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第1話 十年前
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――これは十年ほど前の出来事だ。
後に『黒の厄災』と言われる、世界の国々を謎の黒い怪物達が襲った事件から…数か月後の事だ。
私は今日も流され続けて生きてきた。
時刻は夕暮れ時、ここは王都の一角にある宿屋だが防音などに気を配った特殊な宿屋であり、多くの者が逢瀬をしたりする…そんな場所であった。
そこで私は――メアは、とある男性と会っていた。
「すまない、メア。君を迎え入れる事が出来なくなってしまった…」
私と一応…婚約者にあたるトマス・クレイソンは苦しそうにそう告げた。
婚約するまで知らなかったが、彼はこの国でも上位の力を持つ有力貴族の次男であったらしい。
それに引き換え私は平民であり”技能なし”、所謂”持たざる者”だった。
トマスは兄が優秀であり、家を継ぐことはないだろう…と、自身の家名も伏せ、家の事は語らず、厄災以前から私に交際を申し込んでいたのだ。
周りの人間は玉の輿だと祝福したのだが…。
私は…貴族の親類になど…”持つ者”の側にはなりたくはなかった…平凡でありたかった。
だから、あまりこの婚姻自体をよくは思っていなかった。
それに…だ、彼はいい人ではあるし、別に嫌っているわけでもない。だが、少し前に起きた厄災の時に関係を少し持つことになっただけで、愛しているか…とまで言われれば、そもそも微妙な所であったのだ。
それに何故彼の様な人物が、何もない私に求婚したのかが分からなかったからだ。
『一目惚れした』などと言っていたが、それだけでは身分や技能を考慮すれば普通はありえないのだ。
だから…。
「いいのよ…トマス。私は気にしてないから、その…無理しなくても」
「む、無理をしているわけでは…!!」
そもそも何故こうなったかと言うと、厄災の後始末が原因であった。
厄災後に行われた掃討戦で、当主である父親と跡継ぎである兄を失ってしまい、当主にならざるを得なくなってしまったからだ。
この国では強さこそが正義であり、強力な技能を持つ者は平民から貴族になる事も夢ではなかった。逆に言えば、それを失えば貴族として居るのは難しくなる。
そして、トマスの…クレイソン家は強力な戦士であった当主と長男に加え、多くの部下を厄災とこの掃討戦で失ってしまったらしい。そのため御家存続の危険な状態にあるという。
――この世界では、技能は十人いれば九人は発現すると言われている。つまり、ほとんどの人間は技能を手に入れる。
その大半が五歳から十歳の内に発現するが、大きくなってから発現する者も少ないが存在した。それ故に、この国では技能を持たないからと、あまり卑下される事はあまりなかった。
それは、この国では『”持つ者”が”持たざるを者”を守る』という方針が取られているからでもあった。
――だが例外があった。
”技能なし”の子供はスキルが発現しない…。
これはただの迷信に過ぎないのだが、信じている者は多かった。それ故に、貴族に連なる者は、強力な技能持ちの血縁を重視する傾向があったのだ。
だから当主となった以上、平民で”技能なし”の私とは結婚することは難しくなった…と。
妾という選択肢もあったのかも知れないが、本妻が決まってすらいない上に、没落した状態のクレイソン家からすれば、外聞が悪かったのだろう。
「でも、家の事はどうにもならないでしょう?」
「そ、それに、その子の事もあるだろう…」
「それは…そうだけど…」
私は――少し膨らんだお腹を見た。
彼とは厄災の時に一度しかしていないが、できてしまったのだ…。
だから、私はこの子の幸せのためにも彼と婚約する事にしたのだが…。
「その…養育費も何とかするから…」
トマスはそう言って引き下がらなかった。
確かに…私一人で子供を育てていくのは大変だろう…。それは分かっていた。
今の彼の家でも一人分の養育費ぐらいはどうにかなるだろう事も。
だが、それと同時に家を建て直すのも難しい…という事も分かっていた。
「必ず迎えに行くから! 待っていてくれ!」
そして…彼はそう言い残し去っていった。
そう、これは十年ほど前の事だ……。
かれこれ、この出来事からそれだけの月日が流れたのだった…。
後に『黒の厄災』と言われる、世界の国々を謎の黒い怪物達が襲った事件から…数か月後の事だ。
私は今日も流され続けて生きてきた。
時刻は夕暮れ時、ここは王都の一角にある宿屋だが防音などに気を配った特殊な宿屋であり、多くの者が逢瀬をしたりする…そんな場所であった。
そこで私は――メアは、とある男性と会っていた。
「すまない、メア。君を迎え入れる事が出来なくなってしまった…」
私と一応…婚約者にあたるトマス・クレイソンは苦しそうにそう告げた。
婚約するまで知らなかったが、彼はこの国でも上位の力を持つ有力貴族の次男であったらしい。
それに引き換え私は平民であり”技能なし”、所謂”持たざる者”だった。
トマスは兄が優秀であり、家を継ぐことはないだろう…と、自身の家名も伏せ、家の事は語らず、厄災以前から私に交際を申し込んでいたのだ。
周りの人間は玉の輿だと祝福したのだが…。
私は…貴族の親類になど…”持つ者”の側にはなりたくはなかった…平凡でありたかった。
だから、あまりこの婚姻自体をよくは思っていなかった。
それに…だ、彼はいい人ではあるし、別に嫌っているわけでもない。だが、少し前に起きた厄災の時に関係を少し持つことになっただけで、愛しているか…とまで言われれば、そもそも微妙な所であったのだ。
それに何故彼の様な人物が、何もない私に求婚したのかが分からなかったからだ。
『一目惚れした』などと言っていたが、それだけでは身分や技能を考慮すれば普通はありえないのだ。
だから…。
「いいのよ…トマス。私は気にしてないから、その…無理しなくても」
「む、無理をしているわけでは…!!」
そもそも何故こうなったかと言うと、厄災の後始末が原因であった。
厄災後に行われた掃討戦で、当主である父親と跡継ぎである兄を失ってしまい、当主にならざるを得なくなってしまったからだ。
この国では強さこそが正義であり、強力な技能を持つ者は平民から貴族になる事も夢ではなかった。逆に言えば、それを失えば貴族として居るのは難しくなる。
そして、トマスの…クレイソン家は強力な戦士であった当主と長男に加え、多くの部下を厄災とこの掃討戦で失ってしまったらしい。そのため御家存続の危険な状態にあるという。
――この世界では、技能は十人いれば九人は発現すると言われている。つまり、ほとんどの人間は技能を手に入れる。
その大半が五歳から十歳の内に発現するが、大きくなってから発現する者も少ないが存在した。それ故に、この国では技能を持たないからと、あまり卑下される事はあまりなかった。
それは、この国では『”持つ者”が”持たざるを者”を守る』という方針が取られているからでもあった。
――だが例外があった。
”技能なし”の子供はスキルが発現しない…。
これはただの迷信に過ぎないのだが、信じている者は多かった。それ故に、貴族に連なる者は、強力な技能持ちの血縁を重視する傾向があったのだ。
だから当主となった以上、平民で”技能なし”の私とは結婚することは難しくなった…と。
妾という選択肢もあったのかも知れないが、本妻が決まってすらいない上に、没落した状態のクレイソン家からすれば、外聞が悪かったのだろう。
「でも、家の事はどうにもならないでしょう?」
「そ、それに、その子の事もあるだろう…」
「それは…そうだけど…」
私は――少し膨らんだお腹を見た。
彼とは厄災の時に一度しかしていないが、できてしまったのだ…。
だから、私はこの子の幸せのためにも彼と婚約する事にしたのだが…。
「その…養育費も何とかするから…」
トマスはそう言って引き下がらなかった。
確かに…私一人で子供を育てていくのは大変だろう…。それは分かっていた。
今の彼の家でも一人分の養育費ぐらいはどうにかなるだろう事も。
だが、それと同時に家を建て直すのも難しい…という事も分かっていた。
「必ず迎えに行くから! 待っていてくれ!」
そして…彼はそう言い残し去っていった。
そう、これは十年ほど前の事だ……。
かれこれ、この出来事からそれだけの月日が流れたのだった…。
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