身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ

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3章 商業都市メルセバ

11 ごみばこ

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「わ、ああ!来るなあ!」

ぼくは声のする方に恐る恐る向かうと、そこには、ぼくと同じくらいの金髪の男の子が、魔物に襲われそうになっていた。

「もう、魔力が……!くそ、なんで魔物が……!こんなとこ、来るんじゃなかった……」

男の子はもう魔力が切れてしまったようで、木の棒で必死に抵抗しようとしている。
やっぱり魔物に襲われていたんだ。
辺りを見回す。
どうしよう。どうしたら……

「えいっ」

地面に落ちていた手のひらくらいの石を見つけた。持ってきて、魔物に投げつける。

ノーマン館長が言っていた。
『重いものを投げつければ、怯ませるくらいはできるぞ』って。

ガツン。と魔物の背中に当たった。魔物はびっくりして、動けなくなってる。

「こ、こっち!」

「!?」

男の子の手を引き、路地裏に駆け出す。
追いかけてきませんように。
そう願ったけど、魔物はぼくたちを見つけて後ろから追いかけてきていた。

「な、お前、誰、道、わかるのか!?」

「わ、わからないよ!でも逃げないと!……わっ!」

急いで道を曲がると大きなゴミ箱にぶつかりそうになった。蓋を開けてみる。
中身はあんまり入ってないし2人、隠れられそう。

「ここに、隠れよう」

「これゴミ箱だぞ!?嫌だよ!」

「大丈夫。ちょっとしかゴミ入ってないよ」

「い、嫌だ……わあ!」

大きいゴミをポイっとだして、ゴミ箱の中に入る。そのまま男の子の手を無理矢理引っぱり、
2人でぎゅうぎゅうになって入り込んでから、蓋を閉める。

「お前……俺をゴミ箱に入れたって言いつけてやるからな……」

「そしたら、そのおかげで助かった。もだよ?」

ゴミ箱の中は思ったよりも臭くなく、少し湿った紙くずが足にくっつく。

足がガクガクしてきた。両腕は擦りむけてジンジン痛むけど、ぬいぐるみを抱きしめる手は絶対に離さなかった。

じっと息を潜めていると、外から魔物の足音が遠ざかっていくのが聞こえて、ほっと胸をなで下ろした。

「よ、良かったあ」

ぷはっとゴミ箱の蓋を開けて顔を出す。
ぼくが最初に出て、男の子の手を引っ張る。

「うう。臭い。最悪だ」

「臭くないよ?でも、大丈夫?」

「大丈夫なもんか。こんなに汚くなって……」

ゴミはそんなに入ってなかったけどな。
金髪の男の子はぼくの両腕を驚いたように見つめる。

「お前、怪我してるじゃないか」

「転んじゃって……」

まだ少し傷むけど、大丈夫。
足は怪我していない。
まだまだ走れる。

「……ふうん。というかなんで街に魔物が入り込んでるんだよ。おかしいだろ!結界で囲われてるはずだろ」

「ぼくにも分からないよ」

首を振る。
ヴァルドさんも不思議そうにしていたもの。

「君は教会の場所、分かる?
そこなら結界が張られてるから、魔物が来ないんだって」

「分かるわけないだろ。俺ここにあんまり来ないんだ。なのにこんな目に……」

「そっか。じゃああの十字架を目印に一緒に行こう?」

空に見える十字架を指差す。さっき走って逃げたから少し遠くなってしまった。

「……しょうがないな。お前、名前は?」

「アシェ。アシェ・エクリュ」

「ふうん」

「なんてお名前?」

「……シリルだ。シリル・アルベール。
この紋章見ればわかるだろ!」

シリルは腰に手を当てて、上着に刺繍されたかっこいい模様を見せてくれる。

「……?わかんないや」

「な、な……!」

「早く行こ?シリル」

シリルは驚きながらも渋々ついて来てくれる。
良かった。無事で。ほっと息を吐く。
ぼくはしっかりとぬいぐるみを抱きしめて、十字架を目標に教会へと足を進めた。



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