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第二章 E小隊・南方作戦
第二十話 正面突破
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ワイズマンを後ろ手に拘束し、後ろから銃を突き付けて先頭を歩かせ地上まで戻った。潜水艇のあるホールにいた敵兵達は、手足を拘束してそのまま置いてきた。
おどろいたのは、エルとメグ以外に収監されているものがいなかったようで、本当に監獄内の守備兵が少ないことだった。しかも彼らは、ワイズマンが人質になっているのを見ると無抵抗で通してくれた。そいつらも順次拘束し、移送用のトラックが用意されていたガレージまでたどり着いた。
「ローアイさん。あきらめた方がいいですよ。トラックで外に出られても、外には守備兵がそれなりにいますからね。無事に逃げられはしないですよ」
ワイズマンが悪態をつく。
確かに、シェルを失っているので、マナアレイスキャンもできないし、戦術ネットにもアクセスできず、前線の情況確認や他との連絡も出来ない。しかし、ここは大規模奪還作戦がうまくいっている方に一点張りするしかなかろう。
「あんたは、外じゃ人質としての価値がないのか? それなら用済みなんで、あの世に旅立ってもらってもいいんだが……まあそれだと捕虜取扱条約違反か……だが、そちらさんは、中央平原の新要塞で、まったくけしからんことをエルフ捕虜にしてくれたしな。誰も見てないんで、意趣返ししてもいいか?」
「まて……まってくれ。あれは、要塞司令の独断専行だ! おかげで我が国の品位も大きく汚され、やつは銃殺刑になったんだ!
まあ、処刑したのは私なんだが……」
ほお、その情報は知らなかった。アイリス中尉に教えたら、少しは留飲を下げるだろうか。
ワイズマンを盾にどこまで行けるかはわからないが、とにかく夜まで待った方がいいだろう。大規模奪還作戦がうまく進めば、このあたりの守備兵は早めに逃げる算段をしないと退路を断たれて袋のネズミだしな。
しばらく外の様子を伺っていたが、外の守備兵が要塞の中まで様子を見に来ることは無い様だ、と言うよりさっきより外の兵数が減っている? もしかしたら我が軍の半島奪還作戦がうまくいっていて敵は退却し始めているのかもしれない。そうであれば逃げるチャンスはますます広がる。
夕方になって、いよいよ外の兵達が視界の中から消えた。間違いない。半島の付け根が抑えられて、孤立する前に退却しようとしている!
推し兵達が監獄内を調べ、水と菓子を見つけてきた。
ちょっと一息つけるかな。
ワイズマンにも勧めたが、彼は一切口にしようとしなかった。
このガレージは防御結界の効果範囲外の様で、エルフ達はみんな少しずつ力を取り戻しているようだった。これなら途中で多少戦闘になっても何とかなるだろう。もう、コトブキに吸い取られるのは……いや、嫌じゃないかも知れないとちょっと思ってしまい慌てて心の中でエルに詫びた。
エルは、途中で鉛筆やペンを何本か獲得していて、ワンド替わりに出来そうとのことだが、メグは長身の刀でないと偃月斬が放てないとのことだったのでこれは致し方ない。
完全に陽が落ちた。監獄の中も外も大変静かだ。
そろそろ外に出ようかと立ち上がった時、ワイズマンが口を開いた。
「ローアイさん。悪いことはいいません。我々に投降しませんか。決して皆さん、悪い様には致しません」
「なんだ、この状況で、まだそんなことが言える……」
ん! なんだ? 身体がしびれる!
「だから―。切り札っていうのは、最後まで取っておくから楽しいんですって!」
なに! って、身体が……周りの推し兵達も動きが鈍い……
しまった、さっきの水と菓子か!
「大丈夫。あのくらいの量だと死んだりはしません。ただ、ちょっと動きずらいかもです。もういいですよ。出て来て下さい」
ワイズマンの言葉に、ガレージ内にあった大きな木箱の上が開いて、中から二人の兵士が出てきた。推し兵の一人が必死で銃を向けたが、逆に肩を撃ち抜かれた。
「はいはい、抵抗しないで下さいね。私は無益な殺生は嫌いなんです。まあ、私のプライドを傷付けた人は本来例外なんですが……なのでローアイさん、あなただけは抹殺したいんですが、任務のほうが重要でしてね。
ローアイさんとエルさんを本国まで移送します。二人を拘束してトラックに放り込みなさい!」
拘束を解かれ、うーんと伸びをしてからワイズマンが兵士に指示した。
くそ、身体の自由が利かない。
エルが手足を縛られトラックの荷台に放り込まれた。
そして俺の方に兵士達が近寄ってくる……
しゅば――――ん
その時、すごい風が巻き起こり、二人の兵士が吹っ飛ばされた。
これは……コトブキか!?
「カレンはん、ナイスヒールでありんす」
「あはは、私、生水とか、食べ慣れないものは口にいれないんで……」
そうか、カレンも水と菓子を食べなかっんだ。それでこっそり側にいたコトブキをヒールして……またもや形勢逆転だ!
「さあ、くそ虫はん。おとなしゅう降参しておくんなまし」
すでにコトブキはかぶら矢を弓につがえてワイズマンを狙っている。
俺は身体をなんとか動かして、コトブキとカレンの側に近づきながら話した。
「はは、ワイズマン。本当にこれで終わりだ。観念しろ!」
「ふ……本当にそうなんですか?」
何!? なにを余裕こいて……いや、何だこの感覚は!
殺気というものがあるのだとしたらこれがそうだろう。
うしろを振り向くともう一人兵がいて、そいつはためらわずトリガーを絞った!
後ろのカレンが危ない!
ぱ――ん
動かないはずの体が反射的に動いた。まさに火事場の馬鹿力だったろう。
弾はまっすぐにカレンの頭部に向かったが、俺の胴体がそれを遮った。
「ぐふうっ……」
まともに腹にくらった。腹が焼ける様に痛い。あの軍用銃は45口径か……これはいかんな……カレンは……無事なようだ。よかった……コトブキがなにか叫んでいるがよく聞こえない……俺、このまま死ぬんだな……
「ああ、グスターさん。ローアイさんを撃っちゃだめでしょ……でもあれじゃ助かりませんね。仕方ありません。エルさんだけいただいて帰りますよ」
そう言い放つと、ワイズマンは、ずっとトラック内の木箱に潜んでいたグスターという兵士とともにトラックに乗り込み、そのままガレージの正面扉をぶち破って外へ出て行った。
「小隊長はん! 気をしっかりもちなされ! 誰か、はよお医者はんを――」
コトブキの絶叫がガレージ内にこだました。
おどろいたのは、エルとメグ以外に収監されているものがいなかったようで、本当に監獄内の守備兵が少ないことだった。しかも彼らは、ワイズマンが人質になっているのを見ると無抵抗で通してくれた。そいつらも順次拘束し、移送用のトラックが用意されていたガレージまでたどり着いた。
「ローアイさん。あきらめた方がいいですよ。トラックで外に出られても、外には守備兵がそれなりにいますからね。無事に逃げられはしないですよ」
ワイズマンが悪態をつく。
確かに、シェルを失っているので、マナアレイスキャンもできないし、戦術ネットにもアクセスできず、前線の情況確認や他との連絡も出来ない。しかし、ここは大規模奪還作戦がうまくいっている方に一点張りするしかなかろう。
「あんたは、外じゃ人質としての価値がないのか? それなら用済みなんで、あの世に旅立ってもらってもいいんだが……まあそれだと捕虜取扱条約違反か……だが、そちらさんは、中央平原の新要塞で、まったくけしからんことをエルフ捕虜にしてくれたしな。誰も見てないんで、意趣返ししてもいいか?」
「まて……まってくれ。あれは、要塞司令の独断専行だ! おかげで我が国の品位も大きく汚され、やつは銃殺刑になったんだ!
まあ、処刑したのは私なんだが……」
ほお、その情報は知らなかった。アイリス中尉に教えたら、少しは留飲を下げるだろうか。
ワイズマンを盾にどこまで行けるかはわからないが、とにかく夜まで待った方がいいだろう。大規模奪還作戦がうまく進めば、このあたりの守備兵は早めに逃げる算段をしないと退路を断たれて袋のネズミだしな。
しばらく外の様子を伺っていたが、外の守備兵が要塞の中まで様子を見に来ることは無い様だ、と言うよりさっきより外の兵数が減っている? もしかしたら我が軍の半島奪還作戦がうまくいっていて敵は退却し始めているのかもしれない。そうであれば逃げるチャンスはますます広がる。
夕方になって、いよいよ外の兵達が視界の中から消えた。間違いない。半島の付け根が抑えられて、孤立する前に退却しようとしている!
推し兵達が監獄内を調べ、水と菓子を見つけてきた。
ちょっと一息つけるかな。
ワイズマンにも勧めたが、彼は一切口にしようとしなかった。
このガレージは防御結界の効果範囲外の様で、エルフ達はみんな少しずつ力を取り戻しているようだった。これなら途中で多少戦闘になっても何とかなるだろう。もう、コトブキに吸い取られるのは……いや、嫌じゃないかも知れないとちょっと思ってしまい慌てて心の中でエルに詫びた。
エルは、途中で鉛筆やペンを何本か獲得していて、ワンド替わりに出来そうとのことだが、メグは長身の刀でないと偃月斬が放てないとのことだったのでこれは致し方ない。
完全に陽が落ちた。監獄の中も外も大変静かだ。
そろそろ外に出ようかと立ち上がった時、ワイズマンが口を開いた。
「ローアイさん。悪いことはいいません。我々に投降しませんか。決して皆さん、悪い様には致しません」
「なんだ、この状況で、まだそんなことが言える……」
ん! なんだ? 身体がしびれる!
「だから―。切り札っていうのは、最後まで取っておくから楽しいんですって!」
なに! って、身体が……周りの推し兵達も動きが鈍い……
しまった、さっきの水と菓子か!
「大丈夫。あのくらいの量だと死んだりはしません。ただ、ちょっと動きずらいかもです。もういいですよ。出て来て下さい」
ワイズマンの言葉に、ガレージ内にあった大きな木箱の上が開いて、中から二人の兵士が出てきた。推し兵の一人が必死で銃を向けたが、逆に肩を撃ち抜かれた。
「はいはい、抵抗しないで下さいね。私は無益な殺生は嫌いなんです。まあ、私のプライドを傷付けた人は本来例外なんですが……なのでローアイさん、あなただけは抹殺したいんですが、任務のほうが重要でしてね。
ローアイさんとエルさんを本国まで移送します。二人を拘束してトラックに放り込みなさい!」
拘束を解かれ、うーんと伸びをしてからワイズマンが兵士に指示した。
くそ、身体の自由が利かない。
エルが手足を縛られトラックの荷台に放り込まれた。
そして俺の方に兵士達が近寄ってくる……
しゅば――――ん
その時、すごい風が巻き起こり、二人の兵士が吹っ飛ばされた。
これは……コトブキか!?
「カレンはん、ナイスヒールでありんす」
「あはは、私、生水とか、食べ慣れないものは口にいれないんで……」
そうか、カレンも水と菓子を食べなかっんだ。それでこっそり側にいたコトブキをヒールして……またもや形勢逆転だ!
「さあ、くそ虫はん。おとなしゅう降参しておくんなまし」
すでにコトブキはかぶら矢を弓につがえてワイズマンを狙っている。
俺は身体をなんとか動かして、コトブキとカレンの側に近づきながら話した。
「はは、ワイズマン。本当にこれで終わりだ。観念しろ!」
「ふ……本当にそうなんですか?」
何!? なにを余裕こいて……いや、何だこの感覚は!
殺気というものがあるのだとしたらこれがそうだろう。
うしろを振り向くともう一人兵がいて、そいつはためらわずトリガーを絞った!
後ろのカレンが危ない!
ぱ――ん
動かないはずの体が反射的に動いた。まさに火事場の馬鹿力だったろう。
弾はまっすぐにカレンの頭部に向かったが、俺の胴体がそれを遮った。
「ぐふうっ……」
まともに腹にくらった。腹が焼ける様に痛い。あの軍用銃は45口径か……これはいかんな……カレンは……無事なようだ。よかった……コトブキがなにか叫んでいるがよく聞こえない……俺、このまま死ぬんだな……
「ああ、グスターさん。ローアイさんを撃っちゃだめでしょ……でもあれじゃ助かりませんね。仕方ありません。エルさんだけいただいて帰りますよ」
そう言い放つと、ワイズマンは、ずっとトラック内の木箱に潜んでいたグスターという兵士とともにトラックに乗り込み、そのままガレージの正面扉をぶち破って外へ出て行った。
「小隊長はん! 気をしっかりもちなされ! 誰か、はよお医者はんを――」
コトブキの絶叫がガレージ内にこだました。
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