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序章 迷宮脱出編

探索一日目: 出発

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♦︎

 朝食を終えて一息入れていると、フォルガーと相馬の会話が、今日の探索の話題に移った。

「ひとまずは英気を養えたかな?我々は早速、周辺を見て回りたいと思っている。それで、君たちはこれからどうする?」
「ええ、おかげさまで。お邪魔でなければぜひお供したいのですが」
「それは良かった。殿下方の護衛のために、我々のうち最低二人はここへ残しておきたかったんだ。探索に出るのはこちらは一人、まずは私からになるが、君たちの人数は気になくても良い。誰が先行するのか決まり次第、すぐに出発する。体力のことも考えて、一応、午前と午後でチームを分けたいと考えている」
「分かりました。ちょっと相談してきますね」

 騎士二人は王子と王女の世話をずっと焼いていた。
 身なりを整えさせて、ご飯を食べさせ、時折話しかけては元気づけている。この二人は騎士というより、もはや侍従のように見えてきていた。
 様子をみる限り、確かに常に側についてあげた方が良さそうだった。当てもなく連れ回すことなど、さらに難しそうだ。

 クラスメイトらはチーム決めを行うために、少しその場を離れた。

「そういえばさ、見張りやってる時、フォルガーさんに世界地図みたいなやつ貰った。こっから出れても、どこ向かえばいいか全く分からねぇんじゃ、また途方に暮れそうだと思って聞いてみたら、色々教えてくれてさ。バッジにしまってるあるから、後でまた見せるわ」
「マジかよ!すげー助かるじゃんそれ」
「あの人、本当親切にしてくれるよねぇ」
「だな。まぁ、途中までしか一緒できねぇらしいし、外はかなりやばい感じっぽいから、それでもなんか申し訳なさそうにしてたが」
「外、ね…。あんなに武装してても危険だって言うなら、相当なんだろうね…」
「あぁ、だからそれまでに、身を守る術については、何とか形にしときたいところだ」
「ここに残る組は、その辺を重点的に確認するようにしてくれる?先行組は…五人くらいでいいかな?あっちは一人だし、あんまりゾロゾロついて行ってもね。通路も狭かったし。あ、見張り役だった三人は外れてもらっていいからね」
「ほんと?助かる~ちょっと寝不足な感じだったから午前はゆっくりさせてもらうねー」
「私、先行させてもらってもいい?少し気になることがあって」
「僕も午前は外れて…」
「じゃあ美濃さんは決まりね。あとは、まぁ、またジャンケンでいいか」

 小高が何か発言したが、相馬が仕切って何もなかったことになった。

「最初はグーね。異論は認めない」

 昨夜のグダグダ模様を思い出して、それには皆渋々と頷いた。
 先行組として決まった五人は、フォルガーの元へ向かう。代表して上総が声をかけた。

「お待たせしました。今回はこのメンバーでよろしくお願いします」
「ああ、よろしく。では、行こう」

 騎士二人が手分けして、閉ざしていた大扉を開けた。

♦︎

 フォルガーを先頭にして、その少し後を、上総、美濃、千田、鏑木、武石が続いていく。
 この先を知っているのはフォルガーと沙奈だけだったので、自然と先導を任せるかたちになった。

 不思議なことに、通路の壁沿いに点々と設置されている燭台からは、すでに火が灯っていた。昨日はフォルガーがこちらにやって来た際に点けていったものだと思っていたが、あれからずっと燃えていたとは考えにくい。燭台の上に乗っているものは蝋燭だと思い込んでいたが、何か特殊なアイテムなのかもしれない。

┏[アイテム鑑定]━━━━━━

【Rare】古代遺物—銀の燭台
 ◆––––––––––––––––––––––––
 感知式自動照明用の魔道具
 生物を感知すると灯火
 感知範囲: 半径50m
 動力源: 遺跡機構
 経年劣化防止対策済み

 ※分解、取り外し不可

 状態: 普通
 価値: ★★★☆☆
 相場: 評価不能

┗━━━━━━━━━━━

「へぇ、便利。だったらもっと明るくできなかったのかなぁ」
「きっと趣きを大事にしてたんだよ」
「古代の方が文明が発達してたパターンだったら嫌だな」

 明かりについて、千田、武石、上総が口々に感想を漏らしていく。

「こういった設備はもの珍しいのかな?まぁ、ここらでも一般的に普及にしているようなものではないが…。察しの通り、この周辺一帯にあった古代の国ではね、今よりも遥かに高度な文明があったらしい」
「あ、ははは…そうなんですね…」

 近くにいたフォルガーに会話が聞こえていたようだ。普段の感覚でつい軽口が出てしまっていた上総は、改めて身を引き締め直す。今は傍に相馬がいないので、念話は使えない。

 しばらく道なりを進んでいると、通路が一旦途切れて少し開けた空間に出た。昨日は通路の途中で引き返したので、沙奈を除く四人にとって、ここは初めて到達した場所になる。
 特に何もない空洞だったが、四方に一つずつ出入り口の穴が見えるので、ここは分岐点用の小空間になるのだろう。

「…」

 フォルガーは静かに中央辺りへと進み出て、そのまま佇んでいる。
 よく見ると、その周囲の足元には乾いた血痕が少し付着していた。もしかするとここは、昨日弔った隊長が最期にいた場所なのかもしれない。
 その様子を黙して見守っていると、フォルガーが口を開いた。

「我々は、前方にある、あちらの穴からここへ出てきた。左右の方はまだ確認していない。来た道を戻るわけにもいかないので、左右どちらかに進みたいと思うが、どちらが良いかな。私はこういう時、左を選択してしまうのだが」

 やって来た方を指差しながら、そう尋ねてくるフォルガー。
 こちらからするとどこであっても初めての場所になるので、特に希望が出るはずもない。虱潰しに見て行くしかないだろうと思って口を開きかけた上総だったが、先に沙奈が遠慮がちに返答した。

「…あの。できれば右の方へ行ってみたいです。なんとなくそう思っただけなので、他意はないです」
「そうか。ではそちらから回ってみよう」

 沙奈が言ったことに特に思うことはないのか、それを聞くとフォルガーは迷いなく右の方へ進み入った。
 クラスメイト四人は少しの違和感を持ったが、沙奈は昨日、この先もある程度は確認して来たと言っていた話を思い出していた。何か気にかかることがあったのだろうと、あまり深く考えずに言われるがまま後をついて行った。

 出入り口となっている穴を通り抜けた先は、また同じような通路が続いていた。

「ごめんね、勝手に決めちゃって」

 先を進んでいると、四人に向かって沙奈がこそっと謝ってきた。

「いや、いいよ。どこがいいとかも特になかったし。気になるって言ってたことと、関係あったり?」
「…まぁ、うん。始めからこっちに行きたかったわけじゃなかったんだけど、その、つい咄嗟に。今はまだちょっとうまく説明できない」
「何か分かった時でいいから、また後で教えてね。危険そうなことは、武石に任せてもいいよね?」
「ああ、常に警戒してあるから、何か引っ掛かればすぐに言うよ」

 変わり映えのない道なりを歩き続けていたが、先に進むにつれ段々とフォルガーが顰め面となっていき、辺りを見回し始めたかと思えば、ついには立ち止まってしまった。
 まだ距離はあるが、奥に出入り口が見えてきていた。

「…少し、止まってくれ。何か、おかしい。先に様子を見てくる」

 返答を待たずに、フォルガーは走って先に行ってしまった。

「……昨日と同じような展開なんだが」
「察知に反応はないけど…」

 しばらくそのまま待っていると、フォルガーが血相を変えて戻ってきた。

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