2 / 18
第1話 十年前
しおりを挟む
――これは十年ほど前の出来事だ。
後に『黒の厄災』と言われる、世界の国々を謎の黒い怪物達が襲った事件から…数か月後の事だ。
私は今日も流され続けて生きてきた。
時刻は夕暮れ時、ここは王都の一角にある宿屋だが防音などに気を配った特殊な宿屋であり、多くの者が逢瀬をしたりする…そんな場所であった。
そこで私は――メアは、とある男性と会っていた。
「すまない、メア。君を迎え入れる事が出来なくなってしまった…」
私と一応…婚約者にあたるトマス・クレイソンは苦しそうにそう告げた。
婚約するまで知らなかったが、彼はこの国でも上位の力を持つ有力貴族の次男であったらしい。
それに引き換え私は平民であり”技能なし”、所謂”持たざる者”だった。
トマスは兄が優秀であり、家を継ぐことはないだろう…と、自身の家名も伏せ、家の事は語らず、厄災以前から私に交際を申し込んでいたのだ。
周りの人間は玉の輿だと祝福したのだが…。
私は…貴族の親類になど…”持つ者”の側にはなりたくはなかった…平凡でありたかった。
だから、あまりこの婚姻自体をよくは思っていなかった。
それに…だ、彼はいい人ではあるし、別に嫌っているわけでもない。だが、少し前に起きた厄災の時に関係を少し持つことになっただけで、愛しているか…とまで言われれば、そもそも微妙な所であったのだ。
それに何故彼の様な人物が、何もない私に求婚したのかが分からなかったからだ。
『一目惚れした』などと言っていたが、それだけでは身分や技能を考慮すれば普通はありえないのだ。
だから…。
「いいのよ…トマス。私は気にしてないから、その…無理しなくても」
「む、無理をしているわけでは…!!」
そもそも何故こうなったかと言うと、厄災の後始末が原因であった。
厄災後に行われた掃討戦で、当主である父親と跡継ぎである兄を失ってしまい、当主にならざるを得なくなってしまったからだ。
この国では強さこそが正義であり、強力な技能を持つ者は平民から貴族になる事も夢ではなかった。逆に言えば、それを失えば貴族として居るのは難しくなる。
そして、トマスの…クレイソン家は強力な戦士であった当主と長男に加え、多くの部下を厄災とこの掃討戦で失ってしまったらしい。そのため御家存続の危険な状態にあるという。
――この世界では、技能は十人いれば九人は発現すると言われている。つまり、ほとんどの人間は技能を手に入れる。
その大半が五歳から十歳の内に発現するが、大きくなってから発現する者も少ないが存在した。それ故に、この国では技能を持たないからと、あまり卑下される事はあまりなかった。
それは、この国では『”持つ者”が”持たざるを者”を守る』という方針が取られているからでもあった。
――だが例外があった。
”技能なし”の子供はスキルが発現しない…。
これはただの迷信に過ぎないのだが、信じている者は多かった。それ故に、貴族に連なる者は、強力な技能持ちの血縁を重視する傾向があったのだ。
だから当主となった以上、平民で”技能なし”の私とは結婚することは難しくなった…と。
妾という選択肢もあったのかも知れないが、本妻が決まってすらいない上に、没落した状態のクレイソン家からすれば、外聞が悪かったのだろう。
「でも、家の事はどうにもならないでしょう?」
「そ、それに、その子の事もあるだろう…」
「それは…そうだけど…」
私は――少し膨らんだお腹を見た。
彼とは厄災の時に一度しかしていないが、できてしまったのだ…。
だから、私はこの子の幸せのためにも彼と婚約する事にしたのだが…。
「その…養育費も何とかするから…」
トマスはそう言って引き下がらなかった。
確かに…私一人で子供を育てていくのは大変だろう…。それは分かっていた。
今の彼の家でも一人分の養育費ぐらいはどうにかなるだろう事も。
だが、それと同時に家を建て直すのも難しい…という事も分かっていた。
「必ず迎えに行くから! 待っていてくれ!」
そして…彼はそう言い残し去っていった。
そう、これは十年ほど前の事だ……。
かれこれ、この出来事からそれだけの月日が流れたのだった…。
後に『黒の厄災』と言われる、世界の国々を謎の黒い怪物達が襲った事件から…数か月後の事だ。
私は今日も流され続けて生きてきた。
時刻は夕暮れ時、ここは王都の一角にある宿屋だが防音などに気を配った特殊な宿屋であり、多くの者が逢瀬をしたりする…そんな場所であった。
そこで私は――メアは、とある男性と会っていた。
「すまない、メア。君を迎え入れる事が出来なくなってしまった…」
私と一応…婚約者にあたるトマス・クレイソンは苦しそうにそう告げた。
婚約するまで知らなかったが、彼はこの国でも上位の力を持つ有力貴族の次男であったらしい。
それに引き換え私は平民であり”技能なし”、所謂”持たざる者”だった。
トマスは兄が優秀であり、家を継ぐことはないだろう…と、自身の家名も伏せ、家の事は語らず、厄災以前から私に交際を申し込んでいたのだ。
周りの人間は玉の輿だと祝福したのだが…。
私は…貴族の親類になど…”持つ者”の側にはなりたくはなかった…平凡でありたかった。
だから、あまりこの婚姻自体をよくは思っていなかった。
それに…だ、彼はいい人ではあるし、別に嫌っているわけでもない。だが、少し前に起きた厄災の時に関係を少し持つことになっただけで、愛しているか…とまで言われれば、そもそも微妙な所であったのだ。
それに何故彼の様な人物が、何もない私に求婚したのかが分からなかったからだ。
『一目惚れした』などと言っていたが、それだけでは身分や技能を考慮すれば普通はありえないのだ。
だから…。
「いいのよ…トマス。私は気にしてないから、その…無理しなくても」
「む、無理をしているわけでは…!!」
そもそも何故こうなったかと言うと、厄災の後始末が原因であった。
厄災後に行われた掃討戦で、当主である父親と跡継ぎである兄を失ってしまい、当主にならざるを得なくなってしまったからだ。
この国では強さこそが正義であり、強力な技能を持つ者は平民から貴族になる事も夢ではなかった。逆に言えば、それを失えば貴族として居るのは難しくなる。
そして、トマスの…クレイソン家は強力な戦士であった当主と長男に加え、多くの部下を厄災とこの掃討戦で失ってしまったらしい。そのため御家存続の危険な状態にあるという。
――この世界では、技能は十人いれば九人は発現すると言われている。つまり、ほとんどの人間は技能を手に入れる。
その大半が五歳から十歳の内に発現するが、大きくなってから発現する者も少ないが存在した。それ故に、この国では技能を持たないからと、あまり卑下される事はあまりなかった。
それは、この国では『”持つ者”が”持たざるを者”を守る』という方針が取られているからでもあった。
――だが例外があった。
”技能なし”の子供はスキルが発現しない…。
これはただの迷信に過ぎないのだが、信じている者は多かった。それ故に、貴族に連なる者は、強力な技能持ちの血縁を重視する傾向があったのだ。
だから当主となった以上、平民で”技能なし”の私とは結婚することは難しくなった…と。
妾という選択肢もあったのかも知れないが、本妻が決まってすらいない上に、没落した状態のクレイソン家からすれば、外聞が悪かったのだろう。
「でも、家の事はどうにもならないでしょう?」
「そ、それに、その子の事もあるだろう…」
「それは…そうだけど…」
私は――少し膨らんだお腹を見た。
彼とは厄災の時に一度しかしていないが、できてしまったのだ…。
だから、私はこの子の幸せのためにも彼と婚約する事にしたのだが…。
「その…養育費も何とかするから…」
トマスはそう言って引き下がらなかった。
確かに…私一人で子供を育てていくのは大変だろう…。それは分かっていた。
今の彼の家でも一人分の養育費ぐらいはどうにかなるだろう事も。
だが、それと同時に家を建て直すのも難しい…という事も分かっていた。
「必ず迎えに行くから! 待っていてくれ!」
そして…彼はそう言い残し去っていった。
そう、これは十年ほど前の事だ……。
かれこれ、この出来事からそれだけの月日が流れたのだった…。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる