それらをベースにして能力開発したものをスキルとして行使する、ということらしい。
自分の才能や能力が明確にわかることは、自覚や成長を促進させるものとしては非常に有効で便利だと感じるが、名称として見えているからといってコマンド使用のように扱えるものではないようだ。
わかりやすい適当な名称を当て嵌めただけの、目安程度に留めていた方が良さそうだ。
しかし乃愛には既にいくつかの能力が備わっているようだった。
才能含めて元の身体由来のものは全く無さそうだが、いつの間に開発していたのだろうか。頭痛の時かもしれないが、仕組みを察するに、というより元の世界でもそうだが、無自覚ではスキルは習得できないはずだった。
——そういえば喉が渇いていた。
と自覚すれば、水魔法が発動した。小さな水球が突如として現れて思わず目を見張る。眼前でふよふよと浮いている。
そういう感じで使えるのか。
魔法という文字を見てから、それなんてファンタジー、と心なしか少しワクワクした気持ちが湧いていた。けれどまさか、こんな何の前触れもなく無意識に使ってしまえるとは思いもよらず、拍子抜けが勝って素直に感動することを逸してしまった。
何となしに水球を見つめ続けていたが、それよりもこれをどうやって始末すれば良いかに思い至れば、徐々に現実感が戻ってきた。すると流れるように、するりと水球が形を変えて口の中に少しずつ入りこんできた。咽せないようにか、口に含まれていく水はちょうど良い塩梅だ。コップ一杯分くらいの量はあったようで、飲み干すころには充分な満足感があった。
なるほど、これはすごい便利だし、すごく助かった。
ただ魔法は呪文を唱えたり魔法陣から出すものだと、勝手に思い描いていたせいだろう。漠然と頭に入ってきた知識の中ではそれらは確かに存在するはずだったので、期待に胸を膨らませてしまっていた気持ちが宙ぶらりんだ。
何だか釈然としない思いがくすぶるが、起こしたい現象をイメージすれば簡単なものは発動するということで、ひとまず納得しておく。
全属性とあるので、イメージするものは何でも良いのだろう。
基本属性は、【火・水・風・地・光・闇・無】が全てであり、組合せ次第では氷や雷といった派生属性もあるようだ。
別の意味で一番気になるのは、やはり加護の〈雷神(魔)の寵愛〉だろう。
加護は良い言葉の響きに思えるが、中身が不穏すぎる。つまり魔神ということになるのか。その神に乃愛はなぜか好かれていもいるようだが、心当たりは全くない。
——あぁ、でもその存在をどうしても感じてしまう。
頭痛が始まったあたりからだろうか。
言葉までは交わせないが、“彼”—雷神様—の感情や意志が時々伝わってきてしまう。スピリチュアルに目覚めそうだ。
始めに情報が一方的に流れてきていたのも、乃愛が倒れた事で“彼”が酷く動揺してしまい、ただ不安を解消させてくれようとしていただけだった。そして乃愛が目醒めてからもずっと心配してくれており、その結果が回復スキルの乱発だった。
そう、本人の意思とは関係なく、“彼”は乃愛のスキルを自由自在に操っていた。詳しいことまではよく分かっていないが、スキルが既に開発されていたのも、自然と魔法が発動されたことについても、実はそれが関連しているのではないかと疑っている。
この神様は遠くから見守っているというより、背後霊もとい守護霊のような存在ではないかと感じているが、加護とはそういうものだっただろうか。
不思議な現象につい驚いてしまうことはあっても、それが乃愛にとって害があるわけでもなく、むしろ守ってくれようとしていることが伝わってくるので、魔神なのだとしても悪感情は全く抱いていない。
未知の世界に突如放り込まれたこともあって、無条件で守ってくれる存在を感じられることは、唯々ありがたい他ない。
だがいかんせん、神が本当に実在するなんてこれまでの人生で考えたこともなければ、加護は初詣のときにもらう御守りのようなイメージ—偏見—しかないのも手伝って、明らかに存在を感じるとなるとどうしても違和感は拭えないのだ。
世界が違えば、神に対する概念も別物になるのかもしれない。
元の世界でも国内外どころか県外ですらほとんど出歩いたこともないのに、まさか次元を超えて異世界なんて、スケールが違うにも程がある。
何らかの助けがなければ、この世界で真っ先にお陀仏となる生徒は乃愛だったことだろう。卒倒したあとそのまま永久に目醒めなかったかもしれない、精神的に。
因みに今見えているような個人情報はステータスと呼ばれる—対象の属性や状態を表す—ものらしいが、バイタルサインまで表示されていると、身体測定や診察結果を記したカルテのようにしか思えない。心電図のような波形—PQRST波—も動いていて、心拍数と連動している。
何もここまでせずともと思わなくもないが、とにかく心配性であるらしい“彼”にとっては必要な情報なのだろうか。
現状は元の身体基準とそう変わらないように見えるが、カッコ内が種族固有の成人基準値になるようで、それとかけ離れ過ぎていると身体異常と判断されるらしい。であれば今の状態は全体的に少し低めになっているのかもしれない。
筋力などの各項目は、その数値の単位や基準は不明だが、左が現在値、右が最大値となっている。現在値は全体的に減っているが、主に頭痛の時に諸々消費してしまったのだろう。
単純に身体を行使する他に、スキルや魔法を発動しても、その内容や威力に応じてそれぞれ消費される。
健康不良や状態異常にでもなっていない限り、通常は時間経過で自然回復していくようで、その際に体を休めておくと回復速度は増すようだ。
なぜか最大値は一律で揃っているが、通常は固有値にジョブ基礎値が上乗せされるため、バラツキが出るのが常のようだ。
また、100というのが他と比べて多いのか少ないのかはわからない。鍛えれば増えるようだが、種族や個人差で限界値はありそうだ。
各パラメータの現在値はリアルタイムで変動していくようで、常にパラパラと数字が動いている。波形と合わせてそれがとても目に煩わしい——と思えば、全ての表示がパッと消えた。
自分で行ったのかどうか実感はなかったが、感謝の念を送っておく。
これで今わかるおおよその変化や状態は掴めただろうか。
あとは他の人たちはどうなっているかだが、声を掛けられる雰囲気でもなければ度胸もない。
しばし途方に暮れた。
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