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第2話 日常
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ここは王都でも外周部にあたる位置で多くの人が往来する街道沿いの酒場が併設された宿屋だ。外からはガヤガヤとにぎやかな声が聞こえてくるが、時刻は昼下がり、夜からの営業が本番である店内はまだ閑散としていた。
「ねぇ、ママ。いつになったら私達はお屋敷にいけるの?」
娘の――サラは不満げな顔で、何度目になるか分からない質問をする。
「…そんな事分からないわよ」
あれから…十年経った。娘は無事に生まれ、九歳になった。
最初は育てられるか心配であったが、あまり手間のかからない子であったのもあり、特に捻くれる事もなく娘はすくすくと成長した。
「それはいいから、暇なら芋を剥いてちょうだい」
私はこの店で住み込みで働いていた。別に、トマスから送られてくる養育費が足りないわけではなかったが、年々減っていった。別に金額に対して文句が言いたいわけではない、二人で慎ましく暮らす分には十分ではあったからだ。
だが、いつ打ち切られてもいいようにと言うのもあるが、娘の将来のために貯蓄をしておきたかった、もっと良い思いをさせてあげたかった。
「でも、パパは最近会いにも来ないじゃない!」
「…あの人も…忙しいのよ」
彼は会いに来る機会も年々減っていった。娘が生まれてすぐは頻繁に会いに来ていたが…ここ数年は会ってすらいなかった。そして、サラは誕生日にすら来ない事をいまだに怒っているようだった。
彼は必ず迎えに来る…と言ったがもう十年ほど経つ。このまま別れる事になるのも、私は視野に入れていた。
「はぁ、もうすぐ私十歳なのに…そしたら貴族デビューに間に合わないよ…」
「……」
そんな事を言いながらも、芋剥きを手伝ってくれる。
サラは…何故かやたらと貴族になろうとしていた。
まあ、この国で貴族を目指す者は多いので、別に普通の事ではあったのだが。
「貴族なんてそんなにいい物じゃないと思うけどね…」
私は誰に聞かせるわけでもなく、そんな事を呟いた。
貴族になるという事は別に偉くなるだけではない、この国では力ある者はその責も負わなければならないからだ。
「私も強力な技能が発現すれば、貴族になれるのにな~」
そんな娘の言葉に私は少しピクリと反応してしまう。
”スキルなし”の子供はスキルが発現しない…。これは迷信だ。
だが、まだ九歳になる娘には技能は発現していないのだ。
別に技能の有無で人の価値は決定はされない…。
それでも未だに発現しない事に、少しメアは負い目を感じていた。
「そういえば、ママは…別の人と結婚しないの?」
「それは……」
そして最近サラは、たまにこんな事を言うようになった。多少子煩悩な部分も入るが、サラは同年代に比べて賢い子だった。もう迎えには来ないと諦めつつ…いや理解しているのかも知れない。
いまだに私がトマスを待っているのは「待っていてくれ」と言われたからと言うのもあるが、婚姻したのは娘の…サラのためにも、きちんとした父親は必要だと思ったからだ。無論養育費の問題もあったが、結局そのままズルズルと来てしまった…。
また、トマスが没落した状態とはいえ貴族と言うのもあった。
別に貴族にそんな権限はないが彼と関係をもった経緯もあり、自分から別れる…とは言いにくかった。
それに、当時ならともかく年数が経った上で子持ちとなると、相手が見つからない可能性の方が高かったからだ。
「…あまり言うとパパがかわいそうよ」
「むー…」
サラは口にはこそ出さないが、もしかしたら父親が傍にいないのが寂しいのかもしれない、そう考えると申し訳なく思う。こんな事ならもっと早く行動しておくべきだったと。
そして、二人で黙々と芋を剥いていく。夜になればかなりの人々が訪れるため数が多い。それ故になかなかの重労働であったが、給料は良い方だった。
――ウーッ! ウーッ!
そんな時だ、緊急放送のサイレンの音が鳴る。
私はびっくりして、剝いていた芋を落としてしまった。
――ああ、嫌な音だ…。
私はこの音が嫌いだった、と言うのも…。
「あっ、魔物の襲撃かな」
サラの言う通り、基本的に魔物の襲撃を知らせる場合にしか使用されないからだ。
「ちょっと外行ってくるね」
「あっ、こらっ! 待ちなさい!」
そう言うとサラは芋剥きを中止し、外へパタパタと向かっていく。私も片付けをして急ぎ後を追った。
「ねぇ、ママ。いつになったら私達はお屋敷にいけるの?」
娘の――サラは不満げな顔で、何度目になるか分からない質問をする。
「…そんな事分からないわよ」
あれから…十年経った。娘は無事に生まれ、九歳になった。
最初は育てられるか心配であったが、あまり手間のかからない子であったのもあり、特に捻くれる事もなく娘はすくすくと成長した。
「それはいいから、暇なら芋を剥いてちょうだい」
私はこの店で住み込みで働いていた。別に、トマスから送られてくる養育費が足りないわけではなかったが、年々減っていった。別に金額に対して文句が言いたいわけではない、二人で慎ましく暮らす分には十分ではあったからだ。
だが、いつ打ち切られてもいいようにと言うのもあるが、娘の将来のために貯蓄をしておきたかった、もっと良い思いをさせてあげたかった。
「でも、パパは最近会いにも来ないじゃない!」
「…あの人も…忙しいのよ」
彼は会いに来る機会も年々減っていった。娘が生まれてすぐは頻繁に会いに来ていたが…ここ数年は会ってすらいなかった。そして、サラは誕生日にすら来ない事をいまだに怒っているようだった。
彼は必ず迎えに来る…と言ったがもう十年ほど経つ。このまま別れる事になるのも、私は視野に入れていた。
「はぁ、もうすぐ私十歳なのに…そしたら貴族デビューに間に合わないよ…」
「……」
そんな事を言いながらも、芋剥きを手伝ってくれる。
サラは…何故かやたらと貴族になろうとしていた。
まあ、この国で貴族を目指す者は多いので、別に普通の事ではあったのだが。
「貴族なんてそんなにいい物じゃないと思うけどね…」
私は誰に聞かせるわけでもなく、そんな事を呟いた。
貴族になるという事は別に偉くなるだけではない、この国では力ある者はその責も負わなければならないからだ。
「私も強力な技能が発現すれば、貴族になれるのにな~」
そんな娘の言葉に私は少しピクリと反応してしまう。
”スキルなし”の子供はスキルが発現しない…。これは迷信だ。
だが、まだ九歳になる娘には技能は発現していないのだ。
別に技能の有無で人の価値は決定はされない…。
それでも未だに発現しない事に、少しメアは負い目を感じていた。
「そういえば、ママは…別の人と結婚しないの?」
「それは……」
そして最近サラは、たまにこんな事を言うようになった。多少子煩悩な部分も入るが、サラは同年代に比べて賢い子だった。もう迎えには来ないと諦めつつ…いや理解しているのかも知れない。
いまだに私がトマスを待っているのは「待っていてくれ」と言われたからと言うのもあるが、婚姻したのは娘の…サラのためにも、きちんとした父親は必要だと思ったからだ。無論養育費の問題もあったが、結局そのままズルズルと来てしまった…。
また、トマスが没落した状態とはいえ貴族と言うのもあった。
別に貴族にそんな権限はないが彼と関係をもった経緯もあり、自分から別れる…とは言いにくかった。
それに、当時ならともかく年数が経った上で子持ちとなると、相手が見つからない可能性の方が高かったからだ。
「…あまり言うとパパがかわいそうよ」
「むー…」
サラは口にはこそ出さないが、もしかしたら父親が傍にいないのが寂しいのかもしれない、そう考えると申し訳なく思う。こんな事ならもっと早く行動しておくべきだったと。
そして、二人で黙々と芋を剥いていく。夜になればかなりの人々が訪れるため数が多い。それ故になかなかの重労働であったが、給料は良い方だった。
――ウーッ! ウーッ!
そんな時だ、緊急放送のサイレンの音が鳴る。
私はびっくりして、剝いていた芋を落としてしまった。
――ああ、嫌な音だ…。
私はこの音が嫌いだった、と言うのも…。
「あっ、魔物の襲撃かな」
サラの言う通り、基本的に魔物の襲撃を知らせる場合にしか使用されないからだ。
「ちょっと外行ってくるね」
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そう言うとサラは芋剥きを中止し、外へパタパタと向かっていく。私も片付けをして急ぎ後を追った。
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