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2章 第三騎士団
6 お願い
しおりを挟むアシェの顔が真っ青だった。
嫌なことでも思い出したのだろうか。
「ご、ごめんなさい」
「いいんだ。甘い物が飲みたい気分だったからな」
子供なのに、気を使いすぎだ。
この時間、食堂は開いてないからな。
自身の部屋の卓上に設えられた、小さな魔導コンロに鍋を乗せる。
部屋にストックしてあるココアを取り出して、ミルクを注ぎハチミツを垂らす。
疲れた時には甘い物だ。
「かき混ぜてみるか?」
「うん」
「熱いから気を付けろよ」
「はい」
横でじっと見ていたアシェに、ココアの入った鍋を木製のスプーンでかき混ぜるように伝える。甘い香りが室内に広がる。
「甘い匂いがする」
「ココア、好きか?」
「飲んだことない。でも、美味しそう」
「……甘くて美味いぞ。疲れた時に飲んでいる」
混ぜ終えたので2つのマグにココアを注ぐ。
そのうちアシェ専用のマグを買わないとな。
「湯気が……」
「よく冷まして飲めよ」
「あ、ありがとう……」
マグを受け取ったアシェは、両手でしっかり抱えてふーふーと息を吹きかけ、一口。
「あ、熱っ。あ、甘い。美味しい!」
「感想が忙しいな。美味いだろう」
アシェの素直な反応に、つい口元がほころぶ。
「さっき何を見ていたんだ?」
「窓ガラスのぼくと、目が合って。お義母さんはぼくと目が合うと、嫌な顔をするから……」
義母たちの呪縛はそう簡単に解けないだろう。
アシェはマグの縁を見つめている。
「オレはアシェを、義母や義兄と引き離したのは間違っていないと思っている。ここにはあいつらはもう来ない」
「はい」
「ここがアシェの、新しい居場所だ。……まだまだ未熟だった団員たちの面倒をずっと見てきたオレが、アシェを見捨てると思うのか?」
問いかけに対してアシェは首を横に振る。
「思わない。……ヴァルドさんは憧れの、騎士様」
ふっと息を吐いて、マグを置く。
「それは買い被りすぎだ。まあいい。
ひとつアシェに、お願いしたいことがある」
「はい!」
アシェは身体を乗り出して、まっすぐこちらを見つめてくる。
何か期待しているような、役に立ちたいと思っているような――そんな瞳だった。
「……甘えていい」
「え?」
「アシェはまだ子供なんだ。
オレに、甘えてくれ」
……妙なことを言っただろうか。
アシェは首を傾げている。
「ヴァルドさんのお願い。聞く!
でも甘えるって?」
「そこはのちのち……自分で考えてくれ」
「……?はい!」
子供らしさを取り戻させるために言ったが、妙なお願いをしてしまったかもしれない。
「“甘える”ぼく、本で読んだんだ。
結婚している女の人が他の男の人を好きになっちゃうお話に書いてあった。意味がよくわからなかったんだけど、“甘えて”っていっぱい出てきて……」
「……それは参考にしなくていい。
その小説はまだアシェには早い」
「……?」
アシェの以前の部屋にあったものだ。
ゴミ捨て場から拾ってきたと言っていた、恋愛小説。何もわからずに読んでいたんだろうな。
教えることが山ほどありそうだ。
だが、楽しみでもあり、そんなアシェをたくさん可愛がりたいと思うのは、おかしな話だろうか。
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