私の戦う理由 ~帰ってきた英雄はお義兄様~

転落人

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第3話 警報

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 外に出ると付近の城門はすでに閉じられており、門番もいなくなっていた。そしてすでに多くの住民が家から出て、ガヤガヤと話会っていた。

「魔物の襲撃かぁ~久しぶりだな!」
「ちょっくら、俺の技能スキルを見せてやるかなぁ!」
「ハッハッハ! おっさん、それで前の襲撃の時に、腰やっちまったじゃないか!」

 サイレンの音とは対照的に、近隣の住民達はのんきにそんな会話をしていた。
 この世界では魔物と呼ばれる敵性生物が多数おり、襲撃などよくある事だったからだ。
 特に私たちが住むアトラス王国はその昔、元々魔物が多く生息する肥沃な土地を切り開いて建てられた大国であり、魔物の襲撃は生活の一部の様な物でだった。

「何を~? これでも若い頃は”十殺じっさつ”だったんだぞ!」
「ほんとかよ、おっさん…」
「ほら、昔の証明章だけどよ」
「わざわざ、持ち歩いてんのかよ…」

 この世界では…魔物というのは弱い存在だった。
 それは技能スキルが存在するからだ…そして、ほとんどの人間は技能スキルを習得する。だから人は魔物を恐れる事はなかった。
 もちろん中には戦闘に不向きな技能スキルを習得する者もいたが、大半は戦闘に適した物だったのも拍車をかけていた。

 さらには、この国――アトラス王国では魔物を倒せる力量を”〇殺”として称しており、それを国が認定して名誉と勲章を与えていた。例えば、”十殺じっさつ”は『十の魔物を倒せる力量』ではなく、『十の魔物を一瞬で倒せる』という曖昧ではあるがそういう称号だった。

 それぐらいこの国では、魔物はありふれた上に軽く見られる存在であり、人類の敵ではなかったのだ…。

 もはや駆除ではなく、娯楽感覚で倒されていたといっても過言ではない。
 むしろ、この国の数少ない娯楽の一種と言っても良かった。

「今日は魔物見れるかな?」
「さあ、どうかしらね…」

 サラも、そんなのんきな事を言っていた。

 だが、私としては気が気ではなかった。戦闘用の技能スキルを持たぬ人間にとっては正直な所、魔物など恐怖しか感じない…はずなのだが、多くの住民はまるで見物するように王都の外側を眺めていた。
 基本的に王都では、外に常駐する部隊が郊外で退治してしまうため、魔物を見る事など稀だった。だがここは王都でも外周部に位置し、魔物の数や種類によっては城壁を乗り越え、街中に侵入してくる事もあったのだ。

 ――ウーッ! ウーッ!

 再びサイレンの音がなり、私はそれにドキリとする。

『キンキュウ、ケイホウ』

 そして無機質な音声が流れる。

 サイレンは――風の魔術を応用した物で、王都の至る所に配置された装置から音が出る仕組みになっているが、最近ではそれを組み合わせる事により音声の様な物も流す事ができた。

「ん? なんだこの音?」
「緊急警報だってさ」

 近隣の住民が少しざわつき始める。案外知っている者は少ないのかもしれない。

『シュウゲキ、ヨソクハ、ナンセイ』

「ん? 南西ってどこの事だ?」
「……いやここで放送してるんだから、ここの事だよ」
「わざわざ場所の告知出る事なんてあったっけ?」
「数が多いと出る場合があるらしいよ」
「へぇ~」

 彼らの話の通り普段はこのような事はなく、襲撃が来た時と終わった時のサイレンしかなかった。そのため私も気になっていた。

『パターン”クロ”デス。カズハ―ロクジュウ、ヒナンヲ、カイシ、サレタシ…』

「う、嘘っ…」

 私は警報の続きを聞き、思わずそう呟いた。
 それはあの時と…十年前と同じ言葉が入っていたからだ。

「?? わざわざ避難するのか?」
「でもそれって敵前逃亡? ってやつじゃないの?」
「俺たちには技能スキルがあるしな! ハッハッハ!」

 だが、この放送を受けて避難を開始したのは……誰もいなかった。

「というか、パターン”黒”ってなんだ?」
「んー知らないけど、十年前のあれじゃね? お前の親が言ってやつ」
「あーあれか…。でも数は六十って言ってたから、大したことないんじゃね?」
「そういや十年前は、千は超えてたって言うもんな」

 ――十年前の『黒の厄災』の時、防衛部隊の一翼が壊滅し、主戦場となった首都近郊の都市の城壁が破壊され、その都市の一部の地域が被害を受けた…。
 だが、逆に言えばこの国が受けた被害と言えば…それぐらいだった。

 当時の国民は少なからず衝撃を受けたが、その詳細な内容についてわざわざ知る者も知ろうとする者も少なかった。その程度の関心だった。
 今ではすっかり元通りに復旧していて十年前という事もあり、若い者はそもそもこの事件自体を知らない可能性すらあった。

 それなのに避難しろと言われても、ほとんどの人は耳も傾けないだろう。

 魔物の襲撃に慣れているのだから…。
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